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戦前に発行されていた右翼雑誌『明徳論壇』について

 以下の記事で紹介した趣味人・鷲見東一加賀紫水の発行していた雑誌『土の香』に度々投稿していた(注1)が、鷲見は『土の香』の「寄贈図書雑誌」欄にも頻繁に紹介されている。鷲見は様々な雑誌を寄贈しているが、その寄贈品のひとつに『明徳論壇』という雑誌がある。この雑誌のことが気になっていたが、所蔵している図書館や研究施設も少ないのでよく分からなかった。

 
 先日、『明徳論壇』について小林昌樹編『雑誌新聞解題事典1935 附・ジャーナリスト名鑑』(金沢文圃閣、2015年)に掲載されていることを知った。解題によれば、この本は明治憲法下での出版物取締りを執行するために編纂された内務省の内部資料である『全国主要新聞紙雑誌調』『全国思想関係新聞雑誌調』(昭和10年)を復刻したものである。この本から『明徳論壇』の項目を以下に引用したい。

明徳論壇
日本主義 明徳会機関紙
昭和二年五月五日創刊 月一回・五日
発行部数 二〇〇〇-二五〇〇
発行所 芝区田村町六ノ二ノ一 明徳会
印刷所 芝区田村町六ノ二ノ一 山県印刷所
発行編集兼印刷人 庄司野利一 明治三十四年五月一日生
本籍 大阪府岸和田市紙屋町五四一
住所 発行所ニ同ジ
中心人物 主幹 塩谷慶一郎 庄司野利一 浅井正純 平野善三 川口政好
編輯 北條富之輔等
寄稿者 玉来欣三 鈴木善一(獄中通信) 高田豊樹 入江種矩 坂本箕山 中野七生 山田武吉 等
綱領 一、吾人ハ忠誠皇室ヲ尊崇ス
一、吾人ハ全世界ノ皇化ヲ期ス
一、吾人ハ建国精神ニ対スル悪思想悪制度ノ撲滅ヲ期ス
記事傾向 昭和維新断行ノ急ヲ力説シ軍民ノ蹶起ヲ慫慂シ其他直接行動示唆ニ互ル不穏記事ヲ屡ゝ掲載ス(日本主義陣営内ノ友誼関係者ノ言説ヲ広ク掲載ス)
行政処分ノ状況 昭和九年中 発行十二回 禁止四回 削除一回 注意四回
創刊以来 禁止十三回 削除及注意十六回
頒布先 内地、殖民地、満州、支那(個人発送)
(引用するにあたって筆者により現代仮名遣いにあらためた。)

 『明徳論壇』は明徳会が発行していた雑誌で庄司野利一という人物が発行していた雑誌であったようである。主幹である塩谷慶一郎については、田邊三郎『愛国運動闘士列伝』(新光閣、1936年)で以下のように紹介されている。(国会図書館デジコレで閲覧)塩谷は戦前の国家主義者の間では著名な人物であったように思われる。

塩谷慶一郎 明治二十三年大阪に生る。岸和田中学を卒業後、京都第三高等学校に入学、更に東京帝大政治科を中途退学し、大正四年内田良平氏の紹介で、支那に渡り秋山長次郎氏に会う。(中略)昭和二年三月懸案の明徳会を組織し、五月から「明徳論壇」を発行し、日本主義論陣の急先鋒をつとめる(後略)(引用するにあたって筆者により現代仮名遣いにあらためた。)

(注1)詳細は調査趣味誌『深夜の調べ』第1号(2023年)に私が投稿した『土の香』総目次を参照。


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