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梅原北明が作成した『変態趣味研究家名簿』について

 大尾侑子さん『地下出版のメディア史―エロ・グロ、珍書屋、教養主義』(慶應義塾大学出版会、2022年)を最近少しずつ読み進めているが、この本の中で梅原北明が発行していた雑誌『変態・資料』に『変態趣味研究家名簿』(第1輯)という名簿が紹介されている。私はよく分からない蒐集家名簿が好きなので早速確認したかったが、この雑誌は入手困難なので難しいと思っていた。しかしながら、『変態・資料』は2006年にゆまに書房が復刻しており、国会図書館で閲覧できるのに気が付いた。この名簿が掲載されているのは、第3巻第1号から第5号までが収録された復刻版第5巻である。このような名簿は検索できるようにしておくと後々役に立つことがあるので、以下にその内容を紹介しておきたい。名簿には住所、氏名、(趣味的もしくは研究的)蒐集項目が記載されているので、以下の内容もこの順番で記載する。

東京市 伊藤晴雨 縛られた女・「責め」
東京市 再姓外骨(宮武外骨) 百人一首・新聞
東京市 斎藤昌三 禁止物・性崇拝
神奈川県 福山碧翠 マッチ・ペーパー
東京市 川口陟 刀剣
東京市 澤田五楳子(澤田四郎作と思われる) 性崇拝
東京市 藤澤衛彦 地誌・妖性・児童物
東京市 河村目呂二 猫
東京市 鎭目桃泉 ごみ一切
東京市 杉浦非水 ポスター・寅
東京市 南敏 性的玩具
東京市 梅原北明 新聞資料
東京市 池田文痴庵 我楽苦多一切
東京市 水谷幼花 迷子札マッチペーパー
東京市 上田恭輔 性崇拝
東京市 松平康荘 木魚・マッチペーパー
東京市 高橋敬吉 犬玩具
東京市 平凡寺 性に関するもの・骸骨
東京市 藤浪吟蔵 桃
東京市 杉山由之助 大黒
東京市 前田藩札狂 藩札
横浜市 吉田蒼龍 残虐
東京市 小林源太郎 艶本
名古屋市 酒井潔 性的文献
東京市外 岡田朝太郎 川柳
東京市 本間栄次郎 蛸
神奈川県 松本松石 鴆
東京市 伊藤勝次郎 達磨
大連市 伊藤静子 ガラクタ
東京市外 小島政次郎 鶏
東京市 藤波米太郎 猿(錦絵)
東京市外 田中源吉 亀
東京市 藤川政次郎 牛
東京市 大竹昌春 雅楽多一切
東京市 黒岩日出雄 同前
神奈川県 三森保一郎 蟹
東京市 吉田永光 天神
東京市 鈴木金太郎 都々一
神奈川県 都築八郎 船ノ絵
東京市 田村淳二 雅楽多一切
東京市 藤原政實 書画短冊
東京市 保田秀次郎 達磨
横浜市 紅葉愛子 雅楽多一切
東京市 松田昇太郎 同前
新潟県 中川雀子 同前
大阪市 須知善一 宿屋印
愛知県 遠藤雄士 辨慶
東京市 三田村歌子 船(錦絵)
東京市 秋山圭周 性に関するもの
大阪市 大中徳三郎 富士
神戸市 箸方剛平 鶏
神戸市 藤原康弘 馬
神戸市 近藤幸太郎 達磨
神戸市 西林鶴雄 我楽多一切
神戸市 福井清 鬼面
神戸市 梅原秀成 我楽多一切
神戸市 川西健一 布袋
神戸市 澤田逸太郎 陶器類
兵庫県 萩原儀政 船
神戸市外 平井菊松 菊
鳥取県 岡田機外 我楽多一切
京都市 廣田政之進 川柳
東京市 吉田暎二 芝居絵
東京市 小澤幸太郎 蛙
日光町 島内文園 名物票
日光町 杉田好太郎 納札
日光町 中村峰昇 骸骨
東京市 梅津隆夫 引札
大阪市 高畑案山子 マッチ・ペーパー
東京市 高木好次 酒のレッテル
東京市 關すすむ 兎
東京市 三田村富次郎 船
京都市 小西石蔵 鯰
東京市 野口幸吉 鬼
東京市 宮崎政次郎 雉
東京市 鈴木祥湖 鈴
東京市 推橋松亭 琵琶に関するもの
堺市 大澤醇吉 鯛
東京市 重藤助次郎 達磨
神戸市 西浦覚助 絵馬
神戸市 窪田恒太郎 兎
神戸市 元木克 鍾
神戸市 長谷川繁治 不動様
神戸市 堀慎之助 馬
神戸市 渡邊正佐久 猿
兵庫県 大野麥風 土俗玩具
神戸市 吉田萬里 雅落多一切
神戸市 市川徳次 虎
神戸市 岡部叉蔵 雅楽多一切
神戸市 荻野順之亮 盃
神戸市 菱屋文七 釣鍾
神戸市 津島常 雅楽多一切
神戸市 山本杢兵衛 同前
神戸市 末吉櫨山 同前
神戸市外 引田樟一 同前
神戸市 河野善平 犬
神戸市 井上忠乗 龍
神戸市 北出留次郎 猫
神戸市 坪内駒平 大師様
東京市 菅原教三 性崇拝
東京市 陽咸二 支那産諸品
大阪市 青山督太郎 硬い軟派
大阪市 川崎巨泉 人魚
京都市 木戸忠太郎 だるま
神戸市 前田秋皎 筆福物
岩手県 菅原慶夫 同前
大阪市 青賢肇 人魚石文
大阪市 梅谷紫峰 梅に関するもの
大阪市 青山一歩 迷信玩具
静岡県 法月吐志樓 富士山関係
鳥取県 板愈良 同
兵庫県 小澤袋中 袋
兵庫県 豊仲未鳴 蔵票
横浜市 加山道之助 小箱、天神
東京市 田中野狐禅 化物
福島市 富士崎放江 印譜
東京市 山内神斧 外国玩具
東京市 三井高揚 切手

私にとって聞いたことのない趣味人も多く掲載されている。「変態趣味研究家名簿」と名簿名に「変態」と付いているが、一般的のようにみえる蒐集趣味も含まれている。上記に言及した大尾さんの本によれば、「変態」は現在のような性的な意味でなく、福来友吉や中村古峡などが紹介した「変態心理論」、明治期に西欧から輸入されたセクソロジー(性科学)の一分野であった「変態性欲論」に使用されているような意味で、これらの学問は「<逸脱>を扱いつつ、その根底に強い<正常>志向を抱え込んだ学問」であり、当時の「変態」は「現在の卑俗さを帯びたそれとは対照的に、当時の先端的な知と密接に結びついた高尚なものとして流布していた」という。そのため、一般的な人々には理解できないような正常でない蒐集趣味にまじめに取り組み、趣味界の中でも高尚と考えられている人物を掲載したのだろうか。

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