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ナチュラルにインターレイシャル SZA「SOS」に見る、これからの社会の「ブラック・ミュージック」

どうも。

遅ればせながら、今、これをよく聞いてます。

今、世界的に大ヒット中ですよね。SZAのセカンド・アルバム「SOS」なんですけど、いやあこれ、

ちょっと個人的に衝撃だったんですよ!

 最初聴いたときはですね、「すごく曲の書けてるアルバムだなあ」と思ってソングライティングのうまさに感嘆するくらいの感じだったんですよ。で、年間ベストアルバムの原稿とか書いてて忙しい最中に出たから、最初の1週間、ちゃんと聴けてなかったんですね。

で、忙しいのが終わって、アルバム1枚をじっくり聴くじゃないですか。そうしたらこれ

ちょっと、これは、今までで聴いたことあるようで、実は初めて聴くタイプのアルバムかも・・・


と思って、ちょっとびっくりしちゃったんですよね。

 これですね。これまで僕が聞いてきたR&Bと明らかになにかが違うんですよ。

 なんか言うなればですね、R&Bの基礎的な知識なんてなくても誰でも入れる敷居の低さ、これがあるんですよ。これ、ジャンルがどうとかいう以前の普遍的なポップ・ソング集なんですよね。

 だって

今、全世界規模で大ヒットしてる、この「KIll Bill」なんて、別にR&Bでもなんでもないんですよ。歌ってるのが黒人女性という、ただそれだけで。とくにサビのメロディですね。キーボードの裏メロと、それに引っ張られるメロディ、なんかクラシックみたいでもあり、はたまた童謡みたいでもあるというか、そういう普遍性なんですよね。これが形式上、今のR&Bというジャンルの中で最大の人気曲になっているというのが、ちょっと驚きだったんですよね。

 その次に売れてるこの曲に至ってはフォークですしね。ロックの人とか、カントリーの人が歌っても全然自然というか。

 で、かといって、これが極端に白人趣味に寄ってるかといえばそういうわけでもなんでもなく

https://www.youtube.com/watch?v=hdFDrjfW548

アルバム出る一番直前のこれは割と正統なメロウR&Bだったし

 これに至っては思いっきりトラップなわけですからね。しっかり、今の黒人のあいだでの流行りも普通にこなすんですよ。

 ただ、今、僕が示した、こういう4タイプのバラバラなはずの方向性が、不思議なくらいものすごく一貫性持って聞こえるんですよね。これ、すごいなと思ってですね。

 ただ、それでも、一番耳引くのは、メロディがR&Bっぽくない曲ですね。

この曲なんかは弦楽四重奏っぽいクラシカルなストリングス・ナンバーだし

この曲も「Kill Bill」同様にキーボードのコード進行がすごく不思議な曲だし

 これに至ってはフィービー・ブリッジャーズとの共演ですよ!ある意味、もっとも白人的な聞こえ方をしがちなフィービーなフォーク・ソングがダウン・テンポのR&B風になるのはすごく新鮮でしたね。まあ、どんなアレンジでもフィービーにしっかり聞こえる彼女自身の曲と声の強さも流石だと思いましたけど

これもフォークっぽい曲ですけどね。アルバムの中盤にこの手の曲が今回目立つんですよね。

 いやあ、面白いですよ。型にはまらないまま多彩で、しかもどの曲ひとつとっても完成度が高くて。

 これまでのSZAって

2017年のデビュー・アルバム「Ctrl」聴いたときはですね、「ああ、ソランジュとかフランク・オーシャンの系譜のいいネオソウルの人が出てきたなあ」というイメージでした。

2019年に「ブラックパンサー」の主題歌にもなったこの曲を聴いたときには「あんまりこれまでのR&Bにいなかったタイプの歌い方する人なんだなあ」という印象強めて

許年に大ヒットしたこれ聴いたときに、「これまでのR&B系になかった、kawaii系の曲を書いて歌えるんだなあ」と思って感心したり。

そこに

 今回のアルバムから1年先行して出てヒットしたこのシングルだったわけです。

 こういう、前作のアルバムから今作までのあいだの過程での成長と多面性の見せ方のうまさ。これに導かれて、今作の期待値が否応なしに高まっていた。今回のアルバムのいきなりの大ヒットはまずは、そこにあったと思ます。

 そして、その期待値にさらに上乗せする多様性と完成度を聞かされたりでもしたら、そりゃ、騒ぎたくなる気持ちもわかるというものです。

 で、僕、さらに、これ聴いて思ったのは

このアルバムは、現在だからこそ、可能だったアルバムだったんだ


ということですね。

というかですね、たとえば90年代のR&B全盛期にこのアルバムを出したとしますよね。僕、思うに、あの90年代当時だったら下手したらお蔵になってた可能性あるなと思いました。

 なぜかというとですね、80年代とか90年代のR&Bですと、こと「
白人にアピールしたい」となった場合、白人の30〜40代のヤッピー・テイストに合わさなくてはならない感じだったんですよ。だから、リズムの強くないバラードが好まれて。デヴィッド・フォスターみたいなやつですね。そのタイプの曲を歌ってホイットニー・ヒューストンとかマライア・キャリー、あとボーイズIIメンあたりがメガ・ヒットのスターになった時代ですね。

 そうじゃない場合はもう、ひたすらダンサブルでファンキー、そしてヒップホップのストリートっぽさ。そういう「黒人らしさ」を強調した路線ですよね。これがだいたい90sの初頭あたりから強くなってきて、もう2000s入ると、さっき言ったみたいな甘ったるいバラードなんて売れなくなりますから、こっちの「黒人らしさ」の路線一辺倒でしたけどね。

 ただ、これは音楽だけじゃなく、黒人映画もその傾向感じてたんですけど、80年代の黒人カルチャーとか社会が「白人社会に順応しないと」みたいな雰囲気で、成功する人とそうでないアーティストやクリエイターの差がすごく激しい時代だったんですよね。その反動で、ヒップホップだったり、スパイク・リーの映画だったりは「白人に迎合しない黒人らしさ」の主張に走ったし、そうすることにかなり説得力もあったんですよね。僕自身も、そういうメッセージ性に惹かれていたところはありました。

 ただ、それが長く続けば続くほど、実際の黒人の生活感とはちょっと乖離してたのではないか。そう思うようにもなってきたんですよね。

というのはですね。

2010年代のテレビドラマで、イッサ・レイの「Insecure」だったりミカエラ・コールの「I May Destroy You」みたいに、人種関係なく日常社会に生きる自分を描き、かつ、プライヴェートで主に黒人の気の合う人たちとつきあう、という見せ方をしてるんですよね。これ見たとき、すごく新しいと思ったんですよね。だって、この少し前までの黒人の映画やドラマって、もう黒人しか出てこない勢いでしたからね。

あと「ゴシップ・ガール」のリブート版も、黒人の女の子がヒロインだったりするんですけど、話そのものがすごくインターレイシャルというか、人種の枠は超えた内容です。

 で、なんでこの話をしたかというと、今回のSZAのアルバムに、これら最近の黒人女子ドラマの感触に似たものを感じたからです。

 どういうことか。つまり、黒人だからと言って、黒人の文化要素だけで生きているわけではない、ということです。日常生活では白人をはじめいろんな人種の人と接して友達だし、そういう異人種の友人たちの影響だって受け得る。それがむしろ自然というか、普通。そういうフラットさを感じるんですよね。そして、それは他人種に対して迎合することでもなんでもない。

 このことを表現として素直に認める人が出てきた、ということなのかなと思いましたね。そういうふうな表現を実際に行えているアメリカの黒人アーティスト、現実的にすごく少ないと言わざるをえないですからね。

 で、そこにはSZA本人のバックグラウンドも関係あるのかなとおもってます。彼女、お父さんがCNNのプロデューサーで、お母さんが電話大手のAT&Tの重役なんですね。すごいお嬢なんですよ。この育ち方で、黒人のみとしかコミュニケートしない環境って、ちょっと考えにくいというか。インターレイシャルで当たり前の生活環境によりなりやすいと思うんですよね。

で、SZA自身は今回の「SOS」をこう呼んでいます。

R&Bではなくて、ブラック・ミュージック


つまり、「黒人がやるからって、R&Bとは限らない」ということなんですが、これも僕がここまで言ってきたことにハマるんですよね。「黒人だからと言って、こうじゃなきゃいけないということではない」という。

だから彼女は、ロックもフォークも、ときにはクラシックもアリだというふうに言ってるし、ロックに関しては「もとは黒人起源だ」との認識も、僕が読んだインタビューで語ってます。その意味で、もっと現実の社会を生きている現在の黒人女性としての生活感覚。これが素直に出たのが今回のアルバムなのではないかな、というのが僕の見方です。

 そういう意味では、僕、この人もいみじくも近いのかな、と思いましたね。

はい。アーロ・パークスですけどね。彼女も今を生きる黒人女性の感覚を普通にストレートに音楽で表したタイプですよね。彼女の方がよりインディ・ロックに近いと思いますけど。

 あと、プラス、SZAの歌い方がすごく独特ですね。一昔前のソウル・ディーヴァみたく、頭のてっぺんから通るような声じゃなくて、舌足らずのチャーミングな歌い方で。これも90sまでだったら、「媚びてる」とかなんとか言われて、ダメ出しされてたんじゃないか、という気がしてます。ロックにおけるビーバドゥービーにも同じこと思うんですが、別に男ウケを狙ったわけでもない、天然なガーリーな歌い方をして、同性共感も得られる時代にもなってきてるのかな、とも思ってます。

 だから今回、SZAのアルバム、すごく現在の社会性を反映したアルバムだと僕は思うんですけど、彼女自身は「受け入れられないんじゃないかと自信がなかった」と言ってるんですよね。それだけ、そういう表現がされてきてなかった、ということなんだと思います。でも、それがここから変わるような予感は僕はしてますよ。

 あと、今年の年間ベスト・アルバムには期限の関係で外してしまいましたけど、来年の対象ではあるので、今からかなり前向きに上の方で考えたいと思っているところでもあります。










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