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沢田太陽の2022年7〜9月の10枚のアルバム

どうも。

 このブログでは3ヶ月に1回、その期間を代表するアルバム10枚を発表しているのですが、もちろん今回もやります。

今回10枚に選ばれたのはこういう感じです!


はい。いずれも素晴らしいアルバムの数々でしたけど、早速紹介していきましょう。


Sound Of The Morning/Katy J Pearson

 まず最初に紹介するのケイティJピアーソン。イギリスの26歳の女性シンガーソングライターです。これが2枚目のアルバムとなります。僕はこの人、知らなかったんですが評判を聞いて聴いてみると、まずは鼻にかかった甘えたような高い声での歌い方がすごくチャーミングなのがまず気に入って、サビの部分のメロディがすごくキャッチーなのがさらに引き込まれましたね。基調とするのはフォークではあるんですけど、バロックポップ方面にもインディ・ギターロックにも対応出来る器用さのある、すごく理想的なUKインディ・ポップでしたね。これクレジット調べてみたらダン・キャリーで驚きましたね。フォンテーンズDC、ブラック・ミディ、スキッド、Wet Legを手がける今のイギリス一の売れっ子。もっとひりひりしたポストパンクっぽいイメージがあったので、このポップ・アプローチには驚きましたね。

Guitar Music/Courting

 続いてはイギリスの新人バンドです。コーティング。リバプール出身の4人組ですね。彼らはリリースのあった9月中旬に直前でバズが立って気になって聴いてみたんですけど、かっこなぜもっと騒がれないんだろう」と不思議になるくらい刺激的なニューカマーですね。タイトルはシンプルに「ギター・ミュージック」なんですが、これは「これからのギター•サウンドを作ってやる!」と言う本人たちの意気込みが感じられます。全体的にギター・サウンドにエレクトロを通過した痕跡が感じられ、ときにはグリッチ・ノイズをギターで再現した表現も。ストロークスが2020年のアルバムで表現したサウンドをふた回り若い感性でさらに進めた感じですね。もう少し注目されないかなと思ってます。

Beatopia/Beabadoobee

 続いてはこれまたイギリスになりますね。ビーバドゥービーが2年足らずで早くもリリースしたセカンド・アルバム。デビューの頃はシューゲイザーとか時にポップ・パンクのイメージで、すごく90sというか、ミレニアムのガールズ・ギターロックを思わせた彼女ですが、そのテイストをしっかり保ちながらソングライティング的にさらに充実した1作となりましたね。得意のスマッシング・パンプキンズ色濃厚な「10 36」みたいな曲もしっかりとありつつも、全体としてはフォーキーなテイストが強く、中には「Perfect Pair」みたいなストレートなボサノバ・ナンバーもあって。全体的に渋谷系に通じるおしゃれっぽさがあるんですけど、そこも含めて90sサブカルおしゃれ感がさらに強まった感じがします。そういうとこ、彼女すごく一貫性があるし、ひとつのブランド化しそうな気がします。

Surrender/Maggie Rogers

 今度はアメリカいきましょう。マギー・ロジャースのセカンド・アルバム。2018年1月発表のデビュー・アルバムはリリースの少なかった発売時期にも助けられいきなり全米2位のヒット。ただその時僕は、「フォーク&エレクトロ」のアプローチに面白みを感じず、「メジャーが仕組んだインディ風な女の子」だと思っていい印象抱かなかったんですね。ところが、腰くらいまであった髪をジュリー・アンドリュースみたいな短髪にガラッとイメチェンしてのこのセカンドで大胆変身。全体にテイム・インパーラをかなり強く意識したような、サイケデリック・サウンドを押し出しの強いリズムで力強く表現。パワフルでフューチャリックに自身の世界を広げました。このメイクオーバーに一役買ったのがキッド・ハープーン。ハリー・スタイルズの「Harrys House」の共同プロデューサーですが、ジャック・アントノフ同様、見逃せない存在となってきています。


The Forever Story/JID

 続いてはラッパーのJID。今年は、そこまで派手じゃないものの、なかなか良心的なヒップホップの新作を見受けることが少なくないんですけど、このJコールのレーベル、ドリームヴィルのラッパーは、次のリスペクトを浴びるネクスト・ビッグ・シングになる予感をただよわせてますね。ちょっとプッシャTに似たフニャフニャしたマッチョな感じがしないフロウがなかなかくせになるんですが、これで前半が主にトラップ、後半がネオ・ソウル系のトラップを全くの違和感を感じさせることなく巧みにモノにしてるんですよね。このラップのコントロールと曲の牽引力がいいし、アルバム全体でコンセプチュアルなストーリーをつむげるストーリーテラーとしても立派。ちょっとこの先、気にして行きたい気がしてます。

Cool It Down/Yeah Yeah Yeahs

そして9年ぶりに嬉しすぎる復活のヤーヤーヤーズも入ってますよ。カレン、ニック、ブライアンのトライアングルのアンサンブルはストロークスやインターポールなど強者ひしめきあった2000s前半のニューヨークのインディ・シーンでもアーティな感性に関しては完全に一線を画してて一目おかれてたものでした。ただ、実力的にはシーンの頂点を狙える逸材だったのに、なんかここぞというときに決定打に欠け、本人たちにも欲がないので、なんかポジション的に歯がゆい位置にいたんですよね。ただ今回、時間をかけて戻ってきた彼らは新鮮さこそ初期にはかないませんが、その代わりに以前にはなかったどっしりとした風格、曲のレンジの広さ、さらにはカレンの歌心が備わって成熟しています。サイケデリックでフューチャリスティックでスケールの大きなバラードの「Spitting Off The Edge Of The World」やバンド史上最高おソウルナンバー「Burning」は不可欠な存在になっていくんじゃないかな。

Fossora/Bjork

  そしてビヨークも入ってきました。彼女の場合、この20年というも、孤高の表現者としてのカリスマ性こそ増して行っていたとは思うんですけど、いかんせん楽曲そのものにキャッチーなつかみがなくなり、難解さだけが増していくばかりの時期が結構な長さであって、ちょっと気持ち的についていけず距離を取っていた時期がありました。それが、ここ2作くらいで良い意味で緩和し、また聴きやすくなったなと思った矢先の今作でした。曲の構成こそ不協和音の重なりや複雑な曲展開などあって、注意深く聞かないと曲のイメージがつかみにくかったりもして、リスナー層を選ぶタイプであることは今作も変わりません。しかし、管楽器のアンサンブルを主体とした楽曲構成にはこれまでになかったすごくヒューマンな温かみがあるし、紡がれる歌そのものもすごく丁寧に作られた、「うた」の強いアルバムですね。彼女の作品としては21世紀よりもさらに巻き戻して90s以来に好きかもしれません。

Mr.Money With The Vibe/Asake

 そして、アシャケ。これは馴染みない人が多いかと思いますが、僕としてはかなりの衝撃作でした。今、ナイジェリアのアフロビーツは「次のレゲトン」になるんじゃないかと思われてるくらいにイキのいいアーティストが次々と出てきます。すでにウィズキッドとバーナボーイは世界的な成功を収めてますが、この3ヶ月はそのバーナボーイ、エド・シーランとも共演したファイアボーイDMLと大物の新譜ラッシュだったんですが、でも僕的には同国の9月の話題を独占したアシェケでしたね。これ、なにがすごいかって、フォーマットは生演奏アフリカン・ファンクなんですよ。そこにオートチューンとかデジタルのリズムかまして現代風にしてあるんですけど、アルバムが生演奏なのに曲間がDJミックスみたいに完全にシームレスで、30数分が1曲になってるみたいにつながってるんですよね。これ、ちょっとびっくりです。そして、一度でいいからこれを生で体験したい衝動にも駆られました。これ本当に話題でナイジェリアで記録的なストリームがあったのと同時にイギリスでも22位まで上昇。これから大物になっていくと思います。

Hold That Girl/Rina Sawayama

ここでリナサワヤマです!このセカンド・アルバム、本当に好きで愛聴してます。彼女って、出てきた当初は「レディ・ガガみたいなセレブなダンス・ポップをインディのアンダーグラウンドから目指す人」みたいなところがキッチュなおもしろさを生んでいる人だな、みたいな印象だったんですが、今作はそういう異端な感覚を残しながらも、今すぐ世界のアリーナで勝負できる、非常に完成度の高い良質メインストリーム・ポップを一足飛びにつくりあげましたね。エレクトロの中に、彼女がパンデミックの際によく聞いてたというカントリーっぽいメロディが加わることで、はからずもABBAみたいな、超正統派のユーロポップができあがってしまったというか。とにかくメロディラインが美しく、それを紡ぐ彼女の歌声が過去になく艶やかになってるんですよね。あと、マドンナやキラーズを手がけたスチュワート・プライスの手際の良い楽曲のコライトぶりもいいし、前作でもここぞで威力を発揮していたJポップ風ギターソロも効果的に効いてるし。いろんなとこからの影響で生まれた、すごくオルタナティヴな王道作で面白いです。

Renaissance/Beyonce

そして最後の1枚がビヨンセです!前作「Lemonade」から待つこと5年。あのアルバムが本当にマイケル・ジャクソンでいうところの「スリラー」みたいな、R&Bの域を超えた、いろんな音楽リスナー層にリーチする広大なポップ・アルバムだったのでさすがにあれは超えられない、と思ってたんですね。ところがビヨンセは、アプローチをガラッと変え、ポスト・パンデミックの開放感、そして音楽的なインスピレーションをくれた彼女のおじさんへのリスペクトが、惜しみなく表現されたアルバムになってますよね。これ、いうなれば、70s後半の時代の象徴だった「ディスコ」を今の解釈でやってみたようなアルバムなんですけど、ドナ・サマーの名作アルバム「Bad Girls」をハウス・ミュージック風にヴァージョン・アップして、そこにラテン・フレーヴァーも混ざった後期マーヴィン・ゲイ風のアプローチも加わったりして。そういう意味で、すごく前向きな新しさもありながらも、同時にかなりしっかりとした温故知新の基盤の上に成り立った含蓄の奥深い傑作だと思います。


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