感情や心境が仕事の成果を左右する
インナーワークライフとは「個人的職務体験」のこと。ビジネスの成功と本人の幸せを両立させるためには、ポジティブな感情、強い内発的なモチベーション、仕事仲間や仕事そのものへの好意的な認識を育める環境を作り出すことが大事です。
「進捗の法則」とは、「やりがいのある仕事が進捗すること」であり、マネジメント職の人が部下の進捗をサポートすることで、部下のモチベーションや内発的動機を高めることにつながります。個々人のパフォーマンス、つまり個人が選択して行う仕事、それにどれほどの労力を費やすか、どれほど創造的であるか、仲間たちとどう接するかは、個人の認識、感情、モチベーションの複雑な相互関係に左右されます。これは脳の仕組みと密接に結びつくもので、人間である以上切っても切り離せない側面です。
学生を卒業して社会に出ると、人生の多くの時間は仕事に費やされることになります。ですが会社でのパフォーマンスという価値もさることながら、大前提として人間としての価値があることを忘れてはいけません。私たちはポジティブな職場生活という尊厳を与えられるべき。自分の仕事に満足して、幸福で、仕事への愛で内発的に動機づけられているときの方がパフォーマンスが高く、そうでないときはパフォーマンスが低下することは多くの研究で示唆されています。
その日の気分がポジティブであればあるほど、その日の創造性は増すといわれていて、被験者に日記を書かせる実験では、ポジティブな気分を記した日々の方が、ネガティブな気分を記した日々よりも創造的なアイデアを思いつく確率が50%も上がったという記録もあります。
「孵化(ふか)効果」とは、前向きな気分は思考をより広範に刺激して、より多くの認知バリエーションを持たせて、一日かそれ以上持続するという効果。だからこそ朝起きてから仕事を始めるまでに、いかにポジティブな気分を創出するかは非常に重要です。孵化効果の蓄積は、長期的に見てビジネスや人生の成果につながることは間違いありません。
また逆に、社内、組織でリーダー的な立場にある人は、部下からどのように見られているかを軽視すべきではないかもしれません。ポジティブに捉えられ、協力的で協働的で、新しいアイデアにオープンであり、公正に育んで評価して、革新的なビジョンを重んじて、創造的な仕事を積極的に称える人だとみなされている場合、部下の仕事は創造的になります。一方、社内政治や内部競争に躍起になって、新しいアイデアに厳しく批判的で、リスクを嫌う人だとみなされている場合、部下の創造性は著しく低下するようです。
ノルマを与え、日々厳しい言葉で部下を鼓舞するマネジメントは、かつて多くの企業で行われていたと思われます。私も例外なく、そのような環境下で鍛えられました。それが良かったのか悪かったのかは今となっては計りかねる部分もありますが、上述した考え方を学ぶと懐疑的にならざるをえません。コンサルという立ち位置で、ときにリーダー的な役割を担うこともありますが、その場合、周囲に対していかに振る舞うべきかは常に自問していきたい。周囲の人の心をどのように扱うか。決して媚びるわけでもなく迎合するわけでもなく、インナーワークライフをどのように捉え、考えて行動するか、だと思っています。
久保大輔