クリニックは大きな旗印を掲げるべきか?その1
けやき脳神経リハビリクリニックの林です。11月に目黒不動前にて開院予定のクリニックの院長をしています。(1ヶ月遅れることになりました!すいません、、、)
今日は病院・クリニックが掲げる理念についてお話したいと思います。
どんな会社、組織もその存在理由として「理念(ミッション、ビジョン、バリュー)」を掲げるのは非常に重要です。なぜその会社が存在するのか?が明確でないと、様々なバックグラウンドで生きてきた人たちがその会社のために集まって仕事をする上で、まとめていくことは難しいです。
それは病院・クリニックにおいても同じで、やはり理念が明確でないと方向性が決まらず、リクルート活動や、プロジェクト方針の拠り所としても難しいのではないかと考えています。
詳細については以下のビジネス名著を是非ご参照ください。
ジム・コリンズ 「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」
ピーター・ドラッカー 「非営利組織の経営」
ここで、2016年にプノンペンで開院したサンライズジャパン病院について少しお話させてください。同院は「日本の高品質な医療を、医療がまだ乏しいカンボジアにて提供する病院を作る」「現地の医療者と日本の医療者が共に働き、教育しながら医療を提供する」という明確なコンセプトがある病院でした。私は2009年より本病院立ち上げのプロジェクトリーダー、そして2016年開院後は初代院長として本プロジェクトに関わってきました。
2013年、いよいよ病院立ち上げが決まり、事業計画を立てて準備していく中で最初に取りかかったのが理念の策定でした。先にあげたように、「日本の高品質な医療を提供する病院、そしてカンボジア人と共に働き教育する病院」という明確なコンセプトがあるので、これを理念にしても良いかもしれません。
しかしながら、私はこれでは一緒に働くカンボジア人スタッフはどこか受け身な感じになってしまうのではないかと考えました。日本の先生たちに教えてもらう、日本からいい医療を提供しに日本人が来てくれる、という感じが出てしまいます。教えられて当たり前という病院ではなく、みんなで一緒に良い病院を作るんだ、良い医療を現地カンボジアの人たちに届けるんだというところを、日本人医療社もカンボジア人医療者も、また経営に関わる日本のビジネスサイドも、みな同じ気持ちで足並みを揃えたいと思いました。それには、皆が同じ方向を向ける理念を作ることが重要だと思ったのです。
そこで思案を重ねた結果、
「世界一信頼される病院を目指す(aiming for the most reliable hospital on the world)」
というミッションを掲げることにしました。
当時カンボジアでは多くの市民が、自国の医療を信頼できず、病気になるとみなタイやベトナム、シンガポールに訪れ医療を受けて帰ってくる、メディカルツーリズムが当たり前になっていました。軽い風邪でも、出産でも、「すべて」においてです。
自国の医療が信頼できずに患者さんが外国に行ってしまう状況が続くと、その国の医療経済は回らず益々その国の医療は発展しませんし、また医療者が教育を受けられる機会も広がりません。市民にとっても、自国の医療が発展しないことで、平時はよいとしても救急時に助かる命も助からなくなってしまいます。事実、交通事故による死亡率はなんと日本の100倍という状況に陥っておりました。
医療が乏しいカンボジアに病院をつくるということは、この社会課題を解決するということと同じ意味だと思いました。カンボジアの人たちが安心して自国で過ごし、自国で医療をうけられるようになるためにカンボジアに病院をつくるという根本理由に立ち返り、「世界一」信頼される病院をみんなでつくろう、というのを病院の存在理由としました。「日本」という言葉は、すでに病院の名前にも入っていますし(サンライズジャパン病院)、日本独自の医療というのではなく世界水準の医療をやりたいわけなので、理念からは外しました。一方で「カンボジアだからといって気を抜くようなことがあってはいけない、ライバルはシンガポールのRaffles病院であり、タイのBumrungrad病院であり、日本の聖路加国際病院なのだ」という気持ちを込めて、あえて「世界一」という壮大な目標を立てた病院理念といたしました。
この理念が決まってからは、開院立ち上げや開院後でも事あるごとに運営の指針となりました。このサービスは理念に合致しているのか、患者さんからの信頼を得る行いなのかといったように理念に常に立ち返ることで、日本人・カンボジア人共に、対等な立場で話し合うことができました。カンボジア人スタッフはさることながら、日本人スタッフも、「我々は日本を代表し、世界チャンピオンを目指して取り組んでいるんだ」という気概をもち、相応の覚悟をもってプノンペンにて奮闘をする旗印となりました。
開院7年を経過したサンライズジャパン病院ですが、2024年の今でも同じ理念の元、多くの現地カンボジア人に愛される、現地に根付いた医療を提供する病院となっています。
一橋大学の名和高司教授は著書「パーパス経営」で、「志(こころざし)」を基軸とした「志本主義」がこれからの時代に重要だと捉えており、そこでは『思わず心が「ワクワク」してくるような崇高な目標を掲げること』を、重要な要件として提示されています。
サンライズジャパン病院での経験もふまえて、専門職の集まりである病院やクリニックにおいても、皆がワクワクするような大きな目標を掲げて、一つになって取り組んでいくことが重要だと私は考えています。
ここまでお読みいただきありがとうございました!次回は新しく開院する「けやき脳神経リハビリクリニック」の理念についてお話していきたいと思います!