OPEC+による200万バレル減産と米国の反応
10月5日、OPEC+は11月から原油生産枠を参加国全体で200万バレル/日下方修正減らすことを決定した。各国の生産枠の修正幅は下表の通りである(単位:1000バレル)。
OPECのハイサム・アル=ガイス事務局長は減産の決定について、世界経済に景気減速の兆候が出てきており、市場の安定性を保つために先手を打って200万バレルの生産調整を行うことを決めたと述べている。また、生産枠の減少は200万バレルであるものの、元々生産目標に達していない国がいることから、実質的な減産量は100万バレルになるとの見通しを述べるとともに、政治的な動機に基づいた決定であることを明確に否定している。
ロシアによるウクライナ侵攻直後には一時130ドル/バレルに達した油価であるが、その後6月中旬までは上下動しながら120ドルまで上昇基調にあった。しかし、欧米諸国によるロシアの原油輸出を抑制する試みは中国やインドが買い支えをしたことで奏功せず、6月中旬以降は油価も下落に転じ、9月末には開戦前の価格を下回る80ドルまで下がっていた。
実態を伴っていない生産枠の修正、そして油価の下落が続く中での減産の決定は産油国にとって経済的に合理的な調整であり、ロシアに与するという政治的な動機が無かったとしてもOPEC+は同様の決断に至ったように思われる。サウジアラビアのアブドゥルアジーズ・エネルギー相が「我々は第一に自国の利益を重視しており、次に我々を信頼してくれたOPEC+の参加国の利益を重視している」と述べたように、産油国にとって減産は理に適った判断だったと整理されている。
産油国の主張を裏付けるように、OPEC+の減産決定後の原油先物市場での油価の動きは、過去数カ月の中では大きな変化であるものの、2月のロシアのウクライナ侵攻時と比べると小幅に収まっている。今後上昇基調がどこまで続くか次第であるが、今のところ市場は冷静に事態を見極めようとしていると言えるかもしれない。
一方、こうした産油国の論理や市場の状況とは別に、米国からはOPEC+に対する批判が噴出している。米国政府から発出された声明では「(バイデン)大統領は目先のことしか見ていない(OPEC+の)決定に失望している」と不満を露わにし、米政府報道官は「OPEC+がロシアと協調している(is alining with)ことは明らかだ」と非難した。
さらに、中間選挙の直前ということもあってか、米議員からは産油国により直接的に圧力をかけることが訴えられている。その一つが、OPECという"カルテル"に対する訴追の免責を取り払う「石油生産輸出カルテル禁止法(NOPEC)」の整備であり、今回のOPEC+の決定を受けて民主党・共和党双方の複数の議員が同法案の審議を提案している。
米国政府が具体的な措置に踏み込むのは中間選挙後になると見られ、実際にどのような行動に出るかはその時の市場の状況次第だが、一度悪化したサウジアラビアに対する国民感情は大きく変わることはないだろう。12月に開かれる次回のOPEC+会合にて今度は増産に踏み切るような弾力的な対応が無い限り、産油国と米国の対立は固定化することになるかもしれない。
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