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HTS指導者のアフマド・シャルアがシリア暫定大統領に就任

1月29日、シャーム解放機構(HTS)が主導するシリア政府の軍事作戦総司令部は革命勝利宣言会議を開催した。HTS指導者のアフマド・シャルアは勝利演説を実施するとともに、革命勝利宣言声明を発出、その中でシャルアが移行期における暫定大統領に就任することが発表された。

シリアでは昨年12月8日にHTSがアサド政権を打倒して以降、暫定政府の運営や軍・民兵勢力の再編においてHTSが主導権を握っており、HTS指導者のシャルアはシリアの事実上の最高指導者として振る舞ってきた。他方、新政府におけるシャルアの肩書きは軍の総司令官であり、政治的な権限については明確にされてこなかった。今回の決定によりシャルアは名実ともにシリアの国家元首となったことになる。

勝利演説を行うアフマド・シャルア
出所: シリア国営通信(SANA)

さらに革命勝利宣言声明は、2012年憲法の停止、旧体制の議会・軍・治安機関・政治団体の解散、旧反体制派の民兵勢力の解体と国家機関への統合に加え、新たな憲法が制定されるまで大統領が組織する立法評議会を設置することが発表されている。

昨年12月10日発足した暫定政府は3月1日までの任期とされているが、残り1カ月で政治移行が完了する見込みは皆無であろう。シャルアは12月末のサウジ資本メディアのAl Arabiyaによるインタビューにおいて、憲法の起草には3年、選挙の実施には4年かかるとの見込みを述べていたが、今回の声明では選挙の実施やタイムスケジュールについては触れられていない。シャルアの発言も公式の決定ではなく、暫定政権による統治は3月1日以降も長期的に続くことになる可能性が高い。

革命勝利宣言声明原文
出所: シリア国営通信(SANA)

暫定政府の発足がダマスカス解放の2日後に早々に実施されたのに対し、シャルアの大統領就任がこのタイミングになった理由は不明である。一つの可能性として、就任翌日の1月30日にカタールのタミーム首長が国家元首として初のシリア訪問を果たしており、外交儀礼としてシャルアの格を引き上げておくべきとの判断があった可能性はある。アラブ諸国は新生シリアとの距離感を探っているが、1月12日にサウジアラビアは欧米諸国やアラブ諸国、トルコ等17カ国の外相級を招いたシリア会合を主催し、シリアへの復興支援と制裁の解除を呼び掛け、新生シリアへの関与を深めようとしている。欧米諸国は、1月6日に米国が、1月27日にEUがシリア制裁の緩和を決定したが、制裁の全面解除には至っていない。こうした状況においてアラブ諸国からの経済支援はシリア復興の鍵になることから、新政府はアラブ諸国との関係強化と国内の統治基盤の整備を急いでいるのかもしれない。

カタールのタミーム首長(左)をダマスカス空港で出迎えるシャルア大統領(右)
出所: カタール国営通信(QNA)


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