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独立系メディアとホンデュラスが民主主義を取り戻すまで

報道の自由という点では、意外に思うかもしれませんが、日本は、民主主義かつ経済的に発展している国としては低いほうです。
どう報道の自由を測定するのか、という基準にもよるものの、よく使われている「Reporters without borders」からは、2024年は日本は70位です。
主要メディアがRupert Murdock(ルパート・マードック)さんのような大富豪(ネオリベラリズムを推し進める大富豪のうちの一人)に大きくコントロールされていて報道が非常に偏っていると感じるThe UK(イギリス、北アイルランド、ウェールズ、スコットランドの連合4か国)でさえ、23位で、日本よりずっと報道の自由が高く評価されています。

The UKやヨーロッパ、アメリカでも、主要メディアが既に一部の大富豪たちの手に握られていることを憂慮、反発する動きから、多くの独立系メディアが立ち上がっています。
The UKだと、Novara Media(ノヴァラ・メディア)Double Down News (ダブル・ダウン・ニュース)、アメリカだとThe Intercept(ザ・インターセプト)、Dropsite(ドロップ・サイト)、Democracy Now!(デモクラシー・ナウ!)等があります。
上記で活躍しているジャーナリストたちは、ほかの主要メディアで長年働いた経験がある人たちが多く、今も主要メディアに寄稿しているひともいます。
これらのメディアの多くは、視聴者や読者からの献金によって成り立っていて、大富豪や大企業からの影響を受けないための大きな努力を行っています。
ジャーナリズムを行うには当然資金は必要ですが、大企業からの大きな献金を受け入れると、その企業の思惑に沿った報道をしないと献金打ち切りとなり、何もできなるけれど、企業の思惑に沿った報道しかしないのであれば、それはジャーナリズムではなく、その企業の広告塔の役割を果たしているだけ、ということになります。
日本の場合は、数社の主要新聞社の独占状態で、かつこれらの新聞社が大きなビジネスの一部として存在していること、社会的(男女の不平等がとても強い)・伝統的・ビジネス業界からのプレッシャーが強く、ジャーナリズムの独立性を保つことがもともと難しい状態であり、メディア業界全体が、政治等の報道についてSelf-censorship(セルフ・センサーシップ/自己検閲)を強くかける傾向があると指摘している調査もあります。

今回は、この独立系メディアの中の、The Intercept(ザ・インターセプト)のポッドキャストでたまたま聞いたインタヴューが興味深かったので、このインタヴューについて。
Paywall(ペイウォール/有料の壁)いので、下記より聞けます。
Honduras, 15 Years After the Coup: An Interview With Ousted President Manuel Zelaya/ホンデュラス 軍事クーデータの15年後ː (軍事クーデーターで)排除された大統領、マヌエル・ゼラヤさんとのインタヴュー」

ホンデュラスと聞いても、位置がすぐに思い浮かばないかもしれませんが、中央アメリカで、メキシコやキューバとも近く、その地勢のせいで、アメリカが自国の国益にならないと判断した南アメリカの多くの国々の政治に介入し、regime change(レジーム・チェィンジ/政権交代)を直接的・間接的に行った際の拠点として使われた地域でもあります。
ちなみに、20世紀には、アメリカは、南アメリカで民主主義的に選ばれた大統領や首相をクーデーターで殺したり、民主主義で国民たちに選ばれた政党に対して反対する地元の民兵グループ等に資金を大きく流し、武器を与え、軍隊訓練も行い、かつ経済を不安定にさせて主要政党の国民からのサポートを減らすために、多くの経済制裁政策も行ったりして、間接的にクーデーターを起こしたことは、よく知られています。
アメリカの政治家、故ヘンリー・キッシンジャーさんは、これらの直接的・間接的クーデターに深く関与していて、ノーベル平和賞を受け取ったことは、当時でも今でも議論があります。

アメリカの政策は、アメリカと西ヨーロッパ(旧植民地宗主国)がつくった経済システム(アメリカと西ヨーロッパが、ほかの国々の資源・労働力を搾取し続け、自分たちのみに富が蓄積するようにする経済システム)を続けることで、変わっていません。
時代によって、「共産主義と民主主義のたたかい」だったり「文明のたたかい(敵は野蛮な国々=非白人・非キリスト教の国々や文明)」等、もっともらしい名目をつけますが、基本は、既存特益層(アメリカと西ヨーロッパ、西ヨーロッパが武力で乗っ取りマジョリティーとなったオーストラリアやニュージーランドも含む)に、権力と経済力とコントロールが集中する状態を保つことです。

ホンデュラスの場合も、民主主義で選ばれた大統領のマヌエルさんが軍事クーデーターでほかの国に追放となったのは、アメリカがホンデュラスの軍部に資金や武器を流し、間接的にクーデーターをサポートしたと考えられています。
これは、20世紀のことではなく、つい最近の2009年に起こりました。
実は、ホンデュラスで、アメリカ、或いはアメリカの大企業が介入して民主的に選ばれた政府をクーデターで引きずり下ろし、代わりにアメリカ・アメリカ企業の利益のために動く傀儡政権を設立したのは、これが初めてではありません。
この件については、少し後に。

ホンデュラスでは、市民たちは、アメリカをバックにつけている右派政府に反対して、長い間抵抗を続け、2022年に、マヌエルさんの妻のXiomara Castro(シオマラ・カストロ)さんが民主的な選挙で勝利し、大統領として就任しています。
マヌエルさんもシオマラさんも、目指しているのは、富が平等に人々に行きわたること、極端な貧困をなくし誰もが衣食住が十分にあり、公共サービスは質が高くアクセスしやすく、誰もが安心して暮らせ、個人のポテンシャルが最大限に開発・発揮できる社会をつくる、社会正義を基盤として人間が市場ルールの上に置かれる等、どこからみても、人間的なものなのですが、アメリカのようなネオリベラリズムが浸透している国の政治(=政治家は富裕クラスやグローバル企業の言うなり)からは、脅威となります。
なぜなら、富が平等に行きわたる、一人一人の人権が平等に尊重される社会ができると、グローバル企業は、労働者の賃金を低くしたり労働条件を悪くして、労働者を搾取して儲けることが難しくなるし、富が平等にいきわたる地域では、企業や富裕層からもきちんと税金を取ることになります。
そうなると、既存特益クラスには、とても都合の悪いものとなります。
中央・南アメリカ大陸はある程度大きいし、しかも、アメリカのすぐ近くなので、それは絶対に止めなくてはならない、直接・間接介入しなければ、ということになります。

「Banana Republic(バナナ・リパブリック/バナナ共和国)」という概念は、ホンデュラスが源だと言う説もあります。
これは、「小さく、貧しく、政治的に不安定な国で、この弱さは、一つの作物と外国からの資金に極端に頼っていることからきている」となりますが、ホンデュラスに目を付けた当時の大企業Cuyamelフルーツ会社は、バナナの栽培地の権利と労働力を格安で確保するために、1911年にアメリカの傭兵を雇い、ホンデュラスの軍事クーデーターをサポートし、自分たちの企業の利益のために動く傀儡政権を入れました。
これらの傀儡政権は、権威主義で、自国の国民を厳しく締め付け、労働者が結束して給料の交渉をすることを不可能にしたりと、自国の資源と自国民を犠牲にして、アメリカやアメリカ企業がお金儲けをすることを助けました。
これは、ホンデュラスに限った話ではなく、多くの南アメリカの国々が長年にわたって経験してきたことです。

チリやアルゼンチンも、アメリカが背後にいるクーデータの後、アメリカの傀儡政権がインストールされ、軍事独裁政治や権威主義が行われ、多くの人々の人権や自由が奪われ、民主主義をサポートする人々は牢獄へ入れられたり、殺されたりして、多くの人々が亡命せざるを得ない状況になりしました。

ホンデュラスでも、アメリカの傀儡政権である右派が政権をクーデーターにより設立した後の15年間は、民主主義を求める活動家の多くが深刻なハラスメントにあったり、牢獄に入れられたり、殺害されました。
他の国へ亡命した人も数多くいます。
このアメリカの傀儡政権反対派への弾圧には、アメリカ政府も間接的に関わったとみられています。
また、経済的には、アメリカ主導のネオリベラリズムのイデオロギーが適用され、ホンデュラスの大切な国の資源は格安でグローバル企業へと売り渡され、その利益は政府関係者や軍隊幹部、一握りの実業家等に私物化され、政治の腐敗が大きく進みました。
貧富の差は大きく拡大し、貧しかった人々はさらに貧しくなりました。

この15年間のうちホンデュラスを統治していたJuan Orlando-Helnandez (フアン・オルランド・エルナンデス)元大統領は、現在、麻薬密売カルテルに深く関与しアメリカに大量の麻薬を密輸出していた罪でアメリカの刑務所で服役しています。
アメリカ政府は、フアンさんが麻薬密売カルテルに深く関与していたことを知りながら、ずっとフアンさんと政府をサポートしていました。

こういった歴史から、南アメリカの普通の人々(既存特益層で、アメリカ傀儡政権から大きな利益や特権を得ていたエリート層を除く)は、アメリカが中東やアフリカに「民主主義を広める」ことなどを名目として、侵攻したり侵略することに、皮肉なまなざしをもってみています。
なぜなら、彼らは、自分たちが経験してきたことから、これらの名目は嘘で、単にアメリカ・アメリカ企業の利益を守るためだけであって、攻め入った先の国々の人々の命や社会を犠牲にすることは、全く気にしていないことを知っているからです。

多くの南アメリカの国々は、本当の民主主義を手にするために、長い間闘い続けています。
この闘いには、いわゆる教育レベルの高い活動家たちだけでなく、多くの普通の人々が忍耐強く続けてきました
ホンデュラスのように、民主主義を取り戻しても、その前の政権が法律や憲法を変え、政治システムも変え、それによって政治腐敗を行ってきた政治家たちを合法的に政治から取り除くことはとても難しく、民主主義で選ばれた政府が樹立できても、民主主義をすぐに行う、というわけにはいきません。

マヌエルさんは、現在のホンデュラスの政治状況を、「独裁主義の頭は取り除かれたけれども、その身体は今もここに存在して生きていて、死がちかづいてきていることを感じ取って(精一杯に)蹴ったり、撃ったりしている」と表現していました。
南アメリカの多くの国々はスペインに長く植民地国として占領されていたのでスペイン語が公用語ですが、スペイン語が母国語の人々の表現は、とても生き生きとしていてカラフルな印象があります。

それでも、マヌエルさんはホンデュラスの未来に対して希望を持ち続けています。
そこには、現在のホンデュラスの政府の閣僚たち、運営している人々が、とても若い年代であることも大きく影響しています。

マヌエルさんが言っていたことで印象に残っているのは、以下です。

「私たちは、アメリカに共同責任がある現在のWorld order(ワールド・オーダー/世界秩序)に対して、ヒューマニティーを要求しなくてはなりません。アメリカとアメリカの国民は、これを思索し反映する必要があります(※アメリカやアメリカの大企業が、自分たちが豊かな生活を送るために、他の地域の人々を貧しくし、誰もが必要な自然を破壊し続けていることを受けて)」

「Conditions(コンディションズ/状況や土壌)が変わらなければ、歴史はいつも繰り返す」

「私はいつも人々のCommon sense(コモン・センス/常識)に大きな信用をおいてきました。文字の読み書きができない人だったとしても、知的に開発された人々(=大学等で正式な教育を受けてきた人々)より、もっと素晴らしい正義への感覚をもっています
彼ら・彼女らは、「Power(力)」のことを深く理解し感じ取ることができます。「力」は人間の本能です。
彼ら・彼女らは普通の農民かもしれませんが、「力」が何のためにあるかを知っていて、どのように使われているかを知っています。
これは、人々の心の中にあるものです。
力、意志、正義、そして自由は最も聖なるものです。

「自由というのは、マイク・タイソンが一発のパンチであなたを殺せることができるといったことを指すのではありません。私が意味する自由とは、誰もが対等・平等だということです。私たちは、私たちそれぞれの能力や、必要としていることに照らしあわせて平等です(人々は、それぞれ違った能力やニーズをもっているけれど、みんながそれぞれ自分のできることをしているということで、平等)」

民主主義は、人々の力です。人々は、選挙を越えたホリスティックな(全体を見通す)ヴィジョンをもつべきで、人々がPlural(プリューラル/複数ー政治的にはアメリカ・ヨーロッパ一辺等の見方や白人優先ではなく、誰もが、どの地域も同じ権利をもち発言力・決定力をもつということ)で、団結力に導かれた、人間的な民主主義を行っていくことを望んでいます」


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