【教育関係者必見】金融教育でウェルビーイングを実現!若者こそ知るべき、将来の不安を軽減する「相続教育」とは?【現代生活学研究所 上村協子所長】
新NISAの開始や金融経済教育推進機構(J-FLEC)の設立など、2024年はお金の不安を解消する「金融ウェルビーイング」を実現するための新たな取り組みが次々と始まりました。こうした生活と金融をつなぐ考え方がますます重要になる中、金融教育の歴史に触れながら、世代間の資産移転を意識した「相続教育」の必要性について、現代生活学研究所の上村協子所長に聞きました。(金融ジャーナル編集部。2024年7月号掲載分から一部内容を再編集。数字や肩書きなどは掲載時点)
J-FLECが果たす役割について。
「金融経済教育」という言葉が脚光を浴びたきっかけは、2008年のリーマン・ショックまでさかのぼることができる。当時大きな問題となったのが、米国で返済能力の低い低所得層の人々までが住宅ローンを組んでいたこと。この問題により世界中で金融リテラシー向上に対する認識が高まり、2012年6月に経済協力開発機構(OECD)の金融教育に関する国際ネットワークであるINFEが、「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」を作成。各国で金融ウェルビーイングを求めた金融経済教育を戦略的に進めていく必要性が示され、G20(主要20カ国)で承認された。グローバルな流れを受け、日本では同年11月に金融庁が「金融経済教育研究会」を設置。2013年6月には同研究会の報告書を踏まえて日本銀行情報サービス局に事務局を置く金融広報中央委員会の中に「金融経済教育推進会議」(以下、推進会議)が設置され、J-FLECの設立につながった。
J-FLECには様々な期待が寄せられているが、個人的には相続・贈与などの世代間資産移転を促す大きな役割を担っていると感じている。日本の世代間資産移転の実態と相続・贈与行動については以前、大正大学の北村行伸教授が仏の経済学者、トマ・ピケティ氏の手法を援用し、2018年の日本における年間世代間資産移転額を年間80兆円程度と推計したことに刺激を受けた。大相続時代と言われて久しいが、ジェンダー視点を取り入れつつ生活と金融をつなぐ、格差を拡大させない「世代間移転・相続教育」による金融ウェルビー
イングの実現に期待したい。
金融経済教育の源流は。
我が国の金融教育を担う組織の名称は、時代の変化とともに変わってきた。戦後の焼け野原からスタートした日本の金融教育は、第一に貯蓄増強、第二に貯蓄広報、第三に資産形成を促す今日の金融広報・金融教育と、大きく3つの変遷をたどってきた。政府はまず、1952年に「貯蓄増強中央委員会」を設立し、金融機関の貸出原資となる預金の増強に力を入れた。そうした中で、暮らしを支える家計簿教育が友の会や生活協同組合(生協)、生活改善など生活に密着した「家庭科教育」とともに展開され、日本全体の生活の質の改善につながったことは特筆できよう。日本の金融リテラシーは、外向きの為替や金利などの金融知識は低くとも、内向きの生活者視点で足元を固める家計管理・生活設計能力はむしろ高いことを評価したい。
ここで、当時の家族や家計の在り方に言及する。高度成長期は家計の収入も順調に増え、教育や住宅、老後のいわゆる三大資金に備えることができた。夫が外で働き、妻が家計を管理して家庭を支える形が一般的で、妻は相互扶助などの関わりを通じて地域の生活の質向上に貢献してきた。
ここから先は
¥ 300