【コミュラボ】第49回オフ会 日野なおみさんと語る「編集とコミュニティ」
第49回(オンラインでは第31回)の「コミュラボ」オフ会。
2022年のオフ会初めは、日野なおみさんと 「編集とコミュニティ」をテーマにおしゃべりしました。
日野さんと言えば、今は編集者として、たくさんのベストセラーを世に送り出しておられます。どの本からも、日野さんのあたたかい「ありのまま」を大切にするお人柄が感じられます。
そんな日野さんをお迎えし、本の編集とは、著者の方との向き合い方、読者の皆さんとの関係で大事にしていることなどをお伺いしました。
この2時間は、日野さんの柔らかく人を救うお人柄が溢れていました。
「タイミングを待つ」「欠けているところは強みになる」「著者の『らしさ』を大切にする」など、いずれも僕たちの日常で誰かと何かをする時に意識すると「救われる」ことばかりでした。
ということで、MCであるコミュラボ主宰の辻がポイントと感じたことを、極力雰囲気そのままに「少し遅いお年玉」として、皆様におすそ分けさせていただきます。
日野なおみさんのご紹介、そして、お声かけした理由
日野なおみさんとは
日経BP社に入社。月刊誌『日経トレンディ』、週刊誌『日経ビジネス』などの媒体で記者・編集を務める。2017年〜2018年日経ビジネスクロスメディア編集長。
2019年からダイヤモンド社で書籍編集。『聞く技術』『ウィニングカルチャー』『Be Yourself』『「コミュニティ」づくりの教科書』『ドキュメントがん治療選択』『すいません、ほぼ日の経営』『セゾン 堤清二が見た未来』『誰がアパレルを殺すのか』『宝くじで1億円当たった人の末路』などを手掛ける。
日野なおみさんにお声かけした理由
日野さんが編集を担当されている本と日野さんのあり方に、共感するから。ポイントは「ありのまま」。「ありのまま」を大切にするあり方は、コミュニティ作りにも通じるもの。
日野さんが編集された本は、例えば『プロティアン』『「コミュニティ」づくりの教科書』『ウィニングカルチャー』 『Be Yourself』『聞く技術』『レゴ』…などなど、いずれもベストセラーばかり!
いずれも「ありのままでいい」「ありのままのをいかに活かすか」が伝わり、読者にとって「ありのまま」でいるきっかけになっているものばかり。
そうした本の雰囲気は、日頃の日野さんのFacebookやTwitterなどへの投稿、『ウィニングカルチャー』 のABD(Active Book Dialogue)、Clubhouseでの折々の会話などから伝わってくる、日野さんのあり方そのまま!
かねてから「本」を編集するプロセスと、「コミュニティ」を作っていく(なっていく)プロセスは、近い。なぜならば、著者のさまざまな「ありのまま」を編集してできるのが「本」、参加者の「ありのまま」が組み合わせてできるのが「コミュニティ」だから、と思うから。
こうした背景や仮説の元、たくさんのベストセラーを生み出した日野さんに、そもそも本を編集するとは、著者や読者との関係作りなどについてお伺いしたく、お声かけさせていただきました。
トークテーマ
テーマは3本だて。【第1話】そもそも「編集」とは、【第2話】著者との関わり、【第3話】読者との関係、でのおしゃべりでした。
【第1話】そもそも「編集」とは?
日野さんにとって「コミュニティ」とは?
同じ色、同じ香りの人たちの集まり。関わり方に濃度の差はあれど、似ている。嫌じゃなくて、みんな志向性が似ていて、集まっている。
著者にはコミュニティがある。著者によって、色や香りが違う。コミュニティは旗を立てる人によって、色が違う。(その把握の仕方は?)メッセンジャーでのやり取りの際の、絵文字を使う・使わない、ですます、などのコミュニケーションのテンションやプロトコルの違いなどに現れる。
日野さんが本を作る流れー編集とはー
「編集者主導」と「著者主導」の2パターンある。編集者が立てた企画のもとに著者さんがいらっしゃるパターンと、著者さんの一側面を切り取るパターン。いずれも「著者が今、何を発信するのが一番いいのか」を考える。編集者は、その時に著者から何を引き出すか、が大事。
著者ありきの場合は、まずは面白い人にたくさん会うことから始まる。
面白い人にはメッセージがある。面白い部分の中で、他の人に響くところを探す。
どんなにいい本でもタイミングが大事。面白い人と知り合い、その人のバイオリズムと世の中の求めるタイミングがぴったり合うところで本を出すのが好き。この能力は『日経トレンディ』の9年間に「次のヒット商品の予測」をしてきたことで、培われた部分もあると思う。
その人が登り調子で、言葉が力を持つ時を見極めている。本は生まれる時に生まれる。コップの水が溢れる瞬間がある。そのテーマで、いい文脈で伝えられるタイミングがある。
著者は、待つと不安になることもある。しかし「今はノットレディ」と伝え、タイミングが来るのを一緒に待つ。本を出すと人生が変わる。特に1冊目を出すと、著者の人生が変わるから。
(Q:待たずに見切らない理由は?)
好きな人としか作らないから。元々才能や考え方に惚れ込んでいるから。その人の人生の良い時期の波に乗り、待つことでよりよくなることが読者にとっても良い。待っている過程で苦労を乗り越えた後の方が良い本になる。なので一緒に待つ。
(Q:溢れるタイミングは調整できない?)
自然分娩の日を先生が調整できないように、溢れるタイミングは編集者にも調整できない。今は、良いものを作るために、著者や読者のためにタイミングを見極めて出す。無理な調整はしない。
(Q:その人のバイオリズムと世の中の求めるタイミングを見極めるために、日々、心がけていることは?)
最大限ミーハーでいた方がいい。経験を積むと、自分に関心のある、心地のいい情報に目が行きがちになる。『日経トレンディ』を読んだり、全然違うコミュニティになるべく出入りするようにして、いろんな情報を耳に入れるようにしている。
作者と読者以外の人たちとの関わり方
(Q:本を出版するために、著者、読者、出版社以外にも、たくさんの関係者がいると思う。どのような方が関わるのか。また、関わる際に心がけていることは?)
本を1冊出すということは、1プロジェクト。編集者はプロジェクトマネージャー。関係者は、まず著者、装丁家、DTPのオペレーター、校閲、印刷会社など。
編集者は、何にもできない。編集者以外は、みんなその領域のプロ。この関係の中での編集者の役割は、皆さんの要望をなるべく叶えられるようにする調整係。皆さんの才能をのびのび発揮できるようにする役割。
(Q:編集者は幹事に近い?)
そうだと思う。幹事が得意な人は、いい編集者になれると思う。
編集者は、自分が書けないので待つしかない。途中で無理矢理出版しても、幸せにならない。ここにたどり着くまでに、どの編集者もそうであるように、いろんな経験を経て、このことを理解した。その人にとって一番のタイミングを、キープインタッチして待つ。
【第2話】著者との関わり
書き始めから書き進める流れ
編集者の肩書きは都合がいい。面白そうな人に「ちょっとお話聞かせてください」と、まずファーストコンタクトを取る。話をしながら、その時のその方の活動と一般の読者のニーズが合うところを考える。
自分の中に「問題意識」がないとテーマが立たない。最近の自分の課題は「仕事の優先順位が付けられない」こと。緊急だけど重要でない球を打ち返しているうちに、1日が終わる。
心の中に、寂しさ、孤独、人を愛せない、人前に出ると緊張するなどの「課題」や「穴ぼこ」があると、その穴ぼこを埋められる人を探すから、他人の才能を発見しやすくなる。
自分の心の穴に無自覚だと、他人の才能を見つけられない。自分と微細に向き合って、欠落や足りないところを自覚すると「この人はこういう切り口だとすごい才能がある!」といった、他の人の輝くところを見つけやすい。
(Q:なぜ、それに気づけたのか?)
あ、できないことが多いなと気づき、周りの人たちは天才だな、と思えたから。
そうかもしれない。中竹竜二さんの本を編集しながら、弱さを認める大切さを体得した。編集者は著者の方よりゲラを読み、思考に洗脳される。中竹さんの本に書かれていたことが、きっかけだった。欠損があればあるほど、いい本が作れる。自分が足りないところを、著者から引き出せるから。
(Q:読者に近い?読者は自分の問題意識をなんとかしたいと思って本を手にするから)
そうだと思う。読者に近い問題意識や欠損があるのは強み。できないことが多い方が強み。それをできる人に聞けば、本になるから。
できる人が、その能力をもって本をつくると解像度が低い。何をどのようにやっているか、さほど意識せずに天然でやっているから。すると、本を書く時に言語化できず、再現性がない。できない人ができるようになった場合は、いろんな人や事例を研究しているから、解像度が高い。
編集者が全部をやることは無理、だと思っている。他の編集者がこんなことを言っていた。映画であれば、脚本家、監督、カメラマン、出演者など、たくさんの人が関わっている。本の編集はそれに比べれば規模が小さいため、編集者は作ることから売ることまで全部が仕事。多岐に渡るいろんな役割を担っている。それを聞いて、全部をやるのは無理だと思った。
編集者は、個性がある。後工程が得意、中身を高めるのが得意など、戦い方がいろいろある。自分の強みを生かし、何を武器とするかを考えればいい。例えば、このタイミングでこの著者であれば売れる、という本を編集する人もいれば、売り方がうまい人もいる。全部は無理なので、どこが得意で、どこで戦うかを決める。全部を自分でやると、こじんまりしてしまう。
(Q:日野さんの得意なこと、強みは?)
運がいいこと。出会い、縁。いい著者さんに出会わせてもらっている。いろんな人に出会う活動量が多い。これを「好き」でやっている。Want to しかやってない。have toはあんまりできないかもしれない。編集者の場合は、それくらい割り切ってもいいかもしれない。
以前記者だったので、日本語の使い方やどうすれば原稿が美しくなるか、ということは、教育を受けてきたのでわかる。しかし、そのようになっていない本でも勢いなどの価値があるものもある。
本の世界がいいのは、部数という数字はあるが、多様な価値が許されていること。1万部でも10年売れる続ける本、発売直後に10万部売れてもそれが続かないものもある。何を作りたいかは、どう生きるのかに通じる。
あまりやらない。関係する人たちと、補い合って、助けてもらっている。編集者の数が多いと、難しくなることがある。例えば、一番最後の最後にタイトルのことなどで、著者と崖から飛び降りるみたいな決断をするタイミングがある。その時に数が多いとモゴモゴする。著者と心中するような「さあ行こう!」という時は、少ない方がいいと思う。編集者は著者とともに、決断をする人でもある。
いろんな人に会いたかったから。その時に一番会える職業は、と考えた。
(Q:記者も会えるのでは?)
記者も面白かったが、編集者はいろんな著者の才能を世の中や読者につなげる役割であり、それが面白い。自分にとっては、満足度が高い。
本を出すと人生が変わる。初作を手がけることが多く、著者の人生の転換点に立ち会うことが多い。変わっていくのを見るのが好き。
他の編集者より無駄な動きが多いかもしれない。その人の人生の転換点を編集しているので、出版後もイベントなどに動く。しかし、イベント後に、本の販売部数が10万部になるわけではない。アクティブブックダイアログをやっても、10冊程度かもしれない。でも、イベントに参加することによって読者の人生が変わることもある。そうした本の持つ効果は、部数だけでは見えない。
思いを広げるあたりは、もっと勉強したいこと。コミュニティ的な本の作り方や売り方をしていると思う。これからの時代はコミュニティだと思う。
今は分断している。コミュニティごとに分断されている。誰もが知っている有名人はいない。ベストセラーは「人」では作りづらい。この時にこの人に書かせたら大ヒット、は難しい時代になった。もっとコミュニティに入り込むのが大事。
(Q:だから著者のコミュニティや、そこにいる人の色や匂いを意識しているのか?)
その通り!
【第3話】読者との関係
売り出す前、そして売り出し後の関係
著者が好きなので、その魅力を読者に知って欲しい。その著者のコミュニティで熱量が高いTier1の皆さんに、どう反応されるかを気にしている。
著者の「らしさ」が殺されると、ファンは納得しない。特に「1作目」は著者の周りにいる人を裏切ってはいけない。この人っぽくない、があるとしんどい。しかし、何冊も出していると、キャラ変してさらにブレイクすることもある。著者のそれまでの取り組みを総括する本を出したことを経て、キャラ変につながることもある。
メンバーからの感想と「守隨まとめ」
メンバーからの感想
1作目以降のことは、考えている。著者にはたくさんのオファーが来ている。1作目はその人の人生をかけて書くものなので、直球どストライクにした方が次につながりやすい。1作目で変化球を投げると、2作目以降につながらない。編集の都合や、書店でこっちの方が売れるなどは、やりすぎない方がいい。
編集とコーチングは近いと思う。『聞く技術』の宮本恵理子さんの取材を受けた方が、目をキラーンとさせ「いいコーチングを受けた気分」と仰ることがある。その人の中にあるものを見つけるあたりは、近い。
「守隨まとめ」
コミュラボ公式グラレコライターの守隨佑香さんによる、今回も秀逸なまとめ!背景の「花」は、日野さんのバーチャル背景でもあり、日野さんが著者や読者の「花」を開くお手伝いをされているから、というところを表したとのこと。
MC後記
「タイミング」「欠けていることがあるのは強み」「著者のらしさを生かす」…この三点がとても印象的でした。いずれも「著者と読者を思う気持ちがあるからこそ」だと感じました。
「タイミング」は、著者の言葉が読者に対して力を持って届く瞬間を見極めること。「欠けていること」は読者にもあるそれを自分と向き合って意識すると、他者の輝くところに目がいくようになり、本になるきっかけに気付けること。そして「らしさ」は、特に日野さんが手掛けられる「その著者にとっての初作」であれば、特に著者の周りにいる読者の期待に応えるためにも、著者の2冊目以降につなげるために、大事にすべきこと。
いずれも日野さんに「著者と読者を思う気持ち」があるからこそ、だと思いました。
オフ会中のメンバーからのコメントにもあったように、日野さんのように自身の「穴ぼこ」を意識し、他の人の「輝くところ」を引き出せると、多くの人を幸せにできるな、と感じました。そんな日野さんは、人を救う人だ、と思いました。
オフ会の最後に日野さんから「皆さんとお話しながら、自分の棚卸しができました」とのコメントをいただきました。
僕たちは日野さんから、編集する時に心掛けておられるように「ありのまま」の「輝くところ」をお聞きしたと思います。
それによってこの2時間が、日野さんの編集者人生を「編集」することにつながっていたら、コミュラボとしてこれに勝る喜びはありません。
なぜならば、日野さんのお話を伺いながら、そのまま即座に実践できた、ということですから。
改めて、日野さん、そしてご一緒させていただいたコミュラボの「ラボ」の皆さん、ありがとうございました。
2022年最初のコミュラボオフ会が、このように「人の輝くところに目を向ける」きっかけで始められたことに、感謝です!