踊り手と虜

白い雪原と書いたあとですぐに、どれだけのことをとりこぼしてしまったのだろうかと思い返し、かなしくなる。

今眼前で起きていることを、写真に撮る。するとわたしの衰えた視力以上に、センサーが光をつかまえてくれる。

デジタルカメラのフォルダをひらく。
そこには物事の外面が記録されている。
言葉とは異なる方法で、光でつづられた。

しかしわたしはそれを見てやはり、白い雪原、という言葉を想起してしまう。

ああ、かなしい。

そんなかなしみを、雪原の舞台で舞う、彼と彼女も感じるのだろうか。いや、言葉をもたないとおもわれる彼らは、どんな風にこの世界を見て、味わって、消えていくのだろうか。

彼がつばさを、ああもうつばさ、と書くしかない、つばさをひろげる。細い身体よりずっと大きいけど、軽いのだろう、空を飛ぶための器官なのだから。

白の中で、二つの赤がダンスしている。

踊りから生まれ、幕間を生きて、また踊る。ステップからステップへ、誰に学んだのでもなく、ただ目の前のお前を、虜にするために。

くちばしを天にむけて高く上げ、ひとこえ鳴く。
彼女もそれに答え、歌を重ねる。
ふたりの合唱が雪原に響き、白樺林の奥へと消えてゆく。

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