【映画】考察『スターダスト』~おとぎ話を散りばめて~
実はマシュー・ヴォーンの初メジャースタジオ配給作品であるこの映画。『ロミオとジュリエット』のクレア・デインズのほか、『スーパーマン』などのヘンリー・カヴィル(当時24歳!)も出演している(最近のマシュー・ヴォーン作品では『アーガイル』2024に出演)。
監督・脚本・出演・原作・あらすじ
監督:マシュー・ヴォーン
脚本:マシュー・ヴォーン、ジェーン・ゴールドマン
出演者:クレア・デインズ、チャーリー・コックス、シエナ・ミラー、ベン・バーンズ、リッキー・ジャーヴェイス、ジェイソン・フレミング、ルパート・エヴェレット、ピーター・オトゥール、ミシェル・ファイファー、ロバート・デ・ニーロ、ナサニエル・パーカー、ケイト・マゴーワン、デヴィッド・ケリー、メラニー・ヒル、ヘンリー・カヴィルほか
スターダスト - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
原作:二―ル・ゲイマン『スターダスト』(原題:Stardust)
『ブラザーズ・グリム』(2005)や『赤ずきん』(2011)、『ヘンゼル&グレーテル』(2013)など、おとぎ話の世界を映画化した作品は多く、そんな童話映画が好きという方も多いのでは(筆者ももれなくその一人だ)。『スターダスト』は、そんなおとぎ話好きのための映画の一つである。
といっても、ある一つの物語をなぞっているというよりは、さまざまなおとぎ話や昔話の要素を散りばめて完成しているのがこの映画の特徴だ。ここでは、その童話的・昔話的要素を一部ながら取り上げたい。
越えてはならない壁
おとぎ話ではよくある、「~してはならない」という言いつけ。ラプンツェルや人魚姫など、破ってはならないと命じられた約束を忘れたり、禁忌を犯したりするところから始まる物語は多いが、この映画もその一つ。この村では、周囲を取り囲む壁を越えることがタブーとされている。しかし、1週間のうちに、どこか遠い地に落ちたはずの流れ星を取ってこなければ、思いを寄せるヴィクトリアは別の男と結婚してしまう。何としてもそんな事態は避けたい。その一心で、トリスタンは壁を乗り越えてしまうのだった。
永遠の美貌を求める三姉妹の魔女
三人組の魔女(あるいは姉妹)、というのは童話ではあまり見ない登場人物かもしれない。しかし、物語という大きな枠組みで見れば、神話や劇作品にも例は少なくない。例えばギリシャ神話ではホーライ三姉妹、モイライ三姉妹など、それぞれが役割を持った姉妹が登場するし、『マクベス』において登場する三人の魔女は、彼に予言を与える役割を持っている。
この作品で登場する魔女三人はもっと俗物的で、永遠の美貌をひたすら求めているのだが、そこもまたおとぎ話的で愛おしいのである。
馬車に飛び乗って……
トリスタンは流れ星イヴェインを見つけるが、それは想像とは違って人の姿をしていた。村まで連れ帰ろうとするものの、イヴェインとはぐれてしまう。疲れて眠るトリスタンに星が語りかけ、次に通りかかる馬車に飛び乗るよう助言を与える。この「次に通りかかる馬車に飛び乗る」ようにという指示もまた、おとぎ話においてはよく見る設定である(たいていの場合、何度か乗りそびれるが)。
七人の王子と末子成功譚
この物語は、複数の登場人物の思惑が絡み合いながら展開していく。幼馴染との結婚のために流れ星のかけらを探す主人公、永遠の美貌を求める魔女たち、そして王位継承をめぐって抗争を繰り広げる兄弟。
この七人兄弟の王子たちは、罠を仕掛け合って数を減らしていく。そして最後に残ったのはセプティマス、七番目の王子だ。いわゆる末子成功譚にありがちな、「兄弟間の争いに、最も賢い末の子が勝利する」展開である。
ただし、最終的に王位を継承するのはセプティマスではなく、さらに下の妹、死んだかと思われていた王女のウーナであった。まさに最後には末の子供が生き残り、王位を継承する(あるいは最も大きな成功を手に入れる)という展開である。こうした物語の類型は、三匹の子豚などの昔話から、古事記、ギリシャ神話などの神話に至るまで、幅広く見られるものである。
真心と永遠の命
先にも述べた通り、これはトリスタンにとってもともとは愛を証明するための冒険から始まる物語だった。しかし、旅の末に、身近にあった真実の愛に気が付く。
真実の愛が力を発揮する、というのは眠り姫や、美女と野獣などにも見るような設定だが、この作品の世界ではさらにその真心が永遠の命をもたらすのだという。(『ブラザーズ・グリム』のようなチラッと不穏な感じをのぞかせて終わるタイプではなく、)しっかりハッピーエンドで締めくくられるので、バッドエンドが苦手な方でも安心だ。
類型的な設定の効果
今回取り上げたのはあくまで一部だが、この作品には他にもたくさんのおとぎ話・昔話的要素が散りばめられている。こうした類型的な物語の設定を利用することで、作品には古典的な印象が付加される。それによって、物語はあたかも古くから言い伝えられた、伝承性のあるストーリーであるかのように装うことができるのである。