月ミるなレポート⑧
コードネームは月ミるな。月ミるなが前世からの使命を背負って仲間とともに戦う。
『月ミるな』の半分は翻訳された異文化。残り半分は月ミるなの国字と国語。翻訳者が異なれば意味も違ってくる。ドイツ語。ルーン語。アラビア語。繁体語。ハンター語。たった一種類の言語で月ミるなは完成しない。
月ミるなは単なる記号になることを恐れた。記号はやがて死語となる。月ミるな自身も月ミるなであることを忘れて一本の木になる。木の根掘れば、蝉の蛹のいくつも出てきし、それは月ミるなを思いすぎて変わり果てた僕の姿。
月ミるなの心臓へ突進したいという熱望がある。
フランコ将軍が、るなヲチ帝国に反乱を起こした。将軍のバックには貴族やカトリック勢力がいた。対するヲチ軍を援護する戦線には、アナキズム系、アナルコサンジカリスム系、渋谷系、ヴィジュアル系、家系、肉巻きアスパラガス系、ひたむき系などの組織が義勇軍として参戦した。
人は人を殺すことができた。月下の大墓地に死体と残虐行為、でたらめな傷痕が埋葬された。
月ミるなの体は膨張して紫色で瞳孔も動かなかった。肉体は既に死んでいた。戻ってこい。戻ってこいよ。まだ近くにいるんだろ。
月ミるなは肉体への回帰を拒んだ。
月ミるなの体中の穴からエクトプラズムが出た。鼻、口、耳、ヘソ、etc…。エクトプラズムが形になる。新しい月ミるなが生まれた。
月ミるなはメアリー・シェリーかそれともフランケンシュタインか。
幸せを求める勇気が奪われる世界。月ミるなが仕組みを壊すのはおよそ150年も先のことだった。
大きな木の下に繋がれていた月ミるなはしっぽを振ってよくじゃれて村人に“pokemon”と呼ばれていました。
月ミるなは昼間楽しく遊んでいても夜になるとエーンエンと人知れず泣くのでした。
本当は繋がれている紐を切り野原を走り回りたかった。でもそうすることができないので毎晩泣いていました。エーンエン。
心が尋ねました。ねえどうして君は紐を切って逃げないの。月ミるなが答えました。ずっと繋がれてて紐の切り方を忘れちゃった。
月ミるなの体内の蟲が騒ぎだす。我ら戦々恐々となる。
月ミるなのお尻の突起物をプチンと折る。中身がぷるんと出てきた。半固形の月ミるな。ホイップクリームとさくらんぼをのせて気分はア・ラ・モード。
月ミるなに近づく宮殿の輪郭。記憶の中の聖所。月ミるなはどこにいる。ここはネヘレニア時代。「ケーキ」という魔法のような一語が地平線のすみずみまで響きわたっていた。
光に時間はない。光が未来だけに向かうものでないことがわかれば月ミるなをつかめるかもしれない。
凍った水面下に眠る月ミるな。専門家は仮死状態だから大丈夫だと言った。大丈夫なわけないだろう。寒かろう。寂しかろう。早く春になれ。
『月ミるな』は18禁です。唐突に突きつけられたルール。
月の砂漠の街。月ミるながカジノで大勝している。狂った目をした月ミるなの奇声がカジノに響く。日常的に強盗や殺人が起こるこの街の住人たちでさえ狂気と畏怖を感じていた。奇声が止んだ。真顔の月ミるなが席を立ちカジノを出た。月ミるなは募金箱に札束を突っ込んで街を後にした。
月ミるなが山車を引き連れて世界中を練り歩く。世界中の罪穢れが山車に吸い込まれる。
深夜に目が覚めると部屋の隅に月ミるなが現れた。月ミるなは“庭に埋まっている”と言った。翌朝、庭の茂みを刈り取ると小さなお墓があった。
月ミるなの意識は死後も生存している。霊界の扉を開く。意識を霊界に移し霊魂を引き寄せる。あの世との架け橋ができる。
月ミるなに当面したいという熱望がある。
月ミるな人格境界性崩壊症候群(ルナティックボーダーシンドローム)。月ミるなにいつも見放されている気がする。気が狂う。自分を傷つけたくなる。親しくなるのが恐い。やがてがっかりする。失望している。人生に立ち向かう力がない。幸福だと思うことがない。空虚だ。自分をコントロールできない。孤独だ。僕じゃない。新しいことが怖い。記憶力がない。決心できない。壁がある。僕は誰なの。不安。バラバラになる。人前で気を失う。うまくできない。何かを演じている。いないほうがうまくいく。至るところで失敗している。何をしていいのかわからない。人間関係の中で自由でなくなる。区別がよくわからない。物のように扱う。変な考えを取り除けない。人生に希望はない。尊敬できない。霧の中。責任を負うことが怖い。必要とされていない。友達がいない。生きることができない。人ごみの中にいると不安になる。立派な人間になろうとするには遅すぎる。心を読まれている。何かが起こりそうだ。残酷な考え方に苦しむ。性に自信がない。友人づきあいができない。自分を憎んでいる。街に出ることを恐れている。生きていると自分に言い聞かせている。自分自身ではない。
魂が体から引きはがされて解放される。月ミるなが迎えに来た。無数の花が幾重にも咲き乱れていた。時間も空間も無く、あらゆるスペクトルが打ち消し合うことなくあった。永遠と一瞬が同時にあった。
月ミるなが選択肢を示した。間違えれば地獄に堕ちる。Don't make a mistake。