新時代ミステリの旗手、井上真偽を読もう!【新刊発売記念】
最近「仮面病棟」や「屍人荘の殺人」などのヒットで、大きく注目を集めているのミステリ業界。そこに新たなヒット作の予感を漂わせる作品が9月11日に発売されました。その名も「ムシカ 鎮虫譜」。
この作品の作者は異彩を放つ新時代ミステリを発表し続ける新進気鋭の作家井上真偽(いのうえ まぎ)先生。今回はそんなミステリ界に革命を起こし続ける井上真偽先生の作品を紹介していきたいと思います!
まず、井上真偽先生とは年齢・性別ともに不明の覆面作家であり、唯一分かっているのが東京大学卒業という経歴。しかし、彼の作品には文理問わず、古今東西様々な知識が詰め込まれている故、その在籍した学部を邪推することさえ難しいミステリアスな作家です。
彼が今までに発表した5つの単行本をその見どころと共に紹介していきましょう。
「恋と禁忌の述語論理」
彼のデビュー作にして第51回メフィスト賞受賞作。「面白ければ何でもアリ」というメフィスト賞の趣旨を地で行く一風変わったこの作品。
この作品は主人公の青年が探偵役の叔母さんに、遭遇した不可解な事件を持ち込み、彼女がそれを話を聞くだけで解決するという定番の構成です。しかし、叔母さんはそれを数理論理学という方法を用いて解決を試みます。解説シーンは数学の問題集のような図を用いたページ構成。従来ではあまり見られない証明方法です。
扱われるのは表題の述語論理のほか、命題論理、様相論理。数学の専門的知識がなくてもわかりやすい解説のおかげでまるで数学者になったかのように鮮やかな証明を楽しむことができます。ぜひ読んでほしい一作です。
「その可能性はすでに考えた」シリーズ
このシリーズは新しいミステリの形を探し続ける井上真偽の仕掛けがふんだんに詰め込まれた作品です。
主人公は科学では証明できない「奇蹟」を追い求める探偵。彼は遭遇した不可解な事件を「奇蹟」であると証明するため、すべての可能性を否定しようと計画します。つまり、その事件が論理的には解決できないということを証明する「悪魔の証明」を試みる作品なのです。物語の最終目標はこれまでのミステリではありえない、「この事件は証明不可能」というもの。
ライバルの探偵たちが数多の推理を披露し、それを反駁し続ける推理合戦はまさしく見ものです。
「探偵が早すぎる」上・下
「なぜ分かったんだ!俺はまだそのトリックを仕掛けてすらいないのに!」
このセリフが表す通り、今回の探偵は図抜けた洞察力により事件を未然に防ぐ探偵。悲惨な殺人防御率の先人方をしり目に圧倒的な推理で事件を防いでいくのはもはや探偵を超えた何かでしょう。
この作品も今までのミステリとは一味違った作品を目指す井上真偽ならではの作品であり、他作品と比べて平易な文体なので井上真偽入門者や読書をあまりしない方にもおすすめです。ドラマ化もされているので、そちらもおすすめします。
「ベーシックインカム」
今回の新刊を除けば、一番最近の作品であるこの作品は今までの風変わりなミステリとは違った井上真偽の世界観を楽しめる作品です。題材こそ近未来SFの要素を取り入れたミステリ短編集ですが、内容はそれを扱う人間の心理描写に重点が置かれており、井上真偽の未来を憂う気持ちと共に作家性の変化と強さをうかがうことができます。ハイテンションではない、落ち着いたテイストの作品が読みたい方にはこの作品を特にお勧めします。
今まで発表されたのはこの5作品。デビューから5年を迎えてさらに飛躍を遂げていく井上真偽先生はこれからどんな作品を紡いでいくのでしょうか。
まずは新刊「ムシカ 鎮虫譜」を読んで新たな井上真偽ワールドへと飛び込みましょう!