【こころ #59】同じ境遇の人と話せたことが治療の鍵に
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加藤晴正さん
精神障害当事者によって運営されている障害者団体「精神障害当事者会ポルケ」の監事として活動する加藤晴正さんは強迫性障害や双極性障害と付き合いながら、生きている。
強迫性障害を発症したのは今から16年前のこと。当時50歳くらいだった加藤さんは銀座でギャラリーを運営する中で、「作品が盗難されるのでは…」という不安に襲われ、何度も施錠を確認するようになった。時には30分ほど鍵をかけ続けたり、施錠確認をしたりするようになったため、心療内科を受診。強迫性障害であると診断された。
ひとりでギャラリーを運営することに強い責任感とプレッシャーを抱いていた加藤さんは当時、火事を恐れ、部屋中のコンセントも抜いていたそう。医療と結びついたことで「症状が穏やかになるはずだ」と希望を持った。
ところが、主治医との会話はたった5分の事務的なもの。処方された薬を飲むも、症状はよくならない。そんな時、ネットで強迫性障害の当事者会があることを知り、勇気を出して参加。「当事者会って、もっと頑張ろうと励まし合う場所なのでは…」と不安もあったが、実際に参加してみると、同じ病気を持つ人たちと不安を語り合え、心が軽くなった。
「不安を取り除くことに夢中になると、さらに不安が襲ってくるので、不安と向き合ったほうがいい、不安があることは、それはそれで正しいことなんだと学び直せもしました」
当事者会に参加するようになった加藤さんは自身が感じている不安をそのまま受け止め、施錠確認の回数を減らしていくという形で強迫性障害と向き合っていくことを決意した。
だが、その後、加藤さんはもうひとつの病と向き合うことにもなる。それが、双極性障害だった。双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す病気。主治医から病名を告げられた時、躁状態であった加藤さんは「絶好調」だと感じていたため、聞く耳が持てず。新しい事業を思いつき、日本橋にもう一件店を借りた。
しかし、事業は上手くいかず。悩んだ末、銀座のギャラリーを畳み、日本橋の店に全集中したが、2021年に廃業。この経験により、加藤さんは双極性障害の恐ろしさを痛感した。
それでも自身が双極性障害であることになかなか納得ができなかったため、加藤さんは精神科へセカンドオピニオンを受ける。ようやく双極性障害であると受け入れられたのは、双極性障害の専門医からはっきりと、病名を告げられたからだ。
自分が何者か分からない状態に陥っていた加藤さんはその診断で自分の病気を心から理解でき、「そういう病気なんだ」と安堵。これまでにしてきたことも腑に落ちたという。
治療は、セカンドオピニオンを受けた精神科で行うことに。投薬治療を行い始めると、躁鬱の大きな波に心を振り回されて生活が止まることはなくなったそう。「薬の力だけでなく、病名を理解したことで心の波に対して納得がいったことも、気持ちが穏やかになった理由のひとつ」と加藤さんは感じている。
なお、加藤さんは強迫性障害や双極性障害と闘う中で不安から逃れるため、お酒に頼り、アルコール依存症となったため、現在は自立支援医療を受けつつ、断酒を頑張っているそう。その助けをしてくれるのが、精神障害者手帳。精神障害者手帳は公共の施設で割引サービスが受けられることもあるため、外出するきっかけができるのだという。
「家にいると1日中お酒を飲んでしまうので、外に出ることは大事。美術館へ行った時などは、同じ目的で来ている人がいることに安心します」
直接、人と会話をしなくても肌で誰かの存在を感じることができれば、社会と繋がった気持ちになれる。そう話す加藤さんは強迫性障害の人が鍵かけや火の始末などを確認できるシンプルなツールや、双極性障害の小さな波が可視化され、自身の現状を客観的に把握できるツールが誕生し、持病とさらにうまく付き合っていける社会になることを願う。
「いちから話そうとすると大変なので、自分の状態を周囲に正しく簡単に伝えられる方法もあったら嬉しい。あと、喫茶店のように健常者も障害者もふらっと行ける“誰かがいる居場所”も欲しいです」
人同士の触れ合いは、なによりの“薬”になると考えている加藤さん。近年は様々な病気が広まりつつある一方、病名だけがひとり歩きをしてしまうケースも多いからこそ、「正しい相互理解の形」を考えたくなる。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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