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【こころ #64】「もっと早く介入」を追求する社会福祉士


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陽色 しなさん


 「なんでもっと早く介入できなかったのか」

 私には、陽色さんの活動の根源は、この一言に尽きるのではないかと思う。


 本人の口からは出なかったが、それは陽色さんが高校生の頃から始まったのではないか。

 当時、陽色さんは、夏休みを前に、「特別仲が良いわけでもない、友達の友達」が『摂食障害』という当時は聞きなれない病気で入院すると聞いた。夏休みが明けると、その友達が病院から飛び降りたらしく、亡くなっていた。「喋ったことがないぐらいの友達でも、ある日突然、命が消えることが衝撃的だった」


 摂食障害を調べてみると、食行動の異常から始まるが、体だけではなく心にも影響が及ぶ「精神疾患だとわかり、その延長で精神保健福祉士という資格があることも知った」

 陽色さんはそのまま福祉の道に進み、「地域の中で精神疾患を支えたい」と、精神障害の子を持つ親の会が母体となっている『小規模作業所』に就職。その後、障害のある方に地域交流や相談受付などの支援を行う『障害者地域活動支援センター』を経て、心身の障害を抱えて日常生活を営むことが困難な方が利用する『救護施設』に勤めた。


 救護施設は「最後の受け皿」だった。障害のある方はもちろん、DVのシェルターであったり、刑務所から出所した方もいた。仕事をリストラされて妻子に出て行かれ、病気になってホームレスになり保護された方も。「希死念慮(漠然と死を願う状態で、自殺願望とは異なる)が高い人も多かった」中で、飛び降りてしまう方もいた。陽色さん自身も何度も事情聴取を受けた。

 やっぱり「なんでもっと早く介入できなかったのか」という想いが頭を巡った。


 しかし、そうした想いをストレートに支援に活かしたい陽色さん自身も苦しんできた。

 最初に勤めた小規模作業所では、同期に比べて「使えないやつだ」と陰口を叩かれ、「ある日、職場に行くと手や顔の震えが止まらなくなり、声が出せなくなった」

 働き始めてから、聞こえてもその内容を理解できない又は理解のスピードが遅い『聴覚情報処理障害(APD)』のあることに気付き、支援する自分にも当事者性があった。

 救護施設では長年働いたが、古いやり方が変わらない現場と、その現場を何も知らない天下り、その中でもみ消される虐待を目の当たりにして、「もう続けられなかった」


 そして、陽色さんはこうした一連の経験の中で、「福祉サービス自体につながれているのは一部」であることに気付くとともに、頻繁に自分や周囲を傷つけたりモノを壊したりする『強度行動障害』のある方など、現在の制度では十分に対応できないシーンも見てきた。


 そうした結果、家族の事情もあったが、制度に関わらず、かつ「もっと早く介入する」ためにも、陽色さんは社会福祉士として独立する道を選んだ。

 そして、成年後見や福祉系のライティング、地元の福祉施設の広報宣伝・研修・指導などに幅広く携わる一方で、自殺予防の相談員や、LINEを通じた相談、オンラインカウンセリングにも取り組み始める。


 そうした中で、当事者に早い段階からハードル低く相談してもらうのに重要なのは、「匿名で相談しやすいと同時に信用も担保できること」だと気付く。陽色さんにとって、そのどちらも満たせる存在が、匿名性はあるがyoutubeで配信もしてリスナーからすると知っている存在になれるVtuberだった。そして今、『陽色しな』として、Vtuberを始めている。

 実際には、Vtuberとしての配信内容は障害関係としてリスナーは関心を持ってくれる一方で、そこから1回5000円のカウンセリングはハードルが高い。手軽に早く相談するという「文化を根付かせていく」のと並行してビジネスモデルは模索中だが、今後色んな仕掛けを考えているところだ。



 陽色さんが仰る通り、現在、福祉制度にたどり着けていない人は多く、かつ「もっと早い介入」が求められていることは間違いない。でも、すべてをやっぱり制度でカバーしようとすることは現実的ではない。そうした中で、陽色さんのような活動が重要になってくる。

 制度の外側も重層的に早く介入して、そこにちゃんとお金が回る世界。そんな望ましい世界に果敢に挑戦する陽色さんを応援していきたい。





ここまで読んでくださった皆さまに‥


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