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【しんけい #7】商店街のお茶屋から、難病救助隊の隊長へ

今井 啓二さん(前編)


 ALS(筋萎縮性側索硬化症)など難病患者や重度障害者の方のコミュニケーションをICTを活用して支援するNPO法人『ICT救助隊』。今井さんは、その理事を務める。

 しかし、本業は「商店街のお茶屋」だった。ただ、仕事には全く関係なかったが、中学時代からアマチュア無線にいそしみ、手作りの衛星を打ち上げてパケット通信するプロジェクトにも参加するなど、「商店街では有名な“パソコンオタク”のお茶屋」だった。


 当時ワープロが出回り始めていたある日、商店街の外れにあった福祉会館から「ワープロを買ったが、障害があってキーが打てない。どうも商店街にパソコンオタクがいるらしい。」とお茶屋に相談が来た。当時、今井さんは35歳。それまで「障害に携わったこともなく、何も知らなかった」。渋々訪ねた先に待っていたのは、「それまで字を書いたことがない、脳性麻痺の子」だった。

 キーを一つずつは打ててもshift+○○のような打ち方はできない。「これは大変だな」が第一印象だったが、同時に「それができればもっとたくさんのことができる」とも感じた。重しを付けるなど物理的な工夫をしたら意外とうまくいき、本人はワープロで色んなことをし始めた。ちょっとしたことで表現の世界が広がることを目の当たりにして、「“かわいそう”ではなく、純粋に“面白いな”と思った」。


 そこから福祉会館に出入りするようになる。見えない人や聞こえない人、知的障害のある方や肢体不自由の方にも教え方を模索していく中で、「そんな人たちがテクノロジーを使えたら世界が変わる。むしろ、テクノロジーはそのためにある。」との想いを強くした。

 そうした活動は定期的な講習会に発展し、さらに福祉会館に来れない在宅の方も見てほしいと依頼を受けるようになる。そこで初めて行った先が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)※の患者さんだった。在宅を支援する人が全くいないという話を聞き、商店街を超えて「これも大事なのでは」と視野が広がった。

 逆に自ら勉強するために作業療法士会などにも顔を出し始めると、ALSの患者家族と在宅ケアにたずさわる人たちが設立したピアサポート団体『さくら会』からもコミュニケーション支援の講師を頼まれるようになる。その結果、同団体に相談窓口が設置され、問い合わせも増える中で、そこから独立する形でNPO法人『ICT救助隊』が誕生した。

 当時、大手企業NECから助成金が得られ、企業協賛がついたことで地方自治体も信用して告知に協力してくれたことで、「NPO・企業・行政のトライアングル」を通じてコミュニケーション支援講座は全国に足を延ばした。さらに他の企業の助成金や大学の看護学生へのレクチャーなど活動の幅が広がっていく。


 今井さんから、そうした活動の中で見えてきた課題を聞いた。

 現在まで、ALS患者向けには、透明の文字盤を挟んで相手の視線がどの文字を指しているかを捉えて意思疎通を図る『透明文字盤』や、PCディスプレイ上の文字をスイッチや視線で選択することで意思表出を図る『意思伝達補助装置』や最近ではスマートフォン、タブレットを利用した多くのコミュニケーション機器が生まれている。

 しかし、補助が出るからと、高価な『意思伝達補助装置』をせっかく購入しても「実際届いたら違った、使い方がわからない」といったシーンを今井さんは数多く見てきた。今井さんの結論は、「話を聞くだけじゃなく、モノに触らないとダメ」。

 『ICT救助隊』が主催する『難病コミュニケーション支援講座』に参加すると、数多くの『透明文字盤』や『意思伝達補助装置』が並べられており、当事者もご家族も支援者も、実際に触り比べることができる。

 背景には、さらに大きな想いがある。「ALSという病気は、当事者にとって5年先が見えない世界」。だからこそ、単に装置を入れて任せてしまえばいいではなく、「まず患者ありきで、その人のために今何が必要なのか純粋に考えてほしい」。それが、「福祉を勉強したわけではないけれど、現場で数多くの当事者に出会い」、そして商店街の外れの福祉会館からずっと「患者さんに向き合い、どうしたらこうしたらと試行錯誤し、アナログにその人との関係性に尽力してきた」今井さんの願いだ。


※ALS(筋萎縮性側索硬化症):筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が障害をうけることで、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく進行性の難病。筋肉以外の、思考能力や意識、視力や聴力、内臓機能などは障害され難いと言われている一方で、病状の進行に伴って徐々に全身の運動機能が低下していく為、コミュニケーションが非常に難しくなる。

後編に続く)


▷ ICT救助隊



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