【こころ #40】従来の障害福祉の枠を超えて生み出す
Tenさん
見えづらい困りごとや特性を持つ当事者と共創するインクルーシブデザインを展開する合同会社Ledesoneを立ち上げたTenさんとの会話は、「僕自身も当事者で、LDとAD/HDです。」から始まった。
Tenさんのお話の前に説明しておくと、『発達障害』は大まかに以下の通り分類される。
コミュニケーション能力や社会性に関連する『広汎性発達障害』(自閉症やアスペルガー症候群など)
「集中できない(不注意)」「じっとしていられない(多動・多弁)」「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などを特徴とする『注意欠陥多動性障害(AD/HD)』
全般的な知的発達に遅れはないのに、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力を学んだり、行ったりすることに著しい困難を示す『学習障害(LD)』
(注)その他にもトゥレット症候群や吃音(症)もあり、詳しくはこちらを参照されたい。
Tenさんは、小学3年生に上がるタイミングで転校した学校で「文字の習得や周囲とのコミュニケーションがうまくいかなくなり、深く思い悩んだ」。その時初めて、親御さんから、Tenさんの保育園時代に発達障害の懸念を指摘され、小学校入学前後では既に発達障害の診断が下りていたことを打ち明けられた。
しかし、周囲は温かかった。親御さんは「自分の困りごとを言語化して他人に伝える練習をめちゃくちゃしてくれるようになった」。中学に入ると、ノートをとるなど授業も大変になるが、「担任の先生が、自分だけでなくクラス全員のノート提出を廃止にしてくれて、書くのがしんどければ教科書のコピーを貼ればいいなど」配慮してくれた。
実は、Tenさんがその後に障害の分野に携わっていく理由は、こうした自分自身の当事者としての経験からではない。実は、自分に障害があっても「そこまで障害に興味はなかった」。
当時、高校卒業後に目指す進路に進むうえで有利と聞いた『同行援護従業者』の資格を取りに行くと、援護対象の視覚障害のみならず多様な障害の話を聞いて興味をもったことがきっかけだった。そのままTenさんは、高校卒業を待たず、同行援護に加えて、居宅介護や放課後デイサービスなどのアルバイトを始めるようになった。
「障害を理由に可能性を閉ざしてしまう人が多いことを感じた」。診断はされていないグレー、診断されていても軽度、本人は困っていても制度が使えないなど、色んなシーンを見る中で、「(従来の)障害福祉では解決できず、その外側の企業や社会の側にアプローチしないといけない」という想いを強くし、活動を始めた。
それから1年経って方向性を見失いかけた時にたどり着いたのが、今でも続く『ハッタツソン』のアイデアだった。発達障害のある当事者と、そうでないエンジニアやクリエイターがチームになり、共に「一人ひとりが過ごしやすい社会をつくる」ためのサービスや仕組みを考える共創プログラム。障害の有無にかかわらず「対等であることが、めっちゃよかった」。
その後、『ハッタツソン』で生まれたアイデアから起業も生まれた。例えば、注意力のコントロールが難しい方や、曖昧な指示が理解しにくい方のタスク管理を視覚的にサポートするアプリ『コンダクター』。ハッタツソンでこれを考案した参加チームは現在、法人化しアプリをリリースして社会実装という成果を産み落とした。
しかし、こうした成果の一方で、重要な気づきも見えてきた。こうしたプログラムを契機に「症状の特性を知るのはいいが、困りごとは100人100通りで、“その特性=全員同じ”は危険」。だからこそ、対象を「症状じゃなくて、困りごとで捉える」ことが大事だと教えてくれた。
例えば、「“文字が書けない”という困りごとは、LDに限らず、高次脳機能障害やMCI(軽度認知障害)にも共通する」。だから、あくまで「“○○障害”向けではなく、“文字が書けない人”向け」で新しいサービスや仕組みを捉えることが欠かせない。「障害のある人の困りごとを解決することは大前提で、その上で健常の人にも使えることが重要。」とTenさんは強調する。
さらにその際、「福祉的な考え方だけでもうまくいかない」。例えば、“文字が書けない人”には「代筆など、他の人が助けてあげる」発想になりがちだが、窓口で手書きだったものをそもそも別のやり方に変えるなど、違った視点の工夫もできるはずだ。
また、そもそも障害のある当事者に「困りごとは何か?」と聞いても、「困りごとを困りごととして認識していない」ケースも多い。検索サイトの困りごとであれば、GoogleとYahooだとどっちがいいか?それはなぜか?などと深掘りしていって初めて“困りごと”が見えてくる。
こうした気づきを活かして、Tenさんが率いる合同会社Ledesoneでは、企業や自治体向けに、当事者と連携した製品・組織開発を支援する「インクルーシブパートナー事業」を展開しているが、「課題抽出やニーズ検証だけで終わらず、世に出るところまでもっと取り組んでいきたい」。さらに、こうした取り組みを「発達障害だけでなく様々な見えづらい困りごとや違いに視点を広げていきたい」。そう、Tenさんは今後の抱負を話してくれた。
弊社の今回の取り組みの目標は、障害のある分野での起業を増やすことだ。Tenさんは既に始められていて、そして成果もあげ、これから更に広げようとしている。Tenさんがこれまでに培ってきた知見から学べることは非常に多く、これから起業や新規事業を目指す方こそ是非その知見に触れてほしい。
▷ 合同会社Ledesone
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