『沈黙の繰り返し』
仕事をなくして数ヶ月経つ
いまだに働いていない
店から1度連絡があった
「戻ってくる気はあるか?」
「ああ、12月中には戻る」
数日にまた連絡があった
「何日だ?」
オレは連絡を返さなかった
“大事なことを決める時に生活のことは忘れろ”という言葉を思い出したからだ
ホテルを点々とし本屋と図書館に通う日々も3ヶ月目に入った
日々の食事は朝食のみだ
朝食バイキングで1日分のメシを腹に詰め込む
午前中のうちに1時間のトレーニングを行う
昨日数ヶ月ぶりに体重計に乗った
49、8キロだった
思わず鼻で笑っちまった
中学生の頃の体重だ
日中は西洋の古い小説を読み
夜はホテルのケーブルテレビで映画を観て過ごした
かつて感銘を受けた偉大な作家たちの本を読み返した
退屈だった
なぜ夢中になったのかさっぱりわからなかった
これまで手を伸ばしたことのなかった名著も読んだ
どれこれも退屈だった
オレ自身が退屈な存在になり下がっているからそう感じるんだろう
ある日いつものように図書館に向かう途中
火のついていないタバコを咥えた青い目をした西洋人が
すれ違い様にオレに聞いた
「すいません、あなたはファイアがありますか?」
「タバコは吸わないんで持ってないよ、悪いね」
「だいじょうぶ、ありがとう」
そう言いその男は去って行ったが
オレにはその青い目が
“オマエには情熱があるか?オマエは今何に対して燃えているんだ?”
と語りかけているようにしか思えなかった
情熱か、、、
一瞬その言葉が心に響いたが
そんなものはもうとっくに失っていた
明日の朝食を楽しみに
ただ流れに身を任せているだけだ
燃えているのはせいぜい過去の煙くらいだろう
それがあの男に対する返事だった
図書館に着いていつもと同じように
古い小説を手に取った
身体に染みついた習慣みたいなもんだ
ページをめくるたびに言葉が薄っぺらく
ますます退屈に無意味なものになっていく
それでも何かを掴もうとしてページをめくる
本を閉じた
目の前の言葉も
周囲のやつらの顔も
書棚に並んだ書物も
何もかもが澱んでぼやけている
その夜ホテルに戻り
テレビに映った韓国映画を眺めながら
グラスにワインを注ぐ
赤い情熱がグラスの中で揺れている
その情熱を口に含みゆっくりと飲む下す
何の味もしなかった
韓国映画には今のオレには無い力があるように感じられた
あるいはそれもただの気を紛らせるための瞬間の快楽なのかもしれない
赤い情熱を空にし
テレビを消し
ベッドに横になり
目を閉じる
何かを求めてもそれが何なのかすらわからない
空虚に時間だけが過ぎていく
その繰り返しがこれからも続いていく
そして眠りがオレを引き込んだ