35年間抱えてきた違和感 中3の私と教師
その教師は、公立校の受験を薦めてきた。
私学に進学したいと言うと、
「あっ、そ。じゃあ、こちらとしては何もしないから」と言った。
はい、と言うしかなかった。
ある日、
「受験校に提出する書類をお願いしたいのですが」と声をかけると、教師は「はぁ?めんどくせーなー」とニヤニヤ笑いながら言った。
不快だった。
だが、ふざけているのだと思って
「えー、そんなこと言わないで、お願いしますよ~」と、私は笑いながら書類を差し出した。
教師は急に真顔になって、低い声で「え?いやだよ」と言った。「オレ、何もしないって言ったよな」
頭がくらっとした。これを書いてもらわないと受験は出来ない。この書類って担任の先生じゃなくても書いてくれるのかな。どうしようと思いながら、
「よろしくお願いします」と頭を下げた。
教師は、はぁとため息をつき、私の手から書類を乱暴に奪い取った。
居間でぼんやりと参考書を眺めていると、母が
「あれ、提出した?」と聞いてきた。
「うん」と答えた。
「お手数おかけしますって、ちゃんと言った?」
「ああ、うん、まあ」
「何?言わなかったの?だめじゃない、きちんとお願いしなきゃ」
「お願いしたよ。大丈夫」
「大丈夫じゃないわよ、こういうことはね、きちんと言わないとダメなのよ」
「言おうとしたけど、めんどくさいって言われたから」
母の顔色がガラリと変わった。
あっ、失敗したと思った。
「えっ?なに?先生が面倒くさいって言ったの?」
「みたいなこと。あー、でも、もう大丈夫だから」
「何と言われたか、きちんと話しなさい」
頭がクラクラし始めた。最近座っていても立ちくらみみたいになる。なんでだろう。
私は、頭をさすりながら、教師とのやり取りを伝えた。
母は、学校に電話すると呟いて立ち上がった。
それはまずい。
「止めて!」私は大きな声をだした。「いいえ」母は電話をかけた。
電話を切ると、「先生、謝ってたわよ」
母は、満足そうに笑った。
翌日、職員室に呼び出された。
「おまえ、母ちゃんにチクッたんだな。ほら、急いで書いてやったから持ってけよ」
顎で示した先には、3通の封筒があった。
私は、封筒を取り、「ありがとうございました」と頭を下げ、職員室を出た。
最初は、気まずいと感じただけだった。
「先生!」と呼びかけても立ち止まらなかった。
受験で学校を休みますと言ったのに、何も返事がなかった。
「先生、これ」と手渡した日誌が、教師と私の間にバサッと落ちた時、やっと、ああ、私、無視されてるんだと分かった。私は日誌を拾い、教師の机に置いた。
中3の冬は授業が少なく、登校する人も少ない。
私が教師から無視されていることには誰も気付かないようだった。
親しい友人に打ち明けると、「なにそれ?ひでえな」と腹を立ててくれた。
「アイツ、変だからな。こっちも無視してやればいいよ」
ほんの少し楽になった。
話しかけなければ無視されることも無いのだからそうしよう。
心が痛むことはなくなった。
ただ、学校の門をくぐると、耳の奥でゴーっと音がするようになった。
景色も変わった。すりガラスを通したように、教室も友人の姿も白く濁って見えた。
卒業式の日。 式典を終えた後の教室で、先生に合唱のプレゼントをしようということになった。 私たちが歌い終えると、教師は「いいクラスだった。ありがとう」と涙ぐんだ。
一人ずつ、教師と握手をして教室を出た。
私の番が来た。
教師から「許してやるよ」と言われた。
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