Nervous Fairy-21"sIleNt pRAYer"
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寝たふりってのもどうなんだろうか、と思う。
「うん。結城もね」
「おう」
その後のしばらくの沈黙と、眠ったふりの、撫でる腕の静止。そして新刻の寝息を待ってから、想定外すぎた行動を脳内で思い返してみる。
いやそんなことはない。ないはず。
ただ、その仕草そのものはまさに恋人同士のそれだった。
けど、そんな約束は交わしていない。
そんな軽率に、誰かと適当な人間関係を紡ぐやつじゃない。と、思っている。
要は、俺は想を信用している。信頼もしているから、ブランドにも誘った。悪い奴ではないはずだ。
だから、それが故に、その意味や覚悟を想像すると、さっきの行為が、一気に重くなる。
悪用されることの嫌悪感だって知っているはずだ。
だから、その、彼女の行動の重さが、ずしん、と来る。
もしかして、あのとき、声が聞こえても助けなきゃ良かったのかもしれないとまで思う。知り合わなきゃ良かった?
確かに、想に好感は持ってる。それは事実だ。けど、それが恋愛として昇華していくかどうかなんて今の俺にはわからない。嫌いな奴と組むなんて非生産的なことはしないから、余計にわからなくなる。
どうしたら最もいい関係性の中に想といられるのだろうか?
とりあえず向こうは俺が寝たふりとはいえ就寝したと認識してしたことだから、俺は知らないふりでいいよな。知らなくて当たり前なんだから。
でも知ってる。
いや、ダメだそれは絶対言っちゃいけない。壊れる。全部終わる。
けど抱えていける自信もない。ブランドの話する前にしてくれよ。くそう。
やっぱ墓まで抱えてくしかないのか?
いや、そんなん無理。
うーん。俺も、想を?
いや、それは無理矢理にすることじゃないだろ。そんなん無理やりに好きになったってどっかで気持ちの有効期限なんて切れちまう。それはなし。
ならもう消去法だ。
自然と、俺が想に恋するしかない。
けどそれもなぁ!
だってさっきのが恋愛から来たものでなかった場合俺だけピエロやん!
そんなことしないとは思っているけど!
「……はぁ」
真意が想像できなくて思わずため息が出た。すると。
「…ん……」
と、想はよりによってこっちに寝返りを打ってきた。
軽ーくだけど、俺の上に覆い被さるような。
さらに距離感が縮まってしまう。
なんなんだよ。
なんだこれ。
なんかの罠か。
……あ、いい匂いする。
違うわ!うちのシャンプーの匂いだわ!
そうじゃねぇ!
ハグしてたせいで自然と左腕が腕枕状態になっていて、その俺の腕の袖を握ってくる。
「……やだ……」
と、寝言が囁かれる。
何か夢を見ているのだろう。
「……お父さん……」
ハッとする。
「…いっちゃ…だめだよ」
そのセリフに、おれの思考は一旦遅行する。
どうやら、寝言はそこで終わりだったようで、最後の一言の後、左目から一筋の涙が流れて、そのあとは寝息に落ち着いた。
大きいことはわかっている。しかし、彼女の中の父親の存在は、どれほどなのだろうか。
夢で泣くか?普通。と思ってしまうが、それは俺なんかには想像もつかないくらいのものなのだろう。
3年前と聞いている。自分が同じ目にあって、そこまで思えるものなのだろうか?
新刻 想。あんな家庭環境の中で唯一守ってくれていた父を亡くして、あの人格バリア。
1人で3年、服作りだけが生きがいみたいに過ごしてきて、今何を思ってここにいてくれているのだろう。
「……馬鹿だなぁ、お前」
そう言って、頭を人撫ですると急激に睡魔が襲ってきた。
鼻をくすぐる香りは、自然と彼女の存在を強調してくる。
けど。
何か想の望む力になれるなら、今はまぁ、それでいいか……。
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