#Functionyou;dI've -"dAybREAk"-Ⅰ


 目が覚めると、あたしの頭の中にはすぐに音楽が流れる。別に聴きながら眠っているわけでもなく、スマホのアラームに設定しているわけではないのにだ。
 その音楽は、大抵その日のあたしの生活に少なからず影響する。無視はできない起床時の思考は、1日を決定づけるとまではいかなくても、同時、眠りから醒めて、思考の蓄積はリセットされていることは確かなのに、それでもその曲から受容した感情は、次に深く眠るまで継続する。
 結果今日、あたしは嫉妬に付きまとわれるのではないか、と予感した。そんな、雲ひとつない晴天の空を目にした朝は、意外に早く来た。午前6時。今日は授業もない土曜日。眠る前は部屋に引きこもって課題をクリアする日かなーと思っていたけど、どうやらそれは、この嫉妬の黒いものを少しでも散らしてからにした方がいいかもしれない。
 せっかく早く起きた。まだ気温は低い。朝ごはんにと思っていたパンが切れていることを確認したあたしは、せっかくだしと少し離れたコンビニまで散歩がてら調達に出かけることにした。
 来なれたジャージに着替えて、財布とスマホ、イヤフォンを持って玄関を出る。
 まだ完全に陽は昇っていないものの、もうすでに十分に明るい。歩いていれば犬の散歩をしている人ともすれ違うだろう。
 今あたしは、散歩をしている。なら、あの人は何をしているだろう、と思ってみる。
 何を知っているわけでもない、きっと友達にもなれていない、同級生の男の子。彼女がいるかもわからない。
 けれどあたしは、普段大学で数言程度の会話の蓄積で、すでに心を惹かれ始めていた。異性に耐性がないとかそんなことはない。告白されたことも、付き合ったことも、一度や二度ではないし、周りの女友達の話を聞いている分には人よりはきっと少ないと思うけれど、それなりの経験はある。
 男を見る目がどうかと言われれば、自信があるなんてとても言えないけれど、これまで付き合いをしてくれた人を憎んだことはない。自分としては、いい恋愛として消化できているはずだった。疑ったことはあったけど、病むほどじゃない。
 今、そんな気になっているというよりは、もう恋に入っているであろう彼は何をしているのだろう。
 今日は休みだし、友達と遊んで眠りこけているのだろうか?
 バイトもしているみたいだから、疲れて眠っているか。
 それとも。
 あたしの知らない彼女と一緒だろうか。
 と、ありえなくはない可能性を想像してしまって、確証もないのに、苦しくなる。
 それくらいに、まだふわりと浮くぐらいの存在感しかない片恋にも、あたしは振り回されるくらい、何度恋をしても、その始まりにはなれていない。
 情緒が少し揺らぐ。
 そして今日は嫉妬のカードを引いた日だ。
 頼むからそれが、逆位置であることだけ願ってる。
 そんなことを考えながら、コンビニについた。手早く買い物を済ませて、帰路につく。
 方向が逆転して、朝日が眩しい。
 こんな光を、あなたの腕の中で見れたらきっと幸せなんだろうな。
 と思って、また、もうすでにそうしている人が今この瞬間にもいるのかもしれないと思うと、またちくりと痛む。
 よし、今日は、どこか街に繰り出してみよう。帰って朝ごはんを済ませたら午前中は課題をして、ランチから外出かな。そんな時も、誰かを誘おうとは思わない自分の思考にちょっと辟易する。友達がいないわけじゃないけど、今日の今日で付き合ってくれるだろう友達は思い当たらなかった。大学の女友達は、中高で積み重ねた傷と塗り固めた仮面で付き合っているから、そもそもこういう日に一緒にいたいと思える同級生もいなかった。高校の友達なら別だ、と思って二人ほど候補が頭に浮かぶけど、連絡するにはまだ早い。
 今日のいい天気が、いい日であることを暗示してくれているようにと祈りながら、嫉妬のカードを引いたあたしは、その混ざり合いに恐怖しつつ、少し怖くもあったのだ。


 朝食はトーストにして、久しぶりに某有名映画の美味しそうだった食べ方を真似て、黄身が固まる前の目玉焼きをのせる。アレンジは間にたっぷりめのバター、フライパンに落とした直後の卵に塩胡椒が振ってある。
 甘めのカフェオレを添えて適当にテレビをつけたけど大した情報もなかったので、音楽に切り替える。大好きなユニットの曲をランダムで書けるようと思ったけど、朝から頭の中で鳴っていた曲を選んだ。朝にふさわしいかと言われればそういうテイストの曲ではないが、今の気分で選んでみたら、食事途中でちょっと落ち込んできたからやっぱりランダムに切り替えた。半分開けたベランダのカーテンから勢いよく朝日が差し込んできた。時刻は8時前。風に流された雲の向こうに太陽が顔を出して、光が増したのだろう。
 外出することを決めていたので、洗濯機を回して終わるのを待ちつつ、スマホでどこに行こうかと検索してみる。まず目的だ。少し服は見たいけど、よく行っているところはビルの屋上でイベントがあるらしく、余計に混みそうなので却下。数駅だけ遠出になるけど、渋谷くらいまで繰り出してみることにしようかと思った。そういえば、好きなユニットの新曲も発売されていたのを忘れていたから、CDショップに寄ってこよう。配信では聞いていたけど、ミュージックビデオくらいまでは追いかけたい。ということでそれなりの目的地を数カ所見繕う。一人で動く時はそこまで効率重視するわけではなく、気分で切り替えることもあるから、あまり厳密に決め込んだりはしない。
 洗濯を済ませたら、時間は9時を回ろうかというところ。そこから課題を少し進めて、時刻は11時を回った。
 こうなったら渋谷まで移動してランチでちょうどいいかな?と思う。混む時間だけど、サイクル的には悪くない。
 持ち物は最低限にして小さいショルダーバッグ。大学では違うけど、こういう時はあまり女の子アピールしたものより、動きやすさ重視で。って言いながらデニムのロングスカートだけど。大学の知り合いに偶然会う可能性もわずかながらあったけど、まあ無いだろうと踏んだ。上半身は薄手のタートルネックニットに、ブラウンのライダース。足元は浅めのショートブーツヒール少々。うん、悪く無いんじゃ無いか。センスないけど、それでもちょっとはいい感じ。今日、な感じがした。
 洗濯物を取り込まなきゃいけない時間には帰ってくるからそのままにして外出した。
 自宅から駅までは朝に行ったコンビニとそう変わらない。スマホから無線のイヤフォンに飛ばしている音楽が、ちょうど三曲目が終わるころ駅に着いた。
 電車で渋谷までは30分程度。
 運の良いことに咳がいていたので座ると、窓からの日差しで背中が暖かい。その熱に影響されたのかどうなのかはわからないけど、ふ、とあなたのことを考える。
 そういえば、昨日の二限、前の講義の時に遅刻してしまって途中からだったからって、ノート見せてほしいって言われて貸したのを思い出す。講義の終了と同時に彼は別の講義に向かってしまったから一言お礼を言ってくれてそのまま別れたけど、ノートに簡単な感謝の言葉が書かれた付箋が貼られていた。100円もしない、50枚くらいの綴りの付箋だけど、その1枚があたしにとっては誰にもわからない、想像もできないくらい圧倒的な価値を持った。静かな宝物。しっとりと染み込んでくる彼の優しさをあたしは勝手に感じている。全部あたしのわがままで独りよがりだけど、それでもよかった。こういうことに愛おしさやありがたみ、大切さを感じてしあう自分は恥ずかしくはないけど、それに寄って彼に恋をしている自分を認識してしまって、急に恥ずかしくなる。叶うことなんてきっとおそらく、ないはずの、人知れず咲いて散っていく花みたいな恋なのに。
 そんな風に彼のことを考えていたり、乗り換えたり、これから向かうお店の検索をしていたら、あっさり渋谷に到着してしまった。
 さあ行こう。休日はきっとまだ、始まったばっかりだ。
 

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唯月希_Youduki:nONE;"zWEi"/wake
基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw

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