Nervous Fairy-20"悠花粋垂"
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「うん。結城もね」
「おう」
それで、会話は終わったみたいだった。
疲れたよね。
おやすみ、結城。
物心ついてからだろう、初めての、感覚。
隣に、安心できる温度があると言うこと。
包まれていると言うこと。
これを、恋なんて安っぽいものに括る気はない。そんなものではない、何かもっと特殊な何かだと思う。
一緒ブランド作れたら楽しいかもなぁ。
明日も楽しみだなぁ。
結城はどんなアクセサリー欲しいんだろう。
作るんじゃなくて買うとしたらどんなセンスだろう。
もし時間あったら服選び合ってみるのも楽しそうだなぁ。
あ、でも材料も買ってこなきゃ。滞ってる注文も少しあるし。
まるで、今日あんな目にあったなんて考えられないくらい、精神は回復具合を感じている。ハリボテじゃなきゃいいけど、今はそれも判別できないくらいに暖かい。
泣くってすごいな。
ハグってすごいな。
…誰かが、隣にいてくれるって、すごいな。
“代わりになんて絶対なれないけどさ……お前の、想の、お父さんの分”
そう言ってくれた。追悼にも思えた。
あたしが大好きな人を、思ってくれた。想ってくれた。家族ですら、してくれなかったけど、今目の前で眠ろうとしてる吐息を立ててるこのひとは、それをしてくれた。いとも、自然なように。簡単そうで、難しそうに。あったかく、暖かく、繊細な細工に触れるようなあの声はもう忘れられない。同級生なんて信じられない。
「ねぇ」
それが口癖みたいなあたしに付き合ってくれる。
それに答えてくれる人が、昔からいたから。
いなくなって封印した口癖が、頻発してる。
そんなことを考えていたら、頭を撫でてくれていた手がゆっくりと止まった。
ねぇ、結城。
そう言う呼び方になってまだ半日にも満たない。
いつになったらなれるかな。
起きないように、囁くように、息だけで。
「ねぇ、結城」
反応はもちろんない。
それでいい。
寝息を紡いでいくその彼に、きっとあたしの考えていることはわからない。
けど、それでいい。受け入れてくれるなら一番いいけど、それは多分、あったとしても多分遠い未来。
けれど、せっかく隣に居られる夜なら。
“これは、あたしの分”
そう思って、ゆっくりとそれをしようとして、一瞬思いとどまる。
あのね結城、あたしは、きっとあなたよりきっと。
だから、気づかれなかったら、ノーカウントで。
そう、安らかな寝顔に願ってゆっくりと一瞬だけって思って。
あたしは知っている。
認めない相手にされる嫌悪感を。
けれど、想いのある相手とのその強さも、想像できなくない。
ごめん。卑怯だけど。
知らなくていいから、あたしに、熱を頂戴。
と思ってつい出てしまった声。
「ねえ、結城。本当に、救われてるんだよ」
ゆめに届くぐらいが、ちょうどいい。
柔らかいそれに触れて、今まで生きてきて、一番安心した気がした。
結城は、全然そんなことないみたいだけど。
あたしはこの気持ちを基本的には封印する方法を考える。
いつまで持ってたら、誰か鍵をくれるかな。
これを、恋なんて安っぽいものに括る気はない。
けど、それは同時に気持ちの成長過程の経由点でもある。
185cmの長身の人が、いきなりそう生まれてきたわけじゃない。
120cmの時間だって人生には存在してる。
全ては成長。
でも今はまだ、辿り着けない。初めてだし、わからないから。
あくまで独りよがり。自分の中だけで終わらせるつもり。けど。
これ、育てて行ってもいいのかなぁ。
なんか、恋、っぽいんだよなぁ……。