Nervous Fairy-4 "月下紡想"
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あたしは困惑する。
そんなこと、何年ぶりなのだろう。もうとっさに出てこなくなるくらい前なのか、他人にそんなことを言われてしまったことに戸惑っているのか、それとも?
「一人で食べるのって虚しくね?」
言われて思う。ただの作業だったはずの食事。それ自体がもしかしておかしいことなのか?
「ま、まあ。え、でもいいよ。夜も遅いし」
「まだ7時じゃん。あ、でもそっちに都合があるなら無理にとは当然言わないけどさ」
なぜだろう何処と無く、そういっておどけた表情でコンビニ弁当を掲げて見せる篠倉の声は震えているようにも感じられた。
「ファイナルアンサーカモン?」
「……」
見つかったら何を言われるか分かったものではない。けれど、見つかるわけもない、か。
「……今鍵開けるから」
あたしは偶然にもちょうど蝶番と鍵をつけて開閉式に改造していた柵の鍵を外す。時折やる深夜散歩対策のためだ。
「お、まじで」
答えない。何かを見透かされそうな気がしたから。
そうしてその柵の安い鍵である掛金錠を解錠して、中に入るように促した。
「ほ、本当にいいの?」
「お前が言ったんだろ。いいから早く。見つかる前に」
「わ、分かった」
見つかるなんて可能性はほとんどゼロに等しくなかったけれど、奴はそそくさと離れの玄関をくぐった。これで見つかりはしない。
あたしも早足で戻って玄関を音がしないようそっと閉め、鍵をかける。
それからしばらく耳をそばだてる。篠倉も察してくれたようで、声を潜めていた。
少しして、なんの物音もしないことを確認した。よし、大丈夫。
私は扉を閉めて鍵をかけ、玄関スペースで靴を脱いで上がるけど、篠倉は玄関に立っていた。
「…まったく。なんでこんな突拍子なんだお前」
「いや、通りかかったら明かりついてたからさ」
「そこの側道良く通ってるなら、だいぶ前からあたしがここを部屋にしてることに気づいてたんでしょ」
「もちろん。服作ってるのも知ってる」
「……え?」
「窓のカーテンがわりにしてるの、売り物にしてる服じゃん」
「……嘘」
「本当だよ。あと他になんか作ってるのもちらっと見たことあるよ。それは何かわかんないけど」
「……え……」
きっと父のことだ。
「あと、そう!この間…あ、でもまあ飯食いながら話そうぜ」
「…あ、うん」
そういって、困惑したあたしも机に置きっぱなしだった弁当に向き直るが、気づいた。
「あ、ごめん。この部屋、完全一人仕様でさ、床でもいい?」
「もちろん。じゃ、お邪魔します」
そういって、自力でなんとか作った小さな段差で区切った玄関で靴を脱いで床に上がる篠倉。
「あ、ソファ借りてもいい?」
と、唯一ある三人がけのソファを指差した。
「…だめ。そこあたしの寝ぐらだから」
「あ、そうなのか。わり」
「あ。でもクッションは使っていい。お尻痛くなっちゃうし。あとソファ前のテーブルは使ってもOK」
「あんがと」
といって、ソファ前の小さな低い丸テーブルにコンビニ袋を置いて広げ始め、
「いただきます」
と言って割り箸を割った。
…今日は、なんなんだろうか。