初めてのキスをするための背伸び。(1)
自分はガチで本気なのに軽くいなされて病んで、夜中に膝かかるような恋なんていらない。
主導権はあくまでもこっち。
嵌まり込んでヤラレっぱなしなんて、マジダサい。
そう思っていた時期が、私にもありました。
結果、中学では周りに興味がなさすぎて地味子を貫き通して身を守っていた。軽めのヘッジホッグズジレンマだ。ただ他人に対する撥水効果たる武器はトゲじゃなくて無言と無視のブレンドだけど。
そして高校入学。溜め込んでいたものをぶちまけて思いっきりイメチェンした。
ボッサボサにただ伸ばしっぱなしだったロングヘアともお別れしてショートカットにして、だけどけれど、黒髪だけは守る。染めるのはまだちょっと。
メガネも思い切ってコンタクトにして、それまでほとんど全くと言っていいほどしなかったメイクも始めた。ナチュラル系だけど。
美容院にも定期的に通い始めた。前髪もちゃんと気になり始めた。
きっと周りの女子に比べたら遅すぎんるんだろう。
大好きだった本も、半年ほど開かなくなって、ちょっと物足りない気持ちも後ろ髪を引かれる思いもあるけど、それでもあたしは渋谷を選んだ。
このままでは、あたしは憧れているあたしになれない。自分を包んでいる殻に気づいたならそれは破る力をつけるためのきっかけ。そんな殻に、何かから自分を守ってくれる力はない。それに頼ったら、それを言い訳にしたら、ただの卑屈になって行くためだけの空想の檻。伊達に純文学読んでない。いろんな作品のそんな感情論や人生観が積み重なって、あたしはそう思っている。結果として自分にとって舌触りの良い、都合のいいものだけ選んでいるのかもしれないけれど、知識や経験の蓄積から導き出される一本道というか、混成した結果に生成される純粋培養の希望細胞みたいなものは、結局自分で選ぶために生まれたものなのだろうと思う。それがたとえ、目に見えない、意志というものであったとしても、何の盾にもならない、ただ閉じ込めて置かれるだけの檻を叩き壊す力になるのであれば、あたしはそれを手に取る。さらにそれがたとえ、悪魔の力だとしても。
その武器が、外見であり、ファッションであり、理論であり、夢であり、蓄積してきた経験によって成った自分自身だ。
他のみんなが遊んでサボってきたことを、あたしは全て自分なりにクリアしてきた。まだラスボスには会えていないけど、それでも他人よりは突破できるつもりでいる。
そんなわけで、ちょっと古いのかもしれないけど”高校デビュー”ってやつを果たしたあたしは、一ヶ月で5人を振って、ようやく其の地に降り立った。