"となりと、となり。"3-いざ。
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夜が、深くなっていく。
それほどに、期待と不安が比例して膨らんでいくけど、感情の種類が真逆だからあたしの心は勝手に離れていく。
あたしじゃないみたいなところにある心は、一体何を感じているのかもわからない。自分が、期待を持っているのか不安なのかもよくわからなくなる。
生きたいのに、もっと伸びたいのに、枯れていってしまう花のように。
それは、私が摘もうとしてしまった気持ちみたいに、終わりを予感させる。
けれど、きっと決めたことだから。
あたしは、あなたにあなたでいて欲しいだけ。
大好きなあなたのままで、未来にもう何歩でも踏み出していって欲しいだけ。
それには、あたしはきっと邪魔なんだ。
(この、勝手な結論に足りないことに、この時のあたしは気付いてない。)
そんなことを、思考に潜り込むように考えていたら、自然と眠りこけていた。
目覚める時、決まって右向きの、ベッドの右側で左半分空いている。
ああ、あたしはやっぱりまたあなたと眠りたいと思っているのかと自覚して、本当に別れを切り出すことなんてできるのか、と思う。
しっかりしろ、長月秋桜。
太紀のためと思って作った気持ちを、今日から決めにかかるんだぞ。
顔見て、絆されたらダメなんだ。
もし彼が、あたしと離れて、夢を叶えてくれて。
それでもまだあたしのことを想ってくれていたら嬉しいけれど、そんなことは万に一つもないだろう。感じなくなった気持ちは、時間が経てば朽ちてしまう。
さあ、準備しようと思って、ベッドを離れる。
そう言えば、目覚ましアラームなってない?と思って、時間を見ると、予定の起床時間よりも早かった。まだ6時5分。
と思ったら、スマホがメッセージの着信を告げてきた。
0分前
たいき
“まだ眠ってると思うけど、おはよう。無事に東京駅行きの電車に乗っています。このあと5時間の長旅になるから、もしよかったら時々メッセージしてもいい?”
こういうところだ。こういうところも大好きなのだ。
あたしが好きな太紀が、キロバイトの塊で伝わってくる。
くらっとする。
気持ちが、心が。
天文学的な確率。
そんな素敵な太紀の未来に、あたしがしてあげられることが一つでもあるということ。
けれど、そんなことはきっとない。円周率が最後まで計算され切っちゃう未来とか、宇宙人との遭遇するを果たす確率とか、そういう話になってくる。
あたしはきっとできない。ここを離れられないって現実的な話もあるんだけど。
0分前
しゅお
“おはよう。起きてたよ。っていうか、起きたら太紀からメッセきたからびっくりした。目覚ましは6時半だったのに。メッセ、へーきだよ。”
少しだけ絵文字とかも使って返してみる。
別れを告げる相手なのだけど、あと二日は、ちゃんと恋人でいる。いさせてほしい。
そして、その間に、あたしの決心を固めに行く。
シャワー、服のコーディネート、メイクとか諸々の準備、なぜか洗濯、洗い物。そしてちょっと遅い朝食を終えると、時間は10時になっていた。ちょっとのんびりしすぎたかなと思うけれど、今から出ても間に合う。さてと。
じゃあ、行きますか。
#Swimmy (@327__723)