Nervous Fairy-30"混夜奏破"
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それからは、お風呂を先に譲ってもらって、もろもろ済ませてから昨日結城と一緒に眠ったベッドに潜り込む。
多分だけど、少しだけ結城の匂いがする気がする。
残り香。
結城は今、どんな気持ちでいるのだろう。病室で、1人で。
枕元で充電している携帯には昨日交換した連絡先がラインにある。着信はまだない。
何してるんだろうな。
何を思っているんだろうな。
と、思って、まだメッセのやり取りのないその画面を見て、でも自分から送ることはできない。
明日のこととかはお母さんから連絡が入っているんだろうし。
……え、何か送っていいのかな。
でも、なに、送る?
友達にもラインなんてしたことないのに。お父さんくらい。
え。なんだ。どうしたらいいんだ?
…んーと。
あ、一応連絡しとこう!明日朝行くって!
「よし……」
人生初、家族以外のライン。
「明日、朝行くから。8時くらい、っと」
そ、送信。
するとすぐに既読という表示がでた。
見てる!もう消灯時間過ぎてるのに!
「夜更かし禁止だよ怪我人ー」
それから少しして、返信の届いた音がする。
「んっと」
真っ暗な部屋の中で眩しい携帯の画面は伏せておいていた。手に取ると、着信したメッセージが表示されている。
「起きてたか」
つい音読になる。起きてます。
「ちょっとデジタルの文字だから味気ないんだけど、新ブランドの名前考えてた。ちなみに、今、想のやってるブランドって、『悠花奏添』で、あってる?」
「あってますー」
そのまま送る。つい口に出るな。
なんでだろう。そういうもん?
とか思っていると、返信はすぐにあった。
「じゃあちょっと趣違うかもなんだけど。作家名は「紡」で合ってるよな?あってますー」
またそのまま送る。
口に出るの癖になったら厄介だな。
すぐに着信音が来た。
「えーっと………想うに、結びで、【想結】。読みは【おもいゆい】アルファベットなら【omoIyui】……おもいゆい。あたしたちの名前か!」
つい興奮して声が出る!まじか!そんな!いいのこんな贅沢な!贅沢?
しかも意味もなんとなくわかる!
「あーえっとまじかうーんなんて返そうええええ」
また追撃で届く着信。
「何!……えっと……意味的には、自分たちの服とアクセサリーで誰か素敵な人との想いとか出会いを編んでください、結んでください、ぐらいしかまだ考えてないけどもっと煮詰めるわ……」
なんなのこの人。今日お腹二箇所刺されてる人のラインじゃない!
「え、えええ、っと。なんて返そう。え?んー……まあいっか!”とりあえず現時点では素敵過ぎて大好きとしか言えないです。”」
打ち込んで送る前に思いとどまる。
いや、大好きはだめだ。好みに止めよう。なぜ?
”とりあえず現時点では素敵過ぎて好みとしか言えないです。”
送信。
あ!ヤッベ素敵とか送っちゃった!
「ああーーーーーーー!恥ずかしい!!!今猛烈に!」
足がバタバタする。ベッドの中で何をやっているんだあたしは。
でもなんか異様に恥ずかしい。
そして返信が着信。
「おっけ。ありがとう。もしよかったら近いうち想の考えたのも聞いてみたいから、適当に考えてみて」
音読のオンパレード。
「ん……うん、それじゃ、考えとく、自分から送って、あれだけど、早く、眠ってね」
と送っておく。この口に出ちゃう癖、結城が退院するまでに封印しないと。
また着信。打ち込むの早くないか?
「ああ、おやすみ。うん、おやすみ、っと」
スマホはアラームを設定して、枕元に置く。着信音は止まった。
少し寂しいけど、でもその方がいい。
早く治して、帰ってきて、結城。
ベッドの中で体を丸めると、急激に襲いくる睡魔。
早く眠って、早く明日にたどり着いて、結城に会いにいけと言われているような錯覚に勝手に陥る。
…明日はハグ、できるかなぁ……。