『カジャナ』店主ヘメン・デイヴ一家に見る西インド・グジャラート料理 #5
5.グジャラート・アフマダーバード探訪
今まで4回にわたって書いてきた当テーマ第5話めはインド北西部グジャラート州探訪の記録です。『KHAZANA(カジャナ)』店主ヘメン・デイヴさんの長兄アールビンさん・クスムさんのお宅にステイさせていただきました。
アールヴィンさんたちのお宅はアフマダーバードという大都市郊外にあります。アフマダーバードは1960年から1970年まで同州の州都だったそうな。マハトマ・ガンディーがアシュラム(修道場)を開き、当時支配していたイギリス政府による塩専売に対する抗議「塩の行進」をスタートした地としても知られる有名な街です。
時刻は21時半頃。クスムさんが夜食に「バァタタ・ポゥハ」というものを作ってくれました。これが何度聞いても聞き取れない。「ボゥタタポワ」「プゥテタプゥワ」「ボデタポワ」。5回目くらいでようやくポテト・ライスのことだと認識。「バァタタ」はグジャラート語でアルー(ヒンディー語でジャガイモのこと)、ポゥハはライスパフのことのようです。平に加工したドライライスのことです。これは昔から付き合いしているインド人たちの話から、グジャラート周辺のラージャスターン州やマハーラーシュトラ州などインド北西地域の広くで使われている素材だということは理解していました。
マスタードシード、ヒング、クミンシード、グリーンチリ、カレーリーフ、ターメリックなどを油で炒め、タマネギ、ジャガイモ、ピーナッツを加えた後、塩で味付け。最後にレモンを絞り、コリアンダーリーフを和え、セヴ(麺)を振りかけて出来上がり。
ふわふわとした食感と塩味、マスタードの香ばしさ、ポテトやタマネギの甘み、時折入ってくるピーナッツの食感が最高です。なんぼでもいける。
よく朝食として食べるそうですが、今日みたいに遅い時間に食べることもあるそうです。誰もが知ってるグジャラーティ・フードだと。
「グジャラートはインドの中でも特にベジが多い地域。イモもミルクも食べないジャイナ教の聖地があり、禁酒の州だから、州全体人口のうち60%以上がベジタリアンと言われてます」とクスムさんとアールヴィンさん。
ジャイナ教といえば根菜や一切の動物性食品を避け、葉(茎を含む)野菜、豆類しか食べない、インドで最もストイックな菜食主義です。中には日が暮れると調理も食事もしない人たちもいるとか。
ちなみに南インド・バンガロールにある世界的な大手食品メーカーMTR社の副社長をインタビューした際は「欧米の影響、著しい都市化、所得増加によりインド人のベジタリアン率はどんどん減っていて今(2015年)や3割。さらにそのうち約1割はオボ・ベジ(卵を食べる)」とのことでした。
インターネット「The registrar general of India」のデータ(2018年)では、インドで最もベジタリアンが多いのはラージャスターン州で約75%。次がハリヤナ州で約69%、パンジャブ州約67%、そしてグジャラート州約61%となっていました。以降はマディア・プラディーシュ州約51%、ウッタ・ブラディーシュ州約47%、マハーラーシュトラ州約40%、首都デリー約39.5%、ウッタラーカンド州約27%、バンガロールのあるカルナータカ州が約21%と続いています。
一応、インド政府による国勢調査(2011年)ではインド全国では約28~29%がベジタリアンと公表されていますので、MTR社のほぼ言う通りに思えますが、何かと数字が怪しいインドのことなのでどこまでが本当かは誰にもわかりません(笑)
とにかく俯瞰してみて、グジャラート州はベジが多い地域であることは間違いないようです。
翌朝、目を覚ますとテラスでクスムさんがブラスカップ(真鍮製カップ)から水を垂らしながらプージャー(ヒンドゥー教の祈り)を行っていました。
朝食は様々なスナックでした。すべてクスムさんの手作りだそうです。写真中央の丸いものが「スキ・カチョリ(Suki Kachori)」、スキとはドライのことだそうです。かじるとビスケットのように生地が崩れて、中からアーモンドやレーズン、カシューナッツなどの砕いたものが出てきました。甘辛酸っぱく、ややガラム(スパイスの暑さ)の感じがあります。
「フェンネルやコリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ、デーツタマリンドチャトニ(ナツメヤシとタマリンドの煮詰めたもの)、砂糖などをいれるのね。1か月は保存できるグジャラートの便利なスナック」だとクスムさん。生地はマイダ粉を使用。インドの中~準強力粉のことです。
その手前の小さな豆が「カブリチャナ(Kaubli Chana)」でひよこ豆のこと。左の平らなのが全粒粉で作る「ダニヤ(コリアンダー)プーリー(Dhaniya Puri)」。赤糖・粗糖のジャグリ―とギーをカラメルにして作る「チッキ・ピーナッツ(chikki penuts)」。茶色の四角形のせんべいのようなものが「メティ・パラ(Methi Para)。マイダ粉にメティやターメリック、レッドペパー、ヒングなどを加えて生地を作り、ひし形に切って油で揚げたものだそうです。手前のパラパラのが「ポゥハ・チウダ(Poha Chivda)」。ピーナッツも入っていて味は甘辛いです。
「このようなドライなスナックだけでなく、グジャラートや隣のマハーラ―シュトラ州などではファルサンといって、スナックのようなおかず、オカズのようなスナックが数えきれないほどあります。めでたい時やお客さんが来た時などはドクラやカマン、カンドゥヴィ、各種のテプラなどを作ります。ラタさんも作っているでしょ?グジャラート人は誰もがこれらを愛していてみんなが作っています」とアールビンさん。
他にも小麦粉ベースの生地にレッドペパーやターメリックを入れて焼き上げたパリパリ食感の「カックラ(Khakhra)」や多種多様な「チャトニ(Chatney)」などたくさんのホームメードソウルフーズの味を体験させていただきました。
お昼は2番目のお兄さんナビンさんも誘って4人でグジャラート名物のターリーを食べに行きました。ターリーとは僕がかつてやっていた日替わりインド料理店の店名でもあります。インドの言葉で定食とかそれを入れるためのお皿を指しますが、そのターリーの超本場がグジャラートです。そしてこの街のターリーは超豪華でもあります。名店の一軒『Atithi Dining Halls』へ。
うわさに聞いていた通りの豪華&大がかり?!我々の目の前に置かれた大きなターリーめがけて、入れ代わり立ち代わり給仕がやってきては料理を載せていくのです。定食というより一挙にフルコースです。
「次から次、やってくるので要らない時は手で伏せて、もっと欲しい時はここに入れてくれ、と指をさせばいい」とナビンさんは言うのですが、こちとら初体験で何が何なのか聞きたいし、写真も撮りたいし、味わってみたいしで激しく忙しい(汗)。慌てまくる僕をもっと慌てさせようとしているようにしか見えない給仕たち。
左下から時計の逆周りに、直系12,3センチのチャパティ(Chapati)、パパド(Udad Papad)、ミルクを甘くして煮詰めたバスンディ(Basundi)、カラチャナ豆の甘酸っぱいラサワラ(Rasawala)、安心感のあるジャガイモカレーのポテト・サブジ(Batata nu Shaak)、チーズのスパイシーなパニール・マサラ(Paneer nu Shaak)、オクラの酸っぱいビンディ・マサラ(Binda nu Shaak)、カブリチャナ豆のカレー(Chole Masala)、サラダ(Kachumber)、レッドチャトニ(Red Chatney)、タマリンドチャトニ(Tamarind Chatney)、白いのはココナッツチャトニ(Coconut Chatney)、ベスンでつくる蒸しケーキ、カマンドクラ(Khaman Dhokla)、米や豆で作るホワイト・ドクラ(White Dhokla)、ボール状のものは2種のカチョリ(Kachori)、そして最後がマイダ生地を渦巻き状に揚げてシュガーシロップにつけた甘いジャレビ(Jalebi)。飲み物はラッシー(Lassi)です。
夜はアナンさん家にお邪魔して、チャパティとセヴ(ベスンで作った麺)トマトのカレー(Sev nu shaak)をいただきました。5人家族+ホームステイ中の日本人女性と僕の合計7人。あちこちから「チャパティもう一枚!」と声がかかり、そのたびに奥様が手早く奇麗な丸型で布のように薄く延したチャパティを焼き上げていきます。僕も調子に乗って4枚,5枚!
さらに翌日の夜はクスムさんのカディ(Khadi)とチャパティも。
お腹パンパンです。インド人はみんな食べるのが大好きだと思いますが、いやはやグジャラートはさらに輪をかけての、まさに食い倒れの街でした。でも、すべてベジなので罪悪感薄め~。
先ほど『KHAZANA(カジャナ)』店主のヘメンさんに確認したら「今(2/1現在)はまだ北インドとグジャラートの融合だけど、コックが揃ったらグジャラート専門店にするから。それまではランチでグジャラートターリーを食べてもらうか、アラカルトやコースの場合は前もって相談してくれればラタがご用意します!!」とのことでした。電話はヘメンさんの携帯電話で、
09027071511
です。
Namasute ごっつぁんです
クスムさんに捧ぐ
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