『千のナイフ』|坂本龍一
1978年——『千のナイフ』が世に放たれた。
この曲たちを耳にする度、不可解な感覚が襲ってくる。自分とほぼ同級生であるはずなのに、まるで異星からの使者のようだ。
尖り切った詩の朗読で幕を開けるオープニング。
この音楽たちの正体は何なのか。
半世紀前の音が、当時を虜にし、今なお現代の心を掴んで離さない。オーパーツとは定義が違う。これは別物だ。
耳を魅了するのは、聴く度に心の中の風景が変わることだ。ある日は祭りの真っ只中で乱痴気騒ぎ。別の日には嵐に立ち向かう必死の思いが込み上げてくる。時には砂漠で涙を流しながら、ただひたすら前を見つめることもある。
ジャズにクラシック、ロックにテクノ、民謡に童謡。ありとあらゆるジャンルが入り乱れている。だが、それだけが理由じゃない。そんな単純な話で片付けられるはずがない。
昔から知っていた音楽のようでいて、初めて耳にする新曲のような。この感覚の正体は何なのか。
「誰かのためになんて思って音楽作っているわけじゃない。ただ、自分のため、なのですね。」と、作者の言葉。
となれば、坂本龍一教授自身がオーパーツだった可能性も捨てきれない。
真相は音楽評論家に任せるとしよう。
この音楽が心を掴んで離さないのは紛れもない事実。
それだけは揺るぎない真実だ。
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谷口賢志
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