七草粥とは程遠い
正月の初席、二ツ目も出番はないけれども各寄席に顔付けはされている。
出演者が急な体調不良で出られなくなった時の代演? とかそんな名目? だったような……正月だから全員を顔付け……とか……。
わからないけど、とにかく顔付けされているのだ。
私だと鈴本演芸場の3部、三三師匠の芝居。
な訳で、出番こそないが1日くらいは新年の挨拶を兼ねて顔は出しておいた方がいい。
三が日。
この辺りは、寄席へ行くのに着物を着ないといけない。
これは面倒だし、仕事もあったし、前座さんもバタバタしていて邪魔になってしまう。
私も前座経験があるから分かる。
出番もないのに楽屋にずっと居られると邪魔すぎるのだ。
三が日に行くのはやめておく。
一月五日。
この日は東劇にシネマ歌舞伎を観に行く。
そして帰りに鈴本演芸場へ寄って挨拶をすれば時間と交通費の節約にもなるなと、カバンにお囃子の師匠方や前座さんへのお年玉を入れて家を出た。
正月の東劇はいつも通り少し寂しい。
いや、歌舞伎座が賑やかな分いつも以上に寂しかったかもしれない。
『ぢいさんばあさん』を堪能して東劇を出て、鈴本演芸場に向かおうとしたら手拭いを忘れたことに気づく。
コロナ以降手拭い交換なんて滅多にしなくなったし、また、二ツ目が真打と交換なんてこともあまりないから手拭いはなくても構わないのだけれど、
「どうせ手拭い交換なんかしないだろ」という、そういう心持ちが嫌というか、
今年はなんとなく正しく在りたくて、ちゃんと手拭いも用意して挨拶に行こう! とその日は帰った。
一月六日。
雨。
昼頃に天気予報を見た時は、夕方には雨は上がるとのことだった。
トリの三三師匠が8時半上がりだからそれに間に合うように出かけようと思ったが結局夜まで降り続けるとの事で断念。
お年玉や手拭いが濡れるのは良くない。
一月七日。
朝、パラパラと雨。
それも昼過ぎには止み、冷えるけど陽射しは暖かそう。
お正月休みをとっていた大好きなパン屋さんが営業を開始していたので、
アボカドとサルサソースのホットドッグを二つ買ってうちへ持って帰り、
レンジで軽く温め直していただく。
表面のチーズはパリッとしていて、中からサルサソースやソーセージの肉汁が溢れる。
アボカドはコクやジューシーさをさらに引き立てている。
相変わらず美味しい。
そうこうしている内に鈴本演芸場へ行く時間。
カバンにお年玉を入れる。
そして電車で読む本を入れる。
今年は隙間時間で読書に励むのだ。
そうだ、寄席に行く前に落語協会へ寄って会のチラシを置かせてもらおう。
二種類30枚ずつくらいをカバンに入れる。
ついでに銀行にも寄って振り込みもしちゃおう。
カードケースとお金の入った封筒をカバンに入れる。
ありったけの予定をカバンに詰め込んだ。
中野から電車で神田へ向かう。
中央線は現在グリーン車を導入しているが、正式なサービスはまだ始まっていなくて普通車として利用できるのだけれど、これがまだあまり知られていないので、
どんなに混んでいてもグリーン車は空いていて座れたりする。
吊り革を掴んでいる人を見て、へへ、情弱どもめ、なんて一瞥。
ゆったりと腰をかけて、カバンから読みかけの本を取り出して開く。
そして気づく。
手拭いを忘れた。
アホやん。
まぁ、人生って大体そうなんだよな。
手拭い交換はなかった。