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令和六年十月六日『第八回 黒酒ひとり』於・なかの芸能小劇場

十月の黒酒ひとりのテーマは『黒酒寄席』。
以前白酒が横浜にぎわい座でやっていた会のオマージュ……というかパクリ。
色物を除く寄席の流れを1人でやる。
早い話が、寄席でかかるような噺をたくさんやる。

以前師匠が言っていた通りで、噺は『時間』じゃなくて『数』。
60分の噺一席やるより15分の噺を四席やる方が疲れる。
これは聴く方もそう。
一回一回集中するのって結構なエネルギー。

また、これも師匠が言っていたのだけれど、
寄席においては「トリの為に前方は力を入れない。お客さんが疲れるから」らしいので、今回の黒酒寄席も前半は力を抜いた方が良かったのだけれど、お構いなしで力一杯三席ネタおろしした。
エネルギッシュ甚だしい。
「お客さん疲れてるなぁ」ってのが高座の上からでも分かった。

◎まんじゅう怖い
桃月庵あられとして開口一番。
あられのめくり持ってくるつもりでいたのに忘れた。
夜通し稽古して仮眠も取らずに来たのでボーッとしていたのだと思う。

一睡もしていないとか、忘れ物した日の高座は無茶苦茶出来が悪い。
もうそういうジンクス。
だけどもう「コンディションが悪いことに慣れよう」「なんだったらもっと自分を追い詰めよう」と開き直ったら、割と落ち着いていつも通りできた。
ただ、感覚としてはいつも通りだけど、あまり噛み合ってない気はした。

前座の頃得意にしていた【まんじゅう怖い】をやるのも一年以上ぶり。
確か、どっかでやって大滑りしてやらなくなった。

◎豊竹屋
10分程度の噺だけどネタおろし。
意外にも反応が凄く良くてびっくり。
ウケないかクスクス程度だと思っていた。

低くて太い声が滑稽噺と初めてちゃんとマッチした気がする。
そして私の関西出身が豊竹屋節右衛門さんの関西弁とマッチして、
今毎週通っている義太夫の稽古が活きた。
つまりこれは、パーソナルな部分と噺が合ったからウケたのか?

まぁでも自分の会のお客さんですからね。
寄席でやってどうなるか気になるところ。

◎身投げや
雲助師匠のイメージ。
この噺は一門の弟子たちは誰もやらない。
孫弟子もやらない。
よその一門が雲助師匠によく教わっているのは知っているが、
その人が【身投げや】をやっているかというと……ほとんどやっていない。
縁起が悪い、ウケどころが少ない、は勿論だけど、
なんというか、これまで培ってきたものがあまり活かされない噺だからだと思う。
金が無いけど深刻じゃない、鼻歌歌いながら人の落とした財布探してるような奴が他の噺に出てこない。
でも、なんかやってみたい魅力のある噺。

主人公をもっと子ほめのはっつぁんくらい傍若無人にしてみようか。
おうむ返しの噺のようでそうじゃないので、きっちりおうむ返しにしてもいいかもしれない。
もちろん教わった通りを磨き続けてもいい。
今後どうしていこうかな。

しかし上の階のガタンガタン、音が気になったなぁ。

◎だくだく
お客さんに疲れの色が見えてきたところで、より想像力を要する噺。

1つなら気にならない細かいマイナス点がたくさんあった。
これは『ネタ下ろしの粗さ』なんだけど、でもなんか『疲れから来る粗さ』とか『人間の荒さ』で中和できてた気がする。
アドレナリンが出てて「間違えたからなんだよ」みたいな開き直りの精神。
だからミスがミスに見えない、みたいな。

稽古したもので勝負できてないから好ましくはない。
でも、こういうものの延長線上にあるのがフラだと思う。

◎火焔太鼓
もうランナーズハイみたいになっていた。
頭は必要最低限の働きで、身体の力は抜け過ぎてて。
ところどころ粗いけど稽古で染みついたものや稽古してない物まで勝手に出てた感じ。
何がどうってあんまり覚えてないけど、楽しかったのは覚えてる。
サゲ前あたりとか喋ってて気持ちよかった。


わたしさんの高座も入れて6席+トークで二時間半。
ご来場の皆様お疲れ様でした。
私も疲れましたが、今回は何日も引きずる疲労じゃなく、むしろ心地よかったです。

今回の黒酒ひとりは全部滑稽噺で、しかもタイプが違う物に挑戦しました。
今年ネタおろしした滑稽噺のほとんどが、全然モノになっていないので、勘を取り戻すという意味もあります。
取り戻せたかどうかは分かりませんが、入門したての頃に師匠が「本人が楽しんでやればそれがお客に伝わる」と言っていたのを終演後に思い出して、色々納得しました。

十一月で二ツ目三年目。
初心にかえって楽しもうと思います。
ぶつくさ。

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