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【18日目】落語を好きになった瞬間

落語を好きなった瞬間というのをはっきりと覚えている。

念願の弟子入りが叶って二ヶ月経った頃。
落語を教わるわけでもなくただただバイトをするだけの毎日。
元々落語が好きだったわけでなく白酒が好きで入門したようなヤツなので、やっていけるか不安になっていた。
「生き抜く為に勉強しなきゃ」と毎日落語を聴いて、でも勉強の為に聴く落語なんて面白いわけがなくて、でも落語を聴く以外にすることがなかったそんな時に、
録音していた『志の輔ラジオ 落語DEデート』というラジオ番組を聴いたのだ。

ゲストははるな愛さん

普段の番組構成は、
立川志の輔師匠が女性著名人をゲストに招いてトークをし、ゲストと一緒に名人の音源を聴くという、まさに落語でデートな内容。
番組が面白くて、ただただ落語の音源を片っ端から聴いていくよりも精神に負荷なく落語が聴けた。
志の輔師匠の感想のようなものも良かった。

そんな番組の女性ゲストがこの日は、はるな愛さん。
はるな愛さんが女性かどうかという話は現代においてナンセンスだろう。

「今度お好み焼き屋がオープンするんです」

というはるな愛さんに

「じゃあ今度行きますよ」

と志の輔師匠。
そんな仲の良さそうな2人で聴く落語が志ん生師匠の【ふたなり】という落語だった。
はるな愛さんだから【ふたなり】。
喧嘩にならない?

ふたなり

まーーーー面白くて。
はるな愛さんと【ふたなり】というのが、とんでもない皮肉なんじゃない? と驚いたこともいいマクラになったんだと思う。
志の輔師匠は「初めて聴きました。現代のコントのような面白さ」というようなことを仰っていた。

元お笑い芸人で落語家になりきれていない当時の私は、『落語』というものに対して言葉を選ばずにいうと『古い』『固い』というイメージがあって、
現代のお笑いのぶっ飛んだ発想勝負みたいな面白さはないと思っていた。
でも志ん生師匠の【ふたなり】は語り口が柔らかくて独特で、噺自体も良くできた現代のコントのようで、落語ってこんなに面白いんだ! こんな風にやっても良いんだ! と、なんだか落語のイメージを覆された。
落語が好きになった。

弊害?

【ふたなり】で落語が好きになった弊害なのかなんなのか、ちょいとブラックな噺が好きだ。
志ん生師匠の【黄金餅】【後生鰻】【義眼】が楽しくてケラケラ笑っていたのだけれど、コンプライアンスの波というやつは寄席という入り組んだところにまで波及していて、今挙げた噺なんかはすこぉし引っかかる人がいるらしい。
こういうものは最初は小さな声でも徐々に無視できなくなる。
そして今後も発言に対する取り締まりはどんどん厳しくなっていくだろう。

「廓噺もそのうちできなくなるんでしょうね」

ウチの師匠も高座で言っていた。

だけど変な噺から落語を好きになる私のような人間もいるので、変な噺だろうが廃れた噺だろうが、そしてこれから廃れていくような噺だろうが色々覚えてやっていきたいな。


18/40 池袋演芸場 八日目
【狸札】
喬太郎師匠、白酒、一之輔師匠のキャパ1000人規模の会で動きの小さい【狸札】やって大滑りして以来なので、約二年ぶり。

昨日の夜頑張って思い出すついでに、前座の頃には出来なかったくすぐりを全部足したら13分くらいのネタが17分くらいになった。
やりたいことやって言いたいこと言って満足。

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