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【22日目】大宝恵

叱って伸びるタイプと褒められて伸びるタイプの人間がいるのであれば、
私はというと褒められて伸びるタイプです。
ほめられ亭伸びるです。
ただ、前座修行を振り返ってみると褒められたことなんてほとんどなかったと思う。
修行だから褒めないのか。
シンプルに褒めるところがないのか。
そもそも褒められた商売じゃないからか。
あるいは【子ほめ】をやりすぎて褒め飽きているからか。

前座修行を振り返って

とはいえ褒められることが全くないわけではない。
これまで一番嬉しかった『褒め』はなんだったろう。
落語を褒めていただいたこと?
違う。
嬉しいけれど「またまた御冗談を」という気持ちが強すぎて素直に受け取れない。
声はよくほめられるが、どこか馬鹿にされているような気もする。
楽屋働き? そんなものは褒められてもしょうがない。
安い着物を着ているのに「良い着物着てるねー」と言われたのは……これはちょっと嬉しかった。
と色々あるが、やっぱり一番はやっぱりネタ帳、字の事を褒められたことかなぁと思う。

綺麗な字ではない

ネタ帳を書くようになって、初めの頃は綺麗な字を心掛けていた。
スマホで楷書を表示させてそれを真似して書いていた。

ただ、綺麗な字とか丁寧な字は突き詰めるとパソコンとかスマホで表示される文字と変わらないんじゃないか?
とだんだん思うようになってきて、
「こんな字は褒められても劣化パソコン文字だ!」
と綺麗に書くのを辞めた。
いや、師匠方が読みやすければそれで良いのだけれど、
綺麗に書けば書くほど小さな粗が目立って汚く見える。

そこで考えたのが『綺麗な字』を書くんじゃなくて『カッコいい字』を書くこと。
綺麗じゃなくても「そういう癖の字の人なんだ」と思わせること。
それでいて読みやすいネタ帳という感じを前面に押し出す様な字。

馬風師匠

そんな試行錯誤の末にたどり着いた私の字を褒めてくれたのは馬風師匠だけだった。
馬風師匠は会う度に字を褒めてくれた。

「面白ぇ字書くなぁ。一つ一つ見ると綺麗って訳じゃねぇが、まとまって見ると読みやすいからよ、良い字なんだろうな。うん、面白ぇ字だ」

さすが馬風師匠。
自分がこっそりやっているこだわりに気づいてもらえるのは本当に嬉しい。
これは字に限った話じゃなくてね。

褒められて伸びて

それから私は人に字を見てもらうときは面白い字を意識して書くようになった。
白酒の国立の会や私と八楽の勉強会に来てくださった方にはお馴染みかもしれないが、
『本日の演目』の張り出しでふざけた字を書くようになったのは、あれは馬風師匠のせいである。

褒められて変な方に伸びた。


22/40 浅草演芸ホール 二日目
【手紙無筆】
今日は色んなミラクルが重なって、やりたいと思っていた根多が昼に出てしまったので夜の出番までに【手紙無筆】を思い出して稽古。
【手紙無筆】も出たら毎日根多変える企画は終わってたと思う。
ここが夜席のしんどいところ。

コロナの傷が癒えてきたのか、寄席に団体のお客様が連日いらっしゃってくれる。
落語初心者の方が多いので結果【手紙無筆】で良かった。

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