画面の弾幕(そら)を超えて、君に会う。 第2話
突然知らないゲームをやらされても、操作など分かるはずもない。高速道路を運転する車の中で、いきなり無免許の自分にハンドルを渡されるようなものだ。
実のところ、マキはそれほどゲームが好きじゃなかった。小さい頃、友人のあかりの家で対戦をやらされて負け続けた記憶が残っていた。まぐれで勝った時は嬉しかったが。
頭が真っ白だった。ゲームをしている実感がなかった。気が付いた時には既にゲームオーバーだった。
マキは智代の方を向いた。言い訳はできない。素直に好奇心でのぞき見していたことを白状しよう。
「ご、ごめんなさい……!」マキは怯えるように頭を下げた。
何を言われてもいい覚悟はあった。彼女だけの聖域を土足で踏み入れた気がしたから。
「え……どうしたの?」対照的に智代は戸惑っていたようだ。身を守るように顔を伏せていたマキには拍子抜けだった。
そろりと顔を上げると、智代の顔は冗談めかすように微笑んでいた。
「私がゲームしてて驚いた?」
「え?」
「無理もないよね。学校じゃみんなとあまり喋ったりしないから。それより私こそごめんね。慣れないゲームやらせちゃってさ」
「あの時思わず『うん』って言ってしまった私の方が悪いよ……」
冗談で済んでよかった、とマキは内心思った。
話が落ち着いたところでマキは荷物をまとめて席を立つ。
「金ヶ崎さん――」『綺麗だったよ』ふとそんな言葉が突然浮かび上がった。だが言うのをやめた。「またね」
「うん、じゃあね」
金ヶ崎と別れたマキは定期券で帰りの電車に乗った。
車窓から覗く空は茜色に染まっていた。春の真っただ中だ。
出来心で入ったゲームセンター。偶然見かけた金ヶ崎。そしてあの瞬間、確かにマキの心は動かされた。凍てついた地面に、溶ける氷柱から雫が滴ったような感触。
しかし何故、金ヶ崎がゲームをやる姿に魅せられたのだろうか。優等生の秘密を知ってしまったからか、金ヶ崎さんの姿が綺麗だったからか。それともあのゲームが特別だったのか。
そして突然心の中から湧いてきた『綺麗だったよ』という言葉。
その謎めく気持ちの正体を突き止めたかった。
電車が帰りの駅に着き、ドアが開く。マキの高校デビューの日は終わった。
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