弾幕STGにハマったきっかけ『怒首領蜂大復活』の「面白さ」を再考する
Ⅰ はじめに
もし就活の面接で「学生時代に頑張ったことはなんですか?」と聞かれたら何と答えるだろうか。今の私ならすかさず「STGです」と即答することだろう。何しろ高校2年から大学生の6年間、流行やトレンドをかなぐり捨ててゲーム生活を『ケツイ』クリアのために捧げてきたのだから。そして青春の全てを投じて念願のケツイ一周クリア。モチベーションを使い果たした私はそこでSTGから手を引くことにした。
しかしながら、STG熱が下火になった今もなお私の心を揺り動かす作品が二つ。前述の『ケツイ』そして『怒首領蜂大復活』だ。『ケツイ』は言わずと知れた高難易度弾幕シューティングだ。接近して撃つというアグレッシブさは未だに堪えられないものがある。
もう一つの『大復活』だが、こちらは打って変わって救済システム満載の簡単なゲームだ。私はこの『大復活』のお陰で商業STGの門をくぐり、『ケツイ』クリアを達成したのだ。
ではなぜ、この難易度が正反対の両者の作品がいまだに私の心を揺り動かすのか?今回は『大復活』の方に焦点を当ててお話ししたいと思う。
Ⅱ 怒首領蜂大復活の面白さ
1 基礎システムについて
このゲームの操作方法はショット(広範・集中切替)とボムの基本的なセットに加え、「ハイパーカウンター」と呼ばれるシステムを発動することができる。
このハイパーはゲージが溜まると一定時間ショットを強化できる必殺技のようなものであり、なんと敵弾をかき消すことが出来るのだ。
しかもボムの方は、自機が被弾すれば自動的に肩代わりしてくれる所謂「オートボム」を完備している。つまりこのゲームでは、敵の弾幕を相殺する必殺技と、ボムの限り被弾が許される大量の実質残機を備えた福利厚生の塊のようなゲームだ。会社で言うならば手取り30万円・年間休日140日・家賃光熱費全額手当を完備したホワイト企業くらいの厚遇である。
STGの心得がある方ならこれを読んで「それヌルゲーじゃね?」と思ったことだろう。確かにSTGは難しそうな第一印象で敬遠される傾向にあるが、一方で『ヴィマナ』のようにヌルすぎてもそっぽ向かれるのもまた事実だ。ではなぜ『大復活』はヌルゲーではなく名作となったのだろうか。
2 ハイパーとオーラ撃ち
怒首領蜂シリーズには「オーラ撃ち」と呼ばれるテクニックがある。レーザーを発射している間、じつは自機周囲にも同威力のオーラが展開されるのだ。「オーラ撃ち」とはすなわち、敵に張り付いてこのレーザーとオーラを同時に浴びせて大ダメージを与えるという裏技である。
STGの中でも夥しい数の敵弾を相手にする「弾幕ゲー」において接近戦は禁忌の行為。それを潜り抜けて巨大な敵に肉迫して一瞬で焼き尽くすこの技はリスクがかなり大きく、プレイヤーを安全圏の画面下だけに留まらせない縦横無尽な駆け引きをシリーズを通して実現している。
STGに新風をもたらした「弾幕ゲー」の祖『怒首領蜂』だが、その背景に製作陣の長年蓄積したノウハウが詰まっていることを伺わせるにくい仕様である。同社作『ケツイ』がこのセルフオマージュであることは想像に難くない。
さて、今作のハイパーシステムはある意味この「オーラ撃ち」の伝統にフィーチャリングしたものである。ハイパーはゲージを溜めて発動するものだが、発動中にオーラ撃ちを仕掛けることでリチャージ率が数倍に跳ね上がるという仕様を秘めている。さらに、ハイパー発動開始から120フレーム(約2秒)間は完全無敵というオマケも付いている。
このシステムを活用することで「敵に急接近してハイパー発動→無敵中のオーラ撃ちで大ダメージ&ゲージ回復→切れたら再発動→…」というサイクルを回すことができる。その上コンボ数も目まぐるしく増えていき、ボーナスもモリモリ溜まってゆく(補足:本作ではコンボが繋がる度にボーナスが雪玉式に蓄積されるシステムとなっている)。
大型の敵がどこで出現するか、ハイパーはどこを始点にするか、コンボを途切れさせないためにどう立ち回りか……そういう点を吟味しながらパターンを構築してくことになる。勿論、想定外の事態でアドリブが発生することがある。そのときの復帰策やリソース管理もリアルタイムで練る必要が出て来る。
ハイパーカウンターは安全なプレイも危険なプレイどちらでも活躍する。初心者にとっては盾となり、上級者にとっては鉾となるわけだ。つまり本作はハイパーという一本柱で性質が真逆なプレイスタイルを受け持つゲームデザインの確保に成功しているのだ。
3 こっそり褒め上手なステージ構成
昨今のゲーム界隈でよく話題になる「違和感のないイージーモード」。お助けアイテムや救済システム……そういった露骨な手加減ではなく、ゲーム本来の手応えや旨味を保ちつつ幅広いお客さんに楽しんでもらう仕組みづくりが近年注目されつつある。おそらく大人のゲーム人口が急上昇してきたことも背景にあるのだろう。子供の頃はイージーを選んでも違和感はなかったものだが、大人になれば流石に手加減されると薄味になることは誰でも気が付く。それに「あなたに合わせてるのですよ」と上から目線で言われるのも癪に障るものだ。
そしてこの『怒首領蜂大復活』はこの「違和感なきイージーモード」を業界に先んじて実現していた。
本作のステージは表面と裏面、さらに条件達成で2周目に突入できるという構成。実質的に難易度は4段階(2裏>2表>1裏>1表)に分かれているのである。
周回や裏面といった構成は珍しいものではない。むしろSTG史において手垢が付くほど使い古されたものだ。だが過去の作品には上級者向けの1周目と超上級者向けの2周目という構成のものが多く、初心者には遠い雲の上のお話であった。
だがこの『大復活』、この周回システムを幅広い客層に受け入れられるものに進化させた。例えば1周表はSTGに少しでも心得があれば誰でもクリアできる難易度だ。対する2周裏はクリアするにはトップクラスの腕前と持久力を必要とする厳しい旅路となっている。
この周回システムのミソは単なる難易度の幅広さではない。このシステムの画期性は、初心者が上級者と同じ土俵で戦えるというところにある。あえて難易度をモードで区切らない、ここが前述した「違和感のないイージーモード」に繋がって来るのだ。
また、裏面や2周目に突入するには隠し条件を達成する必要があるのだが、これも程よい厳しさで調整されており、ゲームの理解度テストとしても機能している。
「1周表も慣れてきたからそろそろ裏面を出そう」とか「だいぶミスも減ったからいよいよ2周目を目指す時だ」……という具合にプレイヤーに新たな一歩を踏み出させる下地となり、モチベーションをシームレスに引き出すことに成功している。仮に失敗しても適正難易度で続行させてくれるのもまたモード選択式にはない優しさだ。
ただ、『大復活』はもともとアーケードのゲームだ。客の回転率が命のゲームセンターにとって客に20分も居座られるタイトルというのは迷惑だったはずだ。そう思われるリスクを冒してでも初心者に裾野を広げようとしたケイブのスタッフには敬服せざるを得ない(もっとも、格闘ゲームも家庭用が主流となった今では違うやり方もあるだろうが、アーケードゲームとしては完璧に近い措置であることは間違いない)。
鬼畜難易度で知られるケイブ作品の中ではもっとも褒め上手な作品であることは言うまでもないだろう。
4 その他細かい点
以下、長文を書くほどではないがどうしても特筆しておきたい点。
・エクステンド(1UP)スコアの設定
本作では10億点と100億点達成時に残機が1つ増える。1周表クリアでも10億点は難なく達成できるのだが、100億点を達成するには前述のハイパーサイクルを覚える必要がある。100億点エクステンドは中級者にとって実利のある指標になっているのだ。
・ミス時の喪失感が少ない
完全オートボム性なのでいわゆる「ボム抱え落ち」という概念がない。初心者にもやさしいのは勿論、上級者ほどポカミスで挫けやすくなるので喪失感の軽減は地味にモチベーション保持に貢献している(=顧客の離脱率を下げている)。
・選りすぐりのベストナンバーと画面エフェクト
もう他の人が1000回くらい言って手垢が付いている部分だがやはり外せない。BGMはCOOLなダンスミュージックで固められており、ド派手な画面エフェクトもさながらフロアのバイブスをブチ上げるVJだ。これが無ければ俺もSTGを始めていなかった。音ゲーが好きな君もぜひSTGという名のDJMIXに酔いしれてほしい。
Ⅲ おわりに
以上、私が分析した『怒首領蜂大復活』の面白さだ。冒頭でも述べた通り、私はSTGから一線を引いていた人間である。しかし先日、秋葉原のオフ会でゲーセンに立ち寄ったのだがその際ふらりとケツイをやったらまたSTGモチベーションが吹き返してきたのだ。
完全に冷め切ったと思っていたSTG熱を蘇らせるほどの力を持った作品だから只者ではないはずだ。そして長らく距離を置いていた今なら違うアプローチで本作と向き合えるかもしれない。そう思ったのが本記事を書くきっかけとなった。
STGから学べる普遍的な「面白さ」とは何なのか、逆に今STGに盛り込める「面白さ」とは何なのか。そう思いながら今回は執筆した。まだまだ深掘りする余地はあるだろうが、少なくともSTG狂いの青二才の頃よりは本作を多様な視点で理解できたと信じたい。
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