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くすぐったいって何??
以前に、水曜日のダウンタウンで「くすぐり10分過ぎたら平気説」が検証されていました。
アンガールズ田中が壁に拘束されてくすぐられているってだけでまず面白いんですけど笑、説通り本当に10分過ぎたあたりで田中が「何も感じないよぉぉ、逆に怖いよぉぉ」と叫び始め、テレビの前で腹抱えて笑ったのを覚えています。
そんな「くすぐったい」について、少し真面目に考えてみましょう。
「くすぐったい」とは私たち人間が保有している中で、最も意味が分からない感覚の一つです。
だってそうじゃないですか?何のためにくすぐったいが存在しているかわからないのですから。
例えば「気持ちいい」感覚は人間のモチベーションを高めるために存在していて、「痛い」感覚は僕の記事で何度も説明しているとおり、生体防御・危機回避のために存在しています。
それに対して「くすぐったい」はさっぱり生理学的意義が分かりません。なんでくすぐられたら笑ってしまうのでしょうか。
そして最も謎な点は、自分でくすぐっても、ちっともくすぐったくない点です。
謎に包まれている「くすぐったい」ですが、本記事ではくすぐったい研究の始まりから最新の研究まで紹介していきます。
☆くすぐったいを提唱したアリストテレス
くすぐったいという概念は、紀元前の頃から既に存在していたようです。みなさんご存じ古代ギリシャの哲学者、アリストテレスは自分で自分をくすぐることが出来ない理由を考えています。
そして彼は、脳が予測しているからだと結論付けています。くすぐりを予測しているからくすぐったくないのだと。僕たちが考えても、なんとなくそんなような気がしますね。果たして本当にそうなのでしょうか。
☆1971年 科学雑誌「Nature」にくすぐったい研究に関する論文が掲載される
時ははるか1971年、世界的な自然科学雑誌「Nature」にアリストテレスの考えを支持するような結果を出した論文が掲載されました。
下のような「自分をくすぐる機械」を作成し、直接くすぐる場合と機械を介す場合どちらがくすぐったいか調査しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1666780398879-1c5MJElKzB.jpg?width=1200)
すると、機械を使ってくすぐった方が、直接くすぐった場合よりもくすぐったく感じやすいことが分かりました。
どちらにせよ自分の意思でくすぐることには変わりないのですが、くすぐり方は自分の意思通りではないため、時を超えてアリストテレスの考えがひとつ実証されたわけです。
☆くすぐったいの脳科学
では、くすぐったいのメカニズムは現時点ではどこまで知られているのでしょうか。実はfMRI(磁気共鳴機能画像法)を用いることで、ヒトの脳のどの領域が活性化しているか調べられることが出来ます。
1998年に掲載された論文では、脳の体性感覚皮質と呼ばれる領域(外部感覚が入力される)がくすぐりにより活性化され、自分でくすぐった場合はその活動性が弱まることが示されました。このことから言えることは、体性感覚皮質に入力する時点で、既にその触覚刺激(くすぐり刺激)が自身によるものであるか否かが認識されているということです。
そしてその認識は小脳が行っている可能性があるとしました。小脳も自分でくすぐった場合には活動性が低下していたからです。つまり、小脳が運動の特定の感覚的結果の予測に関与しており、自分でくすぐった場合に対する感覚反応をキャンセルする動きをしている可能性があります。
☆動物実験におけるくすぐったい検証
くすぐったいの詳しいメカニズムを調べるためには、マウスやラットなど動物を用いた実験が不可欠です。しかし、昔の研究者たちにとって、ある重大な壁が立ちはだかっていました。マウスに果たしてくすぐったい感覚は存在するのでしょうか。もっと言えば、マウスはくすぐられると笑うのでしょうか。これらが分からない以上は、マウスをくすぐってもそれがマウスにとってくすぐったいのかどうか分からないため、動物実験として成立しないのです。
そんな中、実験技術の発展により、マウスにもどうやらくすぐったい感覚はあるらしいということがわかってきました。
下の実験は、くすぐることによるラットの「笑い声」を検出した試験です。
この実験は2016年にNatureに並ぶ雑誌「Science」に掲載されました。様々な部位をくすぐってみましたが、特にお腹をくすぐった時が一番笑い声を出すという実験結果が示されました。
こうして動物実験におけるくすぐったいの評価系が確立されましたので、今後くすぐったい研究のさらなる飛躍が期待されている真っ最中なのです!
☆自分で自分をくすぐることができる人もいる
これまで、「自分で自分はくすぐれない」ことについていくつかの研究を示しましたが、実は自分で自分をくすぐることができる人もいます。
それは統合失調症の患者さんです。
もちろん、全ての患者さんがそうではありませんが、いったいなぜそのようなことが起きるのでしょうか。
統合失調症と言えば、様々な症状が見られる精神疾患ですが、そのうちの一つに「自己と他者に関する認識における機能不全」があります。
なんとなく分かりましたか?
今までの話をまとめると、自分でくすぐれないのは予測ができているからと考えられていましたね。
しかし、統合失調症により自己の認識機能が低下すると、自分の行動予測が困難になるため、「自己のくすぐりによる感覚反応のキャンセル」がキャンセルされてしまいます。簡単に言えば自分の行動さえ予測できなくなっているからなんですね。
あくまでもこれは仮説ですが、2018年に発表された、統合失調症患者の行動は自己行動ではなく他者行動の予測困難(他者の行動は予測できないので)と相関することを示した論文をもとに考察されました。
☆さいごに
いかがだったでしょうか。くすぐったいメカニズムについて、大まかのことは分かっていても詳しいことについてはまだ全然解明されていないことが分かったかと思います。
しかし、近年実験動物におけるくすぐったいの評価系が確立されつつあることから、たった今ホットな研究分野であることもわかって頂けたのではないでしょうか。
最後に、くすぐったいの日本人研究者である石山晋平先生の言葉を紹介したいと思います。
「くすぐったいという感覚は、我々ヒトや動物が触れ合い遊ばせるための脳の"しかけ"ではないのだろうか。神経科学は最も学際的な学問の一つであるが、その研究内容はうつ病や恐怖などネガティブなテーマばかりである。もちろんこれらも重要な研究であるが、一方で、楽しさや幸福、笑いなどのポジティブな感情こそが我々が必要としているものであり、気分障害などの疾患により失われるものである。これからの研究は、ポジティブな感情についても等しく研究することが重要だろう。」
コロナ禍の現在において、より一層心にしみる言葉であります。
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