#79 『のどぐろ』
2024年11月某日
どの地方都市を訪問しても、「のどぐろ」が大注目されている。先日、鳥取県を訪問したが、ぐるなび高得点の海鮮居酒屋の推しは「のどぐろ」だった。また、富山県に訪問した際も、居酒屋・割烹・土産物屋など、どのチャネルでもセンターは「のどぐろ」だった。日本海沿岸の海産物ブランド界は、「のどぐろの時代」といっても過言ではないだろう。
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さて、「のどぐろ」が水産品界のインフルエンサーとして、その知名度を確かなものにしたのは、一体いつからだろうか。インターネットで検索してみると、2000年代のあたりから、テレビを中心とするメディアで「のどぐろ」が取り上げれる機会が増え、知名度と価格がだんだんと高くなっていったのだとか。筆者の感覚では、テレビで人気の芸人さんなんかが、「高級な食事をした」というエピソードを示す際に、その象徴として「のどぐろ」を援用する場面を見かけるようになったのは、2010年代に入ってからのような気もしている。
「のどぐろ」の正式名称は「アカムツ」というらしい。「ムツ」は脂っこいという意味もあるらしく、ようするに、「赤くて脂っこい魚」という訳である。脂が乗っていて美味しいのも頷ける。漁獲量でみた産地では「1位:山口県」「2位:島根県」「3位:兵庫県」だそうだ。なお、筆者が訪れた、鳥取県は4位、富山県は9位に位置している(水産庁, 2020)。ご存知の通り、足元、「のどぐろ」は高級魚として知られている。居酒屋さんのメニューを眺めていても、即断即決できない自分が悲しいところである。一方、地域の特産品である水産資源が「高付加価値化」することは望ましい。特に、水産資源のブランド化によって、生産者(漁業者)の所得が増える構造が実現するなら、という崇高な思いで筆者も「のどぐろ」を美味しくいただいている。
しかし、である。「のどぐろ」を過剰に賛美することは、地域の水産品ブランドのポートフォリオ(≒グループ)の人気や知名度のサスティビリティの観点からは一定の懸念もある。というのは、センターである「のどぐろ一強」の構図は、ほかのメンバーの価値を相対的に下げるかもしれない。つまり、つぶ貝とか白エビも大変優れているのに、特定のコースメニューの中で「のどぐろ不在」という場合に、消費者がその体験を「白えびがある素敵な体験」というより「のどぐろがない質素な体験」と評価してしまわないだろうか。
誤解のないようにしたいのは、筆者としては「つぶ貝」や「白えび」を中心としたメニューを大変素晴らしいものだと思っている。どちらかというと、魚より貝のほうが好きだ。ここで示したいのは、あくまで、「のどぐろ」というセンターに対して、過剰に権威づけやプロモーションコストをかけることで、中長期的に、つぶ貝や白えびを含めた「神セブン」が育ちにくくなりやしないだろうか、という問題意識なのである。
「のどぐろ」というドル箱に地域ブランドが群がる構図に対して、最も苦悩しているのは「のどぐろ」自身かもしれない。「のどぐろ」、いつも美味しくいただいています。ありがとうございます。
ほなら。