リッツ・マルールというヒーローの話(FFTA)
小学生の頃に出会ったリッツ・マルールが好きだった。
約20年程度前になるが、ゲームボーイアドバンスが携帯機の主流だった頃に買ってもらった「ファイナルファンタジータクティクスアドバンス(FFTA)」が私の初めてのファイナルファンタジーになった。
気弱な転校生マーシュ、いじめられっ子のミュート、勝ち気な女の子のリッツという、知り合い以上友達未満な三人とマーシュの弟であるドネッドが、ある日突然手にした魔導書の力で異世界「イヴァリース」に飛ばされるという王道な異世界ファンタジーだ。プレイ当時はあまり意識しなかったが、FFTAのイヴァリースはゲームの中の世界だった。
リッツはピンクの髪が可愛らしく、ツンとすました顔の女の子だ。
ワンピースの上にガントレットなどの革装備を身につけ、己で戦おうとする強い女の子だった。自分の望むものが手に入る異世界に留まりたいと、ストーリーの中盤以降ではマーシュと対立する場面もあった。
リッツの望むものはピンクの髪だ。
彼女の髪の色は元々白く、多感な頃の彼女には受け入れがたかった。母親に髪をピンク色に染めてもらう度に、母の悲しそうな顔を見るのが嫌だった。髪を染めずともピンク色であり、また母の悲しそうな顔を見ずに済むのなら現実に帰りたくないリッツは言う。
この、等身大の痛みがあるが故に強いリッツが好きだった。
彼女だけではなく、マーシュにもミュートにも現実世界の問題はある。トラウマだってある。FFTAは絵本のようなファンタジーではなく、等身大に傷つき回復する子供たちの物語だ。現実と切り離されたところで繰り広げられる楽園滞在記のようなものであり、まりんとメランで言えばサヴマトン・カラーだ。
いつかは現実に戻らなくてはいけない物語としてFFTAはとても良かった。
死んだ母が生きている世界を作った悲しいミュート、帰るために世界の謎を追うマーシュ、己の腕っ節で魔物を倒し冒険を楽しみ進めるリッツ。三者三様だけれども、自分の喉の奥に刺さった小骨のような居心地の悪い違和感を忘れられる位に、イヴァリースは望みが叶う世界だった。クエストを楽しみながら受けるリッツは強い女の子で、小気味が良かった。
妙にリッツが好きなのは、彼女が単に気が強い性格の女の子ではなく、コンプレックスを背負ってても憐れみの目で見られたくないといったプライドやほんの少しの虚栄心のような人間臭さがあったからかもしれない。
ゲームとドラマCDの記憶が混ざっているので曖昧な部分があるが、マーシュとの一騎打ちの際の、「髪の毛ピンクに染めちゃって!」の言葉はリッツが今まで他者に言わせまいとしていた言葉そのものだった。地雷という言葉はふさわしくないが、言うなればマーシュは覚悟を決めてその地雷を踏み抜いた。
泣きじゃくるリッツの弱さが一気に表に出たシーンは、とても痛々しくて、それでも何か大切な禊ぎのようなものに思えた。これを成長というのは容易いけれど、成長と一言で片づけるのも違う気がする。
リッツ・マルールという名について、なぜわざわざ「不幸(マルール)」が冠されたのかは不明だが、彼女が生まれながらに持っていた彼女にとってのコンプレックスと、それをカバーする衝突と傷を生む性格は、見方によっては不幸の要素の一つなのだろうかと思う。
リッツに関してはストーリー上では多くは語られないけれど、そんな不幸は跳ね返して冒険を楽しむ位にはたくましい。
彼女がイヴァリースで得たものは髪だけではなくヴィエラ族の相棒もだ。寡黙というか口数は多くはなさそうなクールなヴィエラだった。ゲーム本編ではあまり出番はなかったけど、彼女たちの距離感や雰囲気はドラマCDで補完もされていた。
リッツが染めなくても良い髪を手に入れたのと同じくらい、それ以上に良き理解者であり相棒のシャアラは大切な存在だったのだろうと察することができる。このドラマCDは大人になってからその存在を知ったのだが、4巻構成で愛のある補完がされている良作だ。FFTAが好きな人間にとっては最高だった。ドラマCDを何周したかもわからない。
はじめてのファイナルファンタジーだった。
FFTAには女の子が少ない。ただし、だから好きになった訳ではない。ちょうど自分と同じ位の年頃の女の子が戦う姿が勇ましくて、当時の私が共感できるくらい身近な弱さもあって、当たり前のように傷つくし、そこから立ち直りもする。
FFTAの正方形ブロックで作られた俯瞰視点のマップは、想像に余白を与えてくれた。
勝手に行間を読んだり想像をした部分も含めて、リッツ・マルールはヒロインではなくて、普通にヒーローだった。
もしかしたら、小さなヒーローとして好きだったのかもしれない。
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