【論文レビュー】より良いソフトウェア開発のために、エンジニアの心と体験を理解する
こんにちは!テツローです。
今回取り上げる論文は「開発者体験」という、耳慣れない言葉にフォーカスした研究論文です。UXといったユーザー体験や顧客体験という言葉は良く聞きますが、本論文で使われているDEx(Developer Experience)は開発する側、つまりエンジニアの開発体験に着目し、DExがソフトウェア開発プロジェクトの成果に影響を与える重要な要素であると主張しています。また、その定義、関連する概念、DExの研究方法、今後の研究の方向性も説明しているので、読んでいてワクワクする内容でした。
Developer Experience: Concept and Definition(2012)
開発者体験:概念と定義
Fabian Fagerholm, Jürgen Münch
1.ひとことで言うとこんな感じ
この論文では、エンジニアがどのように感じ、考え、仕事に取り組んでいるかを理解するための「開発者体験(Developers Experience,DEx)」という新しい概念を提案しています。これは、プロダクトやサービスに対するユーザー体験(UX)の考え方を、ソフトウェアエンジニアの視点に応用したものですが、面白いアプローチだと思いました。いままでプロダクトを使うユーザーの体験という観点で、UI/UXという言葉は使われてきましたが、プロダクトを作る側、つまりエンジニア側の体験に着目するという発想が私にはなかったので、目からウロコ的な感覚でこの論文を読みました。
2.なぜこの研究が重要なのか
コロナをきっかけに、ここ数年でソフトウェアの開発は世界中に分散したチームで行われることが増えてきています。そのため、エンジニアの感情、動機付け、仕事への思い入れを理解することが、今まで以上にプロジェクトを成功させる上で重要になっています。特に、文化や時間、場所の違いを越えたコミュニケーションが必要な環境では、お互いの人間的な要素の理解がとても重要な状況になっていると思います。
3.研究で明らかにしたかったこと(リサーチクエスチョン)
開発者が仕事環境の中でどのように考え、感じているかを捉える方法を見つけ出すことがこの研究の目的です。さらに、開発体験を改善することで、チームやプロジェクトのパフォーマンスにどのような良い影響があるのかを理解することを目指しています。
4.研究の進め方
まず、ユーザー体験(UX)や顧客体験など、関連する概念を分析することから着手しています。そして、それらの知見を基に開発者体験の定義を決定し、認知(思考)、感情、意欲という3つの側面から開発者体験を理解する枠組みを作りました。
5.主な発見・結果
本研究では開発者体験は以下の3つの要素で構成されることが分かりました。
開発インフラ(ツールやプロセスなど)に対する認識
仕事に対する感情(尊重、帰属意識など)
自分の貢献の価値(目標の一致、コミットメントなど)
6.この研究の面白いポイント
ユーザー体験という概念を、製品を「使う」側から「作る」側に転換した点が斬新だと思いました。また、開発者の体験を単なる技術的なスキルだけでなく、感情や意欲も含めて総合的に捉えようとしている点が興味深いです。
私自身も以前から、エンジニアは言われたものを作るだけのロボットではなく、プロダクトの質は携わる開発者の感情や意欲も影響する、ということを感じていたので、非常に興味深い論文でした。
7.実務や日常生活への応用可能性
論文で主張されている概念は、ソフトウェアプロセスの改善、プロジェクト管理、チームパフォーマンスの維持など、様々な場面で活用できると思います。特に、開発者がより働きやすく、モチベーションの高い環境を作るための指針として役立てることができるのではないかと考えています。
8.自分なりの考察
この研究は、ソフトウェア開発を単なる技術的な作業としてではなく、人間的な活動として捉え直そうとする重要な研究でとても意義のあることだと思いました。特に、リモートワークが一般化する現代において、開発者の体験を理解し改善することは、より良い開発環境を作ることに繋がりますし、何より開発者の生産性を高める取り組みにつながるので、世の中にもこの考え方が浸透すると良いなと思いました。
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