ニンテンドー3DSを2万5000円で買った選ばれた民は、なぜそうしたのか

https://www.nintendo.co.jp/hardware/3dsseries/index.html
ニンテンドー3DSの生産終了が発表された。ニンテンドー3DSはニンテンドーDSの後継ハードとして2011年に発売した、上下の2画面という特徴を引き継ぎつつ3D機能を取り入れた携帯ゲーム機だ。なんて、今さらWikipediaの冒頭のような説明もいらないだろう。前身となったニンテンドーDSほどではないにせよ、やはり売れたハードだ。ゲームボーイから続く任天堂の携帯機は、やはりクオリティが高い。「奥行きが邪魔だな」なんて言われて、3D機能なんて無視されるようになったとしてもだ。3DSソフトは言わずもがな、バーチャルコンソールで過去ハードの作品を遊べたのもグッドポイントである。

さて、3DSのバーチャルコンソールといえば、通常のバーチャルコンソール以外にも特別なものがあったことを知っている方もいるだろう。それが、アンバサダー・プログラムである。アンバサダー・プログラムの話をするには、3DS発売直後の道のりを説明しなければならない。

3DSは最初、あまり売れなかった。

2011年2月。東日本大震災が発生する少し前に、3DSは発売した。価格は2万5000円。DSが1万5000円、DS liteが1万6000円、DS iが1万8000円で販売開始していることを考えれば、少し高額である。そしてローンチタイトルが、正直に言ってちょっと微妙。DSもまだまだ現役。そして追い打ちをかけるような震災。売れる要素が無かったと言っても過言ではない。
そして発売から半年と経たない2011年7月。任天堂としては異例の、超大幅値下げが入った。その値下げ額、1万円。1万5000円で最新機種を買えるようになった。そうなると、2万5000円で買ったユーザーから文句が出てくると予想されるのは当然だ。そこで任天堂は、アンバサダー・プログラムと称して、ゲームボーイアドバンスの10タイトルを含む計20タイトルを、無料で早期購入者向けに配信した。

果たしてこれで、どれだけの早期購入者が溜飲を下げたのかはわからない。個人的にはゼルダの伝説ふしぎのぼうしがプレイできたのでそれだけで割と満足ではあった。それに、値下げ前にはゼルダの伝説時のオカリナ3Dも出ている。64版を懐かしみながら楽しくプレイさせてもらった身としては、1万円の元は充分に取っていたと思っている。

ということは、じゃあお前、時のオカリナのために買ったんだ?と聞かれたら、答えはNOである。いや、完全にNOとは言えないか。もちろん、それもあった。移植発表の当時から買うつもりだった。

だが、僕にはもっと大きな目的があった。ロックマンDASH3だ。

ゲームに触れたことのある人ならば一度はプレイ、あるいは耳にしたことがあるであろうロックマンシリーズ。最近、というかそれこそ3DS版以降のスマブラシリーズにも参戦していることを考えれば、一度もかすることすらなかったという人はそう多くないだろう。それだけの有名シリーズであることはいまさら語るまでもない。そしてそのなかに、マイナーながらある種カルト的な人気を誇るタイトルがある。それが、ロックマンDASHシリーズだ。ロックマンDASHシリーズは1997年発売の「ロックマンDASH 鋼の冒険心」を皮切りに、プレイステーションでメインストーリー2作、スピンオフ1作が出ている「3Dの」ロックマンだ。ちなみに、2008年にはガラケー向けにもう1作出ていたりするのだが、マイナーなシリーズのマイナーなプラットフォームなもんだから、情報もほとんど出てこない。これほんとに存在したのか?夢幻じゃないのか?鵺みたいな存在なんじゃないか?もう既に今からプレイすることはできないゲームだ。誰か全編プレイ動画みたいなの上げてくれ。
このロックマンDASH、さきほども言ったように、カルト的な人気を誇る作品だ。いや、カルト的はちょっと言い過ぎかもしれない。ファンの声がちょっと大きすぎるだけなんだ。インターネット上には続編を望む声がたくさん溢れているし、僕も事あるごとにツイッターでつぶやいたり2ちゃんに書き込んだりしている。のだが、赤字なのである。そう、赤字なのである。要するに、売れなかったのである。そりゃそうだ。だからマイナーなんだもん。たぶん、一度プレイしてくれればめちゃくちゃおもしろいゲームであるということはわかってもらえるはずなんだ。だけど、そのプレイする機会を作るのが上手くいかなかったのだろう。3D視点でのロックマンというのは珍しく、面白くもあり、とっつきにくいという面もあったのかもしれない。あるいは「ロックマン、ヘルメットかぶってないやん!」とか「ワイリーとか出ないの?」とか、従来のシリーズとはあらゆる面で一線を画す設定だったことも、その一端だったのかもしれない。実際のところ、なぜ売れなかったのかは僕にはわからない。できるのは推測だけだ。とにかくそんな、ロックマンらしくないロックマンシリーズが、各所で根強い人気を誇っているのである。

そのロックマンDASHシリーズの最後の作品となっているのは「ロックマンDASH2 大いなる遺産」で、これが2000年の発売である。それから10年。10年である。当時小学1年生だった子は高校生になるし、中学生だった子は社会に出ている。それだけの年月が過ぎた、2010年のある日。それは唐突に起こった。シリーズ最新作、ロックマンDASH3。その開発が発表されたのである。そうか、あれからまたさらに10年が経ったのか。あの時のことは今でも覚えている。当時まだCAPCOMに在籍していた、稲船敬二。ロックマンシリーズの、そしてもちろん、ロックマンDASHシリーズのプロデューサーでもあった、イナフキン。彼が動画で直々に、「ロックマンDASH3 PROJECT」が動いていると話していた。その時の満面の笑みを、僕は忘れられない。本当に出るんだ。スタッフも作りたかったんだ。ユーザーだけでなくプロデューサーもまた、楽しみで楽しみでしょうがないんだ。そんな気持ちが伝わってくる、心からの笑みを浮かべていた。僕はその夜、喜びのあまり家の周りを文字通り走り回り、跳び回った。一人の成人男性が、常軌を逸した笑みを浮かべながら、夜の住宅街を走っている。不審者でしかない。でもそれくらい、僕は嬉しかったんだ。

ロックマンDASH3は、件のニンテンドー3DS用ソフトとして開発されていると発表された。その時僕は決めた。3DSは買おう、すぐ買おう。ロックマンDASH3のために。

プロジェクトのことを事細かに話すのは、ここではしない。したくない。するべきではない。この記事はニンテンドー3DSの話をしたくて書いているのであって、ロックマンDASH3の話をしたいのではない。したいけど。いや、やっぱりしたくない。書くとしたら、それはまた別の記事で書こう。

だから結論だけ書くことにしよう。
ロックマンDASH3の開発は中止になった。

そんなことってあるか。10年待った。待ちに待った。長い長いトンネルの出口が、ようやく見えた。その出口が、急に塞がれた。上げて落とすとはまさにこのこと。10年抱え続けた想いを爆発させたファンにを、絶望の淵どころではない。絶望というブラックホールに叩き落とした。それくらいの気持ちだった。

ロックマンDASH3が出る?よし!3DS、買おう!え?時のオカリナまで移植される!?そんなもん絶対買うしかないじゃん!
だから僕は、2万5000円でニンテンドー3DSを買ったんだ。

ちょうど90年代末に、ゲームを遊んでいた子どもたち。それちが大人になる2010年代。ターゲットは間違いなく僕らの世代だった。そしてその矢に的確に撃ち抜かれたのが僕だった。一本は、届かなかったけれど。

読み返してみると、なんだかまるで批判的な話になってしまったな。そうじゃないんだ。僕はニンテンドー3DSという名機を愛しているし、今でもロックマンDASH3を諦めてはいない。ただ、主題が悪かったな。そこは許してくれ。

ちょっと話は変わるが、3DSの話をもう少しだけ。
時のオカリナと同時に買った僕の3DSは、アクアブルーだった。当時ラインナップしていたのは発売直後の2色展開だけで、アクアブルーとコスモブラックだった。アクアブルーの光沢のあるボディが良いなと思ったのだが、あくまでコスモブラックに比べての話だ。
時のオカリナ3Dは6月に発売した。そして値下げ直前の7月、新たなカラー展開としてフレアレッドが追加された。

めっちゃくそかっこいいじゃんかよ……。

フレアレッドを逃し、値下げを逃し、ロックマンDASH3を逃した。
そんな苦々しいスタートだった僕と3DSの生活も、なんだかんだいって良好だった。

時のオカリナ3Dおよびムジュラの仮面3Dは、当時を思い出しながらも微妙な差異を楽しんだ。リメイクといえば、ドラクエ7もPS以来の2周目をプレイした。長過ぎるので各1周ずつしかプレイしていないが。生粋のポケモントレーナーなので対戦はバリバリやったし、なんなら今でも伝説のポケモンなどを捕まえるために起動することもある。XYの着せ替えも良かった。着せ替えといえば、妻がやっていたガールズモード。「所詮女児向けだろ」という偏見があったが、実際にやってみると見事に裏切る面白さだった。バーチャルコンソールで過去の名作も楽しんだ。妻に進められてどうぶつの森デビューもした。スパークというリスの住人が好きだったのだが、少しサボっている間に引っ越してしまった。スパークに後ろ髪を引かれながら続編のあつもりをプレイしていたのだが、つい最近、なんとキャンプサイトにスパークが来てくれた。嬉しくて嬉しくてたまらない。即勧誘した。

最後はハードを飛び越えてあつもり談義になってしまったが、これはこれで、今の僕のゲームに対する姿勢を作り上げる、その一端であることの証明でもあろう。9年間ありがとう3DS。そしてこれからもよろしく。

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