【短編脚本】#4「人間はウイルスである」
【短編脚本#4】十月 四週目
「登場人物」
27歳フリーター 美羽げんじ
27歳会社員 川原たつや
27歳OL 馬淵ゆい
3人は高校時代の仲良しクラスメイト。
社会人になって
たまたま住んでいる街が近く
定期的に飯を食いにたつやの家に集まる。
10月下旬のとある土曜日の夜。
3人は冬が始まる前に
一足先に鍋を囲んでいた。
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テレビでは某ウイルスについて
ニュースをやっていた。
新規感染者の数は以前と多い東京。
たつや)東京都感染者数3000人越えか。
げんじ)全くとんでもない世界だな。
たつや)いつまで続くと思う?
げんじ)そうだね、あと2年くらいじゃん?
たつや)そんなー?
2年後かー。俺たち何してると思う?
ゆい)鍋、、食ってんじゃね??
たつや)何だよそれ。だといいけど。
ゆいが白菜を頬張りながら
めんどくさそうに喋った。
ゆいはニュース番組の部類が嫌いで
メディアの情報には信用をしない主義である。
ゆい)てかさー、ほんとこんなニュース
ばからしいばからしい。
たつや)世間の皆さんから叩かれるぞ?
ゆい)世間の人もさ、
ほんといつまでこんなの信じてんの。
たつや)まぁみんなはニュースを
もとに生活してるからね。
ゆい)みんなマスク大好きだし。
たつや)大好きって。笑
確かに海外では、もうほとんど
つけてないらしいからな。
ゆい)ここまでくると日本人は
マスクをなかなか外せないね。
世界一、外せない人種だよ日本人は。
げんじ)どして?
ゆい)自分を隠して生きる国民性。
恥ずかしい、嫌われたくない。
女の私の肌感覚、
女子は隠せるところは隠したい。
やっぱり生きてる限りイケメンに
可愛い…って言われたいもんよ。
たつや)え?なに、ゆいも?
イケメンに可愛いって言われたいの?
ゆい)そりゃ…たまには?
だからマスクをつける社会の方が
ありがたいんだわ、実は。
げんじ)確かにみんなマスクして生きてる。
偽りの自分というマスクを。
自信持って口角あげて人生を歩めと、
俺は、強く、思う、そして言いたい。
たつや)うーん、言いたい?
げんじ、げんじくん?
ゆい)そう。みんなマスクをした人生なのよ。
テレビもそうだ。フィルターばかりさ。
たつや)ここだけで話してね、そういう話は。
ゆい)わかってるよ、
会社では良い子ちゃんやってんのよ。
げんじ)でもゆいの言ってることは事実だな。
みんな本性を隠すのに
慣れちまってるのよ。
ゆい)もっと自分を出しだっていいんだよ。
女だってあぐらかいて
鍋食ったほうがうめんだから。
たつや)お前は少しは気にしろ。
ゆい)お前らと一緒に飯食ってると楽だな〜
会社で、女すんのめんどくせ〜
たわいも無い世間話をして
鍋を食べ進め鍋の底が見えてきた。
げんじ)今日、しめどうする?コメの気分!
たつや)いや、米なかった気がする。ごめん。
うどんは2玉あるかな。
ゆい)わかった。今日は、私が作るよ。
たつや)珍しい。(真に受けてんのか…?)
作るっていってもチンするだけどな。
ゆいはキッチンに向かい、
冷凍庫から凍ったうどんを取り出し
電子レンジに突っ込む。
そのまま冷蔵庫を漁り始めた。
げんじ)でもさウイルスってそもそも何なの?
たつや)ウイルスか、、そうだな。
悪いものじゃない?ばい菌?
げんじ)どんな形?色ってある?透明?緑?
たつや)ええ?俺にそんなこと聞くなよ。
げんじ)軽く悪者扱いしたから。
たつや)まぁ現代では人間の大敵となったな。
げんじ)目に見えないって
どんだけ小さいんだろう。
たつや)ミジンコより遥かに小さいか。
げんじ)みんなも全然知らないんだろうね。
ウイルスのこと。
ニュースみて、
勝手に悪者扱いしてるだけ。
たつや)うん…まあそれはそうかもな…
げんじ)そこら辺飛び回ってるのかな〜、
ほら捕まえた!!
たつや)飛んでるというかは...浮いてて...
フラフラしてる?
げんじ)なんで俺の方見ながら言うんだよ。
ニートみたいな
フリーターで悪かったな!
たつや)フラフラしてるって言っただけで
そんな発想できないだろ。
むしろすげーよ。
ゆいがキッチンから戻ってきた。
鍋にうどんを2玉放り込んだ。
ゆい)あいつらだって生きてる。
たつや)え、なんだよ急に。
ゆい)ごちゃごちゃうるせーから。
あいつらも生きてんだよ。
たつや)あいつらってウイルス?
どっちだろう…生きてるのかな。
ゆい)あいつらも一生懸命生きてる。
人間が共存しようとしないだけ。
悪者扱いしてさ。
人間は都合が良すぎなんだよ。
げんじ)確かに…
ウイルスに過剰に責任を押しつけて...
かわいそうなウイルス。
たつや)おいおい大丈夫か?
げんじ)てか、人間やばくない??
めちゃくちゃ悪者扱いしてる…
たつや)さっきから大丈夫か?落ち着けって。
なんでウイルスの
気持ちを考えてるんだよ。
ゆい)マスクをしてるのは人間だけ。
そもそも裸で生活してないのは
人間だけ。
地球上の他の動物たちは
ウイルスの悪口なんて言いやしない。
げんじ)うわ人間やっぱやっばいな。
まじでカッコつけるしプライド高いし
不都合な事は別の動物に押し付けて。
たつや)あー、げんじまで
変なスイッチ入ってきたよ。。
げんじ)一番のウイルスは人間。
ゆい)そういうこと。
人間が一番ウイルスなんだよ。
たつや)あーもういいから飯食え。
あと残りのうどん食っていいから。
ゆい)ウイルスだって人間避けてたりして。
げんじ)人間って地球上の生物から
嫌われたりすんだろうな。
たつや)馬鹿馬鹿しい。良い加減にしろって。
ゆい)たつや!
お前は社会に騙されてしまったのだ!
たつや)え…?えっ?のだ…?
ゆい)人間は愚かだ。
欲張りで傲慢で自分勝手さ。
生物たちの事をなんだと思ってやがる。
たつやも大事な事を忘れちまったんだ。
たつや)さっきからどうしたんだよ。
うどんになんか入ってたんか?!
ゆい)しかも!
最近人間はアルコール消毒という
核兵器まで持ってる。
マスクやフェイスガードは防衛だけど
アルコールで消毒イコール
完全に戦闘開始を意味する。
げんじ)スプレーで無作為に…
そんなの核兵器と一緒じゃないか...
たつや)おーい、お前ら。結託するな。
もうダメだー。
フリーターのげんじと
OLのゆいは、突然意気投合することがある。
そして独自の世界観を繰り広げることがある。
社会に紛れたくない2人の世界観は、
時として本質的で真実であったりもする。
ゆい)やっべ、、
昨日のおにぎりリュック入ってた。
げんじ)賞味期限は?
ゆい)あー、昨日じゃねーおとといだ。
まあ、大丈夫だろ。
げんじ)大丈夫っしょ。
日本のコンビニは凄いから。
ゆい)鍋入れまーす。汁ちょうど残ってる。
たつや)おい、やめとけって。
さすがにイタんでるんじゃないか?
ゆい)うん、全然食える!うまい!
シメのうどんが少なかったせいか、
げんじもお構いなく食べる。
言いたいことを吐き出した2人は
お腹も心も満足げであった。
ゆい)食った食ったあ。
明日の試験だし早めに帰るか。
げんじ)今日もごちそうさまでした!
たつや)おけ。片付けしてから帰れよ。
「翌日」
8時半。
たつやのもとに2件の通知が来た。
「おはよ。
昨日深夜から腹痛がひどい。
胃腸炎かも。たつや大丈夫?」
2人からほぼ同じ文面のラインだった。
たつや)あいつら...
手間のかかる奴らだな…
まるで…
ーーーー完ーーーー
10月4週目土曜日
【短編脚本】「人間がウイルス」
長谷 鉄
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