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組織開発のとてつもない威力について、何も分かっていなかった。


複数企業でフリーランス人事として働く、というキャリアを選択して1年半ほど経った。

自分が働かせてもらっている企業や自分に依頼を頂くお仕事で組織開発のアプローチを行うことが最近特に増えてきた。

組織開発はとても強力で効果に驚くことも多いので、具体的に何が良いのか、そもそも何なのか、現時点の理解を整理しておきたい。


「組織開発」についてほとんど知らなかった。

組織開発の印象は、企業内で研修を担当している人が「人材開発とか組織開発とかを担当してまして…」とカッコ良く言うときに使う言葉だと思っていた。何を指して言っているのか掴みどころのない、ふわっとした印象。

10年前くらいにワールドカフェなどが少し流行った?時なども、「ミッションビジョンバリューを考えるときの対話ツール」くらいの捉え方だった。

今思うと恥ずかしい。

組織開発の歴史は長く、学術的なバックグラウンドと実践が積み上げられている分野。1年半くらい前まではそのことを全く知らなかった。

「組織開発って何なの?」という問いには、実践を重ねて少しだけ自信がついてきた今でも、一言で答えるのは難しいと感じる。

書籍(として有名な、例えば「組織開発の探求」)を見ても、いろいろな要素を包含するコトバなので一律に定義は難しい、とも書いてある。


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組織開発とは一体何なのか?

「組織開発」を理解するために、もう少し市民権を得ている「人材開発」と対比して理解を深めていきたい。

「人材開発」は個人を成長させること。個人が成長するために行う色々な支援施策のこと。

先輩から後輩への指導、上司から部下への気付きを促すフィードバック、研修の実施、ストレッチな仕事機会へのアサインなどなど。


事業の成長は、人の成長にかかっている。

というコトバもあるくらい、人の成長は大事。

このコトバを疑う人はほとんどいない。

とにかく、事業や組織の成長にとって1番の主因となるものは「(個)人の成長」であり、これこそ経営が最も注力すべきこと。


でも、本当に個人の成長こそが経営の注力ポイントなのだろうか?

事業を運営していく中でよくあるシーンを2つほど考えてみたい。


別部署から優秀な3人を集めて新しいセールス部門を作った。考え方がバラバラ、情報共有も少なく、当初意図していた戦略的な顧客開拓ができていない。

ある2年目の社員が、自社プロダクトの評判が芳しくないことを肌で感じ、強い危機感を持った。上司や経営に掛け合っても優先順位高く対応してもらえない。同僚や1つ上の先輩も同じことを感じているが、会社の方針は変わらず1年経ち、新規参入してきた他社に市場シェアを追い付かれてしまう。

この2つの事象は「個人の成長」で解決できるだろうか。おそらく難しい。

「組織」として取り組むべきケースであり、「組織の成長」が求められるケースだ。

組織開発はこういう時に発動する。


「事業の成長は、人の成長にかかっている」は半分だけ正しい。


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働く個人としてはとてもピュアに(各自が見ている)ゴールに向けて一生懸命進んでいる。

でも、先ほどの2つのシーンのように個人の努力だけではどうにもならないこともある。

事業成長にとって、「個人」へのアプローチと「組織」へのアプローチは別物。(当然ながら関係する)


組織の成長は、世の中的にも事業成長と個人の成長を媒介する程度の位置づけだったように思う。図で示すとこんな感じ。

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その前提を疑い、事業成長のために「組織の成長」へ直接的にアプローチできるもの。それが組織開発。

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組織開発と人材開発は、事業成長のための両輪。

実際にやってみて、「組織」にここまで直接働きかけることができるアプローチがあることに本当に驚いた。この点が組織開発の最も偉大な功績。


つまり組織開発の定義とは…


一応、自分なりの定義をしておく。

定義1(組織開発の目的):
事業成長に向け、「これに取り組もう」というチームとしての共通の意思が形成されること(=組織の意思形成)。

意思はチームの行動の起点であり迷った時に立ち戻れる場所になるため、個人が各段に動きやすくなるし、何よりもチームの方向性と個人の行動が連動する。


定義2(組織開発の方法論):
複数人で形成される場を意図的/非意図的に開催し、チームとしての合意事項を成立させること。
合意事項には3つある。3つ全てに合意する必要はなく、いずれか1つでもOK。
1.組織の課題
2.組織の現在地
3.組織のゴール


定義1(組織開発の目的)をイメージで表現するとこれ。

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Photo by Daniel Biber

夕方鳥が群れになり、その群れが様々な姿に形を変えながら飛び回る様子。気流や外敵の存在などを感じとり、誰かが方向を変えるとそれにみんなで連動して動く。個体の動きとチームの動きが完全に連動している。

人もこれと同じように、環境変化をキャッチしつつ各個人とチームが連動した動きをとることができる。これが組織開発の目的。英語表現でいうと、Alignment(アラインメント)ともいう。

この連動して動く鳥たち一羽ずつは、共通のシンプルなルール(合意事項)をよりどころにして自律的に動いているそうだ。個は自由に・自律的に動いているつもりなのに、群れとしては一つの生命体のように意思を持って動くように見える点が面白く、奥深い。


定義2(組織開発の方法論)のイメージはこれ。

ワークショップの画像1

ワークショップの画像2


Illustration by DSCL Inc. Otake Saori

ワークショップなどの場を設定し対話することで合意を形成していくこと。

2~3人で飲みながら組織の課題について対話すれば、もう立派な組織開発。自分の場合は、イラストのように業務時間に関係者で集まり、紙やオンラインのホワイトボードを使って行う場合が多い。

要は発散させたり収束させたりして、最終的には(2人以上の)組織・チームとしての合意事項を形成すること。

ちなみに、意見がまとまらず「バラバラだったね。」という対話の結果になっても、それは尊い合意事項。

もしもその場の空気にみんなが心地よさを感じているなら、その対話したテーマについては「バラバラでもよい」という大切な合意事項が形成される。それをよりどころに、みんなが(このテーマについては完全に自由に振る舞っても良いのねと理解して)動きやすくなるだけ。

もし「バラバラだったね」に気持ち悪さを感じていたり、「もう少し根本的な課題があるはず」などの意見・顔の表情・声色を(ファシリテーターとして)感じたら、次回に課題を深掘るための対話の場をデザインする。


ちなみに、チームで最初に合意すべき内容は「ゴール」じゃなく「課題」。

1.課題2.現在地3.ゴールのどれか1つに合意するだけでも、十分な組織開発になりうると書いた。

ただ、3つのうち優先順位の高いものがある。

直観的には、ゴールと思うかもしれない。組織開発に取り組む前の自分は少なくともそう思っていたし、そうやってきた。最後の到達点から決めるのは当たり前。その到達点を示すのがマネジメントの責任であり、チームを一つにまとめると…

でも、組織開発の文脈では課題への合意が最も優先順位が高い。

最初にゴールの合意に向けて焦らなくてもよい。「我々は何を目指すのか?」という問いから始め、みんなで「ゴールはこれだよね!」と決めても、組織は一つにまとまらない。(課題に合意してからであれば、ゴールへの合意はとてもスムーズ。)

でも、課題が大事って言っても、ゴールがまずないと、課題も決められないのでは?だって「ゴールと現在地のギャップ=課題」でしょ。

自分もずっとそう理解していたが、「ギャップ=課題」という理解は、正しくないケースもあるなと感じてきている。


課題とは「意思」(will)である。

課題から合意することで、組織は意思を持つ。

課題というのは、

組織として目指したい「方向性」であり「衝動のかたまり」。つまりWill。
(組織開発の文脈では「ゴールと現在地のギャップでありやるべき事(Must)」と捉えない方がよい)


課題は実践的にはWillとして捉えた方がよいと感じる。方向性であり、衝動のかたまり。

人に置き換えて考えると、本当にその人が成長するきっかけは、その人自身が課題に気付くことから始まる。

「あー、自分は本当に周りの意見に耳を傾けてなかったんだなー。」

「あー、本当に顧客のこと何も知らんかったなー。」

これが課題。

難しいのは、「課題」とも言うし、これは「現在地」とも解釈できること。課題(現在地含む)と言った方がよいのかもしれない。

そして、本当の意味で課題(現在地含む)に気付いた時、「やりたい」「やるしかない」と心の衝動も伴う。

気付くきっかけは、上司からのフィードバックかもしれない。部下からの辛辣な批判かもしれない。成功体験を元に自分で気づけるのかもしれない。


課題から合意する必然性は、会社ができる起源が教えてくれる。

起業するときに誰もが一度は通る?であろうリーンキャンバス。

新しい事業(会社)を創るための枠組みだ。

リーンキャンバス

出典:ferret「リーンキャンバスとは 事業計画書を作ろう・実践編」

起業家の熱い想いを表現するこの9つのマスの中に「あなたのゴールは何ですか?」という枠は①や②や③など最初にはない。(⑧に「成功の定義は?」としてでてくる)

リーンキャンバスでも最も大事なことは、どんな課題」(①課題)を解決したいのか、「それは誰の課題か」(②顧客セグメント)という箇所だと言われる。事業を進めながら⑦⑧⑨まで実行しても、また振出しに戻って(ピポットして)①②から始める、を繰り返す。


つまり、事業(会社)とは課題を解決するために存在する。だから組織も課題を解決するために存在するのであり、優先順位高く合意すべきは課題ということになる。

課題があり、それに魅了されるから人も集まってくる。売上げ100億円にしたいというゴールやKPIに人が集まってくるのではない。課題が「方向性」であり、「衝動のかたまり」だから人が集まる。

ということで、ゴールから考えるよりも、課題から考える方が自然な思考の流れなのだと思う。

ちなみに、ゴールとは、

課題が解決された一時点の状態
(一時点の成功を定義したもの)

売上げ100億円も、課題解決が成功した一時点の状態でしかない。


実際の組織開発をどう実践してきたのか。

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自分がこの1年半でお手伝いしてきた中で、組織開発のアプローチを活用してきた中で3つほど事例を簡単に整理したい。

3つとも人の成長ではどうにもならない課題という点が同じ。そういう状況の中で、組織・チームとしての対話の機会を設計し、ファシリテートする。(事例1は詳しめに説明する)

事例1
経営者は評価制度を作り公平な評価をすることが組織課題の重要事項と考えている。一方、事業のキーマンは別の組織課題を重要事項と考えている。(どちらかというと評価はあまり重要でないと捉えている。)

こういう状況は人事としては結構あるかもしれない。

伝統的なアプローチだと、経営と事業キーマンの考えがズレているので、人事が間に入って調整し組織としての合意を形成する。キーマン一人ひとりに個別にアプローチし、なんとか組織全体としての合意事項に持って行く。(これはこれで合意が成立しているので、立派な組織開発アプローチではある。)

それに対して、昨今の組織開発のアプローチはとてもシンプル。経営者とキーマンが同じ場に集まってもらい対話する。この事例の場合は、「今組織の一番重要な課題とそれに対する打ち手は何か?」について合意するためのワークショップを実施した。(その組織課題が評価制度で解決するなら評価制度構築を進めれば良いことになる)

人事はファシリテーター。事前にヒアリングした事業キーマンが考える組織課題を個人名が分からないよう整理し、対話の材料として利用する。

経営者は議論には直接は参加しないが、その場に陪席して対話を聞いている。3班ほどに分かれたキーマン4人ずつで対話。

経営者がいると意見がでないと心配かもしれないが、それは最初だけ。対話に熱を帯びてくると全く関係なくなる。

最終的には、「目標の認識合わせができていない事が課題」ということが合意された。目標設定やその摺合せに時間をかけてしっかりやろうね(≒評価制度構築は方向性として良いよね)、という組織としての合意が生まれた。

この3時間の対話の場を設けておくことで、目標設定や評価制度への事業キーマンのコミットメントは全く異なってくる。

経営者も最後に、「目標の落とし込みに手間暇をかけることがこの組織規模になると改めて大事だと気付いた」「課題のそもそも論を問うことにドキドキしていた」などを自己開示され、良い場になっていた。


事例2と3は簡潔に。

事例2
カルチャーの異なる2社が統合し、会社が目指す方向について従業員がまだ手探り&様子見で動いている。

(アプローチ)
・従業員サーベイを実施し結果を整理(eNPS)
・サーベイ結果を対話の材料に、部別に組織課題について対話するワークショップを実施
 ※経営者も部別の対話の中に当事者として加わる

(結果)
・当初事業キーマンの中には、チームで対話することに積極的でない場合もあったが、実施後「やってよかった」とならない部署は一つもなかった。各部署で「明日からすぐに組織としてやること」が具体的に決まり動き出していた。
・経営としても、組織の課題についてフラットに対話しながら把握できる良い機会となっている様子だった。
・総じて、もっと早く組織に関する対話をやっておいても良かったという前向きな反省と、次回以降も続けていく旨を合意されていた。
事例3
経営としては従業員にもう少しボトムアップで自律的に動いてほしい。
従業員はトップダウンで経営されてきた過去もあり、様子を伺っている。

(アプローチ)
・OKRを組織の課題を対話するきっかけとして導入
・課題に対する対話を重視しつつ全社/事業部/個人OKRを設定
・特に事業部→個人への落とし込みをワークショップを取り入れながら丁寧に実施


(結果)
・「会社が何を目指しているのか理解できた。」という(OKR本来の趣旨に沿う)声がたくさんあがった。
・経営としても、OKRやワークショップの対話の中で、普段の仕事からは見えにくい、会社や組織についての社員の考えを知る機会になっている様子だぅた。



OKRって、、組織開発じゃないよね?

事例3に、OKRで組織開発をしたことを記載した。

「OKRって、組織開発なの?」という疑問が沸いたかもしれない。

実はOKRは組織開発そのもの。OKRは経営管理ツールなのだけれど、対話に重きを置いた組織開発ツールでもある。

Objectives(O):目的や定性ゴール
Key Results(KR):Oの達成を測る指標

と教科書的には説明されるけれど、自分の理解ではOはゴールではなく、課題を表現したもの。(KRはゴール。)

例として以下の図を見てほしい。Objectivesの「サービスの知名度を上げる」。これは「サービスの知名度が上がっていない!こんな良いプロダクトなのに、もっと認知されたい!」という課題(衝動)を前向きに、きれいに言っているだけ。

OKRの具体例_トルテオ

出典:Torteo 「OKRとは?Googleが採用した目標設定の導入までの流れを解説」


ということで、実はOは課題。

Objectives(O):課題であり、組織の「衝動」を入れるための器
Key Results(KR):Oの達成を測る指標


これは、先ほどの事業(会社)を創るためのリーンキャンバスで課題を考えて、その課題が解決された状態をゴールとしているのと全く同じ手順。

課題から考える方が、組織や人にとっては自然な営みであることを述べたが、OKRが優れているのは、その思考手順を教えてくれたこと。

「O(=課題)から考えるんだよ。そうすると目標には衝動が宿るし、考えやすいんだよ。そして、組織を一つにするんだよ。」ということ。


Oに衝動が乗っているなら、Oは定量でもよい。

何回かOKRを回していると、課題から(Oから)考えることがフィットしないことがある。

例えばだが、市場の成長率・株主との約束・従業員給与が払えるライン等の諸々の制約があり、「今期は20億円売上は必達。そこは死守すべきライン。」みたいな時。

「20億円」行くことがいかに大事かを経営や事業キーマンと腹を割って対話すれば、組織共通の強い意思となる。

その時のOは「売上げ20億円」でもよい、と個人的には考えている。20億円に組織としての衝動が乗っているし、方向性も明確。

「Oは定性であるべき」と教科書に書いてあることを遵守してしまうと、本質を見誤るので気を付けたい。Oは組織の衝動を入れることができる器。


最後に、他責/悪口/無関心が引き起こす”逆の組織開発”。

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これまで、事業を成長させる「組織開発」について書いてきたが、事業を停滞させる「逆の組織開発」も存在する。

組織にとって良くない振る舞いとして挙げられる、他責/悪口/無関心。

何らかの大事なシーンでそれらが見過ごされることで、(暗黙的に)組織の合意事項となるので、注意が必要。

飲み会などで愚痴をこぼす等は健全な範囲だと思うが、ミーティングなど公式な場でも他責な批判や悪口が繰り広げられる場合は非常にもったいない。そこにはみんなの(実は前向きな)衝動が隠れているので、是非とも組織開発のアプローチを活用して課題に昇華させ、チームを成長させる衝動に変えたい。

大事なことは、「組織に向き合っていないと(組織開発に定期的に取り組んでいないと)”逆”組織開発が必ず始まる。」という事実。

組織は何もしなくても成長し続けるなんてことはあり得ない。人が成長するために、機会を与え続けなくてはならないのと同じく、組織にも定期的に対話の機会し合意を形成する機会(組織の意思形成)を与え続けていく必要がある。


今回はこれで終わりにしますが、次回は以下のような内容を書きたいと思っています。

・ワークショップ以外の組織開発を、日本企業はいろいろやってきている。
・人事制度は意思決定から始まる。組織開発は意思形成から始まる。
・組織開発は誰の責任なのか。
・伝統的HRの「個人へのアプローチに偏りすぎ」問題
・組織開発で行われるサーベイの質、対話される課題の質は、高くなくても全く問題ない。
・組織開発を継続すると企業文化に昇華する。そういえば、リクルートは組織開発と人材開発の両輪をゴリゴリに回していたかもしれない。
・組織開発の本質的理解は社会構成主義の理解があればぐいっと進む。
・組織開発の入り口に立たせてくれる資料や書籍

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