キャリアオーナーシップの先にある「幸福」とは?「哲学対話」で向き合うキャリアオーナーシップの本質
パナソニック コネクト株式会社で国内約1万人のキャリアデザインを担う中島さん・岩本さん・三上さんは、キャリアオーナーシップの先にある「幸福」について理解を深めるため、人事・総務部門向けに「哲学対話(※1)」を導入されました。今回は企画者の3名と実際に参加されたコーポレート部門人事部の松村さんに実施の背景や感想をお伺いしました。
グローバル化する中で、リベラルアーツが求められている
ーーー御社がキャリアオーナーシップを社員へ浸透されるなかで、まずは今回、人事の皆さん自身にキャリアオーナーシップについて本質的に考えてもらうために哲学対話を実施しました。改めて、哲学対話を活用するに至った背景を教えてください。
中島さん:いま企業のグローバル化に伴い、歴史、宗教、音楽、哲学といったリベラルアーツが求められてきています。これまでは日本の人口が多く国内だけでも十分に稼げる時代でしたが、少子化の加速によりグローバルマーケットでの事業展開も加速しなければなりません。
教養を含むグローバルな知識が求められる時代において、社員や人事がリベラルアーツの世界に入っていくことは大事だと思ったことが一つ目のきっかけです。
キャリアオーナーシップがなぜ必要か、一人ひとりが「深く思考する」ことを訓練する
中島さん:二つ目は、パナソニック コネクトが2023年4月にジョブ型の人事制度を導入しました。この制度では、ハード面としての制度導入とソフト面としてのキャリアオーナーシップの浸透という両輪をうまく回すことで「CONNECTers' Success」と呼ばれる社員の成功と、それに伴う企業価値の継続的な向上の両方を実現することが狙いです。
このサイクルを作り出すための基本となるキャリアオーナーシップを持つとはどういうことか、会社が一方的に伝えるだけでなく、社員一人ひとりが考えていくことが重要です。このような答えのない世界に入る際には「考える力」が大事になりますが、考える力を鍛えるにはやはり哲学のような深い思考力を求められる訓練をしていく必要があると思っていました。
CHROの新家とも話をし、哲学対話を入り口にして表面的なキャリアオーナーシップではなく「なぜ必要なのか」「その先に何があるのか」という本質的なところから考え続けられる人材を育てるために、まずはそれを推進する人事のメンバー向けに実施しました。
お互いの存在について考えるきっかけとしての「哲学」
ーーー企画の初期からお話をさせていただいた岩本さんは、どのような想いでご活用に至られたのでしょうか。
岩本さん:弊社がパーパスとして「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」と掲げていますが、私たち一人ひとりのパーパスって何だろうと企画を進める中で考えていました。
私はいまデザイン思考を学んでいますが、例えばここにあるペットボトルが誰かの意思でデザインされて置かれているように、世の中にあるものは全てが何かの意志でデザインされてそこに存在しているんです。
私も皆さんも、何かの意志でそこにいて何かのご縁で一緒にいると思うんです。その存在をお互いに考えることのきっかけが「哲学」なのかなと感じていたので、人事・総務部門のメンバーが「哲学」を通して人と人との関係性を感じるきっかけになれば良いと思い、取り組ませていただきました。
哲学者の「本当にみんな共通の幸せは無いのか?」という問いから「幸せはひとそれぞれ」を考え直すことができた
ーーー今回は「キャリアオーナーシップの先にある『幸せ』とは何か?」というテーマで哲学対話を実施しました。実際に哲学対話を実践いただいていかがでしたか?
松村さん:最初は「幸せ」と「哲学」って何?私たちは何を受けさせられるんだろう?と思っていました(笑)。
実際に哲学対話に参加してみると、[幸せ」について言葉にして発することで改めて自分に問いをなげかけることができたり、他の人の意見を聞いて新しい気づきが得られる場でした。この哲学対話では相手を否定しないような場づくりがあったので、自分とは違う意見があっても一度自分の中に落とし込んで受け入れてみることで、自分が何を違和感として感じるのかを深掘って醸成させるという良い経験ができました。
松村さん:梅田先生からの問いかけでも気付かされることがありました。
対話の最初では、ほとんどの人が「幸せ」は「ひとそれぞれ」だという意見でした。そこで梅田先生が「本当にみんな共通の幸せはないのでしょうか?」と問いかけてくださったことで、「自分の幸せ」と「他人の幸せ」を個々に切り離して考えていましたが、実は繋がることもあるのではないかと、みんなで違う視点で考えることができました。
松村さん:さらに、総務と人事のマネージャー同士が交流できたことで横のつながりができました。お互いの組織の話なども今後しやすくなりましたし、コミュニケーションの場としてもとても良い機会でした。
参加した皆さんが楽しそうだったので、今回参加できなかった方は「そんな場があったのであれば行きたかったです!」と残念がっていました(笑)
「モヤモヤのままでいい」ことで、他者にも自分自身にも「問いを投げかける」ことができた
ーーー普段から皆さんは様々な研修やワークショップを受講されていると思いますが、哲学者がファシリテーションに入ってテーマについて探求する「哲学対話」のスタイルはどのように感じましたか?
松村さん:モヤモヤのままでいいと言われたことは印象的でした。私達の仕事は「解」を出していくものが多いので、「何か答えを導き出さないといけない」という前提があります。でも哲学対話の場では「話がまとまらなくていい」というルールがあったことで「それでいいんだ」と思い、まずは口に出して自分の中で整理していくことができました。
先ほど中島から話があった「考える力を養う」良い訓練になりましたし、他者に対しても自分自身に対しても「問いを投げかける」ことができ、とても学びのある研修でした。
三上さん:最初はそもそも哲学がどういう考え方なのかあまりよくわかっていませんでした。でもあるとき、パナソニック コネクトのコアバリューについて話した際に、会社の定義がありつつも、捉え方はひとそれぞれいろいろあると思ったんです。
哲学対話の機会を通して、私自身も言葉一つに対して捉え方を考えたり、本を読んだりする機会が増えました。
当日も、幸福というテーマ一つであれだけの意見が出るのはすごいと思いましたし、本当に色々な意見の人がいる中で自分は生活をしているんだと実感しました。
一人ひとりが持っている違う考えを互いに理解し合うきっかけになった
ーーー哲学対話の後日、皆さんが対話を通して見出した「幸福」について哲学者がさらに分析してレポートさせていただきました。哲学分析レポートはいかがでしたか?
中島さん:レポートの内容では「誰一人同じものがない」というところが実はキーだなと思いました。同じテーマについて考えてもこれだけ意見が違うからこそ、対話の場を通して「多様性」を実感できたと思います。だからこそ本当の意味で一人ひとりが持っているものをお互いが理解をして、皆さんが仕事においても連携する一つのきっかけになったのではないかと思いました。
また参加者からは、頂いた哲学分析レポートの言葉の中ですごく響くキーワードがあったと聞きました。他の皆さんにもきっとそれぞれ響いたものがあったと思います。
湯浅(哲学クラウドBizマネージャー):私も他の参加者の方から「哲学分析レポートの中で梅田先生がおっしゃっていた“『自由』『多様性』というワードは、共通の本質を探る議論を阻害してしまうマジックワードにもなりうるものです。”という指摘にちょっとドキッとした」とお伺いしました。皆さんお一人おひとりが持ち帰ってくれたものがあれば嬉しいです。
松村さん:哲学分析レポートでは、対話を通して考えが変化した“After”の、「ひとそれぞれだからこそ対話によって理解を深め合う」ということが印象的でした。
対話の中では、些細なことで幸せを感じる人もいれば、私は幸せなんて感じませんという方もいたり(笑)、幸せの価値観はひとそれぞれだから考えても仕方ないと皆さんが思っていたところから、哲学対話で理解し合うことで「共通している幸福論もある」と思えるようになったので、レポートでも改めて価値を感じました。
研修受講後も参加者の皆さんとテーマについての会話がはずんで、良い研修だったなと振り返って思います。
キャリアオーナーシップとウェルビーイングについて今後も継続して対話したい
ーーー今後の展開について、お考えをお聞かせください。
中島さん:もう一度同じメンバーでできると良いですね。今回の哲学対話を通して皆さんにどんな変化や行動変容があったかを確認しながら、キャリアの文脈と幸せが繋がっていくのであれば、このプログラムを社員の皆さんへ来年度に提供していけると考えています。
岩本さん:受講したメンバーからの感想で、「働くことの意味」や「会社で働く意味」「仕事とプライベートのあり方」などについて考えたいという話があったので、「キャリアオーナーシップとウェルビーイング」についてのテーマは今後も継続して対話すべきだと改めて理解しました。今回実施したメンバーがどのように日々行動して、次回集まった際にどのような変化があったのかすごく楽しみです。
哲学的に深く考えることで、本当に解決すべき課題が見えてくる
ーーー最後に、これからの時代や社会において「哲学」にどのような意味や可能性があると感じられますか。大きな問いですが、ぜひお聞かせください。
中島さん:古代ギリシア時代から2000年以上続いている哲学にはやはり本質的な価値があると思います。一方で私たちは残念ながら、哲学というとちょっと自分たちとは違うんじゃないかと線を引いてしまう。でも実はヨーロッパやアメリカでは普通に哲学を学んでいますよね。冒頭でもお話ししたように、日本にいる私たちもグローバル化の時代においては哲学やリベラルアーツを学ぶことが求められていると思います。
岩本さん:変化の激しい「人生100年時代」において私たちが一緒に働いていることは運命だと感じています。大袈裟かもしれませんが運命共同体として、豊かな人生に向けて応援しあえる仲間でありたいですね。
会社が大きくなればなるほど、周囲とのコミュニケーションについて目を配ることが重要だと思います。周りのメンバーがどんな人で何をしているのか、わからないというのは好ましいことではありません。「上司」や「部下」という肩書きは偶然与えられているものなので、一人の人間として向き合い、お互いがどんな人で何を考えているのか、持っている価値観などを知るきっかけとしても、哲学対話の価値はあると思います。
三上さん:会社で働いていると、スピード感を持って考えることが求められますが、それにとらわれすぎると、目の前の課題だけに注目し、本質が薄れていくと思います。時には立ち止まり、哲学的に問いを立てて深く考えることで、多様な問題の中から本当に解決すべき課題が見えてくるのではないでしょうか。
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