フェミニズムとジェンダートラブル【長尺版】の注釈

5/2公開の動画においての注釈が長すぎて、YouTubeの概要欄に入り切りませんでした。そのため、noteに動画の注釈を載せます。YouTubeをご覧いただいていない方にとっては全く関係のない記事ですので、その場合はスルーください。


*1 ユダヤ系のディアスポラ(民族離散)のうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々およびその子孫

*2 ユダヤ教の会堂。元々は聖書の朗読を行う会場だったが、現在は各地のディアスポラのための集会場(教育や婚礼の機能も持つ)となっている

*3 ドイツの哲学者。解釈学というテクスト解釈の技法を研究する哲学の代表者。

*4 Philosophy and LiteratureはJohns Hopkins University Pressが出版するアメリカの学術雑誌。(1977年創刊)発行部数が1000部以下と少なく、実物を見る機会はほとんどない。

*5 ジュディス・バトラー(生と哲学を賭けた闘い)|藤高和輝
P3

*6 ジェンダー・トラブルがどのぐらい難解かをイメージしていただくために、著書の中で出てくる「本書においては特段難しくない内容」を如何に記載します。このような内容がずっと続くとイメージすれば、なんとなく感覚が掴めると思います。

ジェンダー・トラブル p29
「したがって、セックスそのものがジェンダー化されたカテゴリーだとすれば、ジェンダーをセックスの文化的解釈を定義することは無意味となるだろう。ジェンダーは、生得のセックス(法的概念)に文化が意味を書き込んだものだと考えるべきではない。ジェンダーは、それによってセックスそのものが文化に対応するということにはならない。ジェンダーは、言説/文化の手段でもあり、その手段をつうじて、「性別化された自然」や「自然なセックス」が、文化のまえに存在する「前ー言説的なもの」ーつまり、文化がそのうえで作動する政治的に中立な表面ーとして生産され、確立されていくのである。」

*7 「私はちゃんと読めてますけどね」とは一言も言っていません。ちゃんと読めているとは到底思えないです。【有限性の後で】に関してもそうでしたが、こういう本は一生かけて読み解いていかないといけませんね。

*8 YouGovによる2018年の調査(イギリス)
https://d25d2506sfb94s.cloudfront.net/cumulus_uploads/document/4n9a4z73zz/InternalResults_150924_feminism_Website.pdf

*9 この辺りの背景は、ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』にとてもわかりやすく描かれています。過去に『高慢と偏見』について解説していますので、よろしければご覧ください。
【高慢と偏見|ジェイン・オースティン】について紹介したい
https://www.youtube.com/watch?v=t6ey92yhFf0&t=7s

*10 この宣言の内容を簡単に表すと『人権宣言』において「人」とされている文言を「女性」に、「市民」とされている文言を「女性市民」に書き改めた条文だと言えます。第三者のサイトですが、以下で全文が紹介されているので参照されたし。(https://ch-gender.jp/wp/?page_id=1667)

*11 まだ女性の権利主張が一般的でなかった社会でそれを擁護したということもあり、ニコラ・ド・コンドルセはフェミニズムの歴史の中でも特別な地位に置かれている男性です。

*12 この本では特にルソーの『エミール』に対する批判の意が込められています。
確かにルソーは『エミール』で「少女に対する教育は少年のそれとは違う」というようなことを言っていますね。

*13 とはいえ、メアリー・シェリーが取り立ててフェミニズム活動をしていたという記録は残っていません。あくまでも雑な想像です。

*14 クエーカー教はキリスト教プロテスタントの中でも左派に位置し、日本ではキリスト友会などと呼称されます。現在は北米での信者数が12万人と比較的信者数が少ない団体ですが、彼らが主張する平等主義は奴隷解放や男女平等を(当時にはとても珍しく)目指すため、フェミニズムの発展に大きな影響を与えました。また、クエーカー教徒は長い間プロテスタント主流派(ピューリタン)から迫害を受けていたこともあり、差別や抑圧の解放に対して非常に強い意識を持っていました。セネカフォールズ会議においてもルクレシア・モットが率いる数十人の信徒が協力したと残っています。

*15ウジェニー・ニボワイエは奴隷廃止や死刑撤廃などの論者でもありました。この時代のフェミニズムは多くの場合、奴隷廃止や死刑撤廃の思想を含みながら発達しています。第二波フェミニズムにおいて反キリスト教的な人工中絶容認運動があったように、一口にフェミニズムと言ってもそこにはさまざまな付随した思想が含まれます。

*16 ハンガーストライキに始まり、放火や破壊活動にまで活動の対象を広げていたようです。

*17 (アメリカに関して)州単位での女性参政権でいうと、ワイオミング州が1869年に部分的に女性参政権を認めています。
(イギリスに関して)1918年には財産量などの条件付きで女性参政権が認められています。
(フランスに関して)1871年にパリ・コミューンにおいて一時的に女性参政権が試されています。

*18 個人的にとても好きな作品です。文庫本が発売されていますので、ご興味があればぜひ読んで見てください。また、サブチャンネルで解説もしました。よろしければそちらもご覧ください。

『人形の家|ヘンリック・イプセン』を紹介したい【雑談#31】
https://youtu.be/RtP6wJvUbkw

*19 18世紀中盤の女性労働に関するこちらの論文が非常に興味深いです。長いですが、もしご興味があればご覧になってみてください。
https://core.ac.uk/download/pdf/235275814.pdf

*20 もちろん、このような傾向はヨーロッパの貴族のうちに、または日本の大名のうちに昔から存在していましたが、それが中流階級まで広がったのは間違いなく産業革命の影響でしょう。

*21 ちなみに日本においても同様の流れはありました。その最たるものは市川房枝と奥むめおの援助のもと、平塚らいてうが立ち上げた「新婦人協会」でしょう。

*22 とはいえ、ドリス・レッシングはウーマンリブ運動への参加を拒否しています。

*23 「women's liberation」の略語

*24 ケイト・ミレットがニューヨーク州ポキプシーに作った建物は、その後ツリーファームというコロニーになり(現在はミレット・アートセンターという名称)様々なアーティストの活動の場となりました。

*25「le Mouvement de libération des femmes」の略語

*26 その後、80年にコペンハーゲン、85年にナイロビ、95年に北京で世界女性会議が開催されています。

*27 正式には「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」

*28 昨今のフェミニズム界隈で起こる争いも、本質的にはこの頃に始まった軋轢と同じ性質を持つものです。それは特にAV新法に関わる議論で顕在化しました。

*29 ライオットガールの綴りは「Riot grrrl」です。
これは「girl」と犬の唸り声「grrr」を合わせた造語です。
こんなところにもライオット・ガールの精神性が見え隠れしますね。

*30 この「ガール・パワー」をマーケット戦略に用いたのがスパイスガールズです。
このマーケット戦略には、ライオット・ガール側から強い批判が投げかけられたと言います。

*31 厳密には1964年の公民権法成立以前に黒人女性を雇っていなかった問題についての訴訟

*32 ラディカルフェミニストは、同じベクトルで結婚制度に関しても懐疑的な目を向けます。ラディカル・フェミニストの代表者の一人であるアンドレア・ドゥウォーキンは「結婚はレイプを正当化する制度である」と言い、結婚という制度も女性差別を助長するものだと主張しました。

*33 論文
https://digitalcommons.nyls.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=2126&context=nyls_law_review

*34 このときのある上院院議員の発言が、当時の社会におけるセクハラに対する感覚を物語っているでしょう。「それがセクハラになるのだったら、連邦議会の上院議員の半数が訴えられることになる」

*35 それから33年経った現在もクラレンス・トーマスは最高裁判事としてそのキャリアを続けています。現在71歳。

*36 厳密に言うと、ジェフ・ベゾスはジェネレーションXよりも2年ほど早い生まれです。(ベビーブーマー世代)

*37 拉致された生徒のうち、その日のうちに逃げ出したのが57名、その後の数年で数名が逃亡し、2016~2018年の間にはボコ・ハラムとナイジェリア政府との交渉により100名近い女子生徒が解放されました。彼女たちは拘束中にイスラム教への改宗と、戦闘員との結婚を強制されたと話しています。(軟禁中に出産した女性もいます)

*38 ジェンダー・トラブル p19
「これまでのフェミニズムの理論では、女を十全に適切に表象する言語をつくりだすことが、女を政治的に可視化するのに必要な方策だと思われていた。(中略)だがフェミニズムの理論と政治の関係をこのように考える風潮は、最近では、フェミニズムの言説の内部から問題視されるようになってきた。女という主体そのものが、もはや安定した永続的なものとは考えられなくなってきたからだ。「主体」ははたして究極的に表象されるもの、いや究極的に解放されるものとして存在するのかどうか、疑問を持つような材料が数多くあらわれてきた。」

*39 ジェンダー・トラブル p.27
「アイデンティティの連帯をつくるために、単一な「女」というカテゴリーが何の疑問もなく引き合いに出されるが、ひとたびセックスとジェンダーを区別しようとすると、とたんにフェミニズムの主体には亀裂が走ってしまう。そもそもセックスとジェンダーの区別は<生物学は宿命だ>という公式を論破するために持ち出されたものであり、セックスの方は生物学的で人為操作が不可能だが、ジェンダーの方は文化の構築物だという理解を、助長するものである。」

*40 ジェンダー・トラブル p28
「セックスの不変性に疑問を投げかけるとすれば、おそらく、「セックス」と呼ばれるこの構築物こそ、ジェンダーと同様に、社会的に構築されたものである。実際おそらくセックスは、つねにすでにジェンダーなのだ。そしてその結果として、セックスとジェンダーの区別は、結局、区別などではないということになる。」

*41 ジェンダー・トラブル p44
「ジェンダーとは、その全体性が永久に遅延されるような複雑さであって、ある特定の瞬間に全容が現れ出るものではない。だから開かれた連帯というのは、目のまえの目標にしたがってアイデンティティが設定されたり、放棄されたりするのを認めるものである。それは、定義によって可能性を閉じてしまうような基準的な最終目標にしたがうことなく、多様な収束や分散を容認する開かれた集合なのである。」

*42 性にまつわる常識が、私たちが全て消えてなくなった後も存在するか?と考えてみるとわかりやすいかもしれません。例えば「女らしさ」は私たちが存在しなくなれば、そこに絶対的に「ある」ものではない気がしますよね。やはり文化に創造された概念っぽい。では「生物学的女性」はどうでしょうか。私たちが消え去った後も絶対的にそこに「ある」でしょうか。こう考えると、それってかなり微妙なんですよね。

*43 LGBTQの「Q」はクィア(queer)といって、LGBTに当てはまらない性的マイノリティや、性的マイノリティを広範的に包括する概念です。元々「queer」には「変態」という意味があり、侮蔑的な意味で使われる語でしたが、これを戦略的に利用することで、現在ではそこから侮蔑的な意が失われつつあります。これもジェンダーの解釈を変える一つの例だと思います。

*44 逆に言えば「性同一性障害に権利を」と運動してしまうと、それがかえってそうでない側の人たちとの分断を産むというわけですね。

*45 ジェンダー・トラブル p125
「ではフロイトの因果関係の物語を逆転して、一次気質を法の結果だと捉えることには、いったいどんな意味があるのだろう。『性の歴史』の第一巻でフーコーが批判したのは、抑圧的な法に関して、存在論的な全一性と時間的なまえを温存する起源としての欲望(ラカンの用語では『欲望』ではなく、快楽)を想定する抑圧仮説である。」

*46 ジェンダー・トラブル p46
「「理解可能な」ジェンダーとは、セックスと、ジェンダーと、性的実践および性的欲望のあいだに、首尾一貫した連続した関係を設定し、維持していこうとするものである。換言すれば、連続せず首尾一貫していない奇妙な代物は、連続性と首尾一貫性という既存の規範との関係によってのみ思考可能となるので、こういった奇妙な代物をつねに禁じると同時に生み出しているのは、まさに、生物学的なセックスと、文化的に構築されるジェンダーと、セックスとジェンダー双方の「表出」つまり「結果」として性的実践をとおして表出される性的欲望、この三者のあいだに因果関係や表出関係を打ち立てようとする法なのである。」

*47 ジェンダートラブル p21
「事実、フェミニズムの主体としての女の問題を考えていくうちに、法の「まえに」存在する主体ー法のなかで、法によって表象されるのを待っているような主体ーなど、ないかもしれないという可能性が出てきた。おそらくこのような主体は、時間的な「まえ」という概念と同じく、法自身の正当性を主張するための架空の基盤として、法によって作り出されたものである。法のまえに存在する主体が存在論的な全一性をもつという、広く行き渡っている仮説は、古典的リベラリズムの法構造を成り立たせている基盤主義の寓話ー自然状態が存在するという仮説ーの現代の痕跡と理解した方が良いだろう。」

*48 ジェンダートラブル p24
「私が示唆したいのは、フェミニズムの主体の前提をなす普遍性や統一性は、主体が言説をつうじて機能するときの表象上の言説の制約によって、結果的には空洞化されてしまうということである。実際フェミニズムに安定した主体があると早まって主張し、それは女という継ぎ目のないカテゴリーだと言った場合、そのようなカテゴリーは受け入れ難いと、あらゆる方面から当然のように拒否されてしまう。このような排除に基づく領域は、たとえそれが解放を目的として作られたものであろうと、結局は、威圧的で規制的な帰結をもたらすものである。事実フェミニズムの内部で起こっている分裂や、フェミニズムが表象していると主張しているまさにその「女たち」からフェミニズムに対して皮肉な反発が起こっていることは、アイデンティティの政治に必然的な限界があることを示すものである。」

*49ジェンダー・トラブル p250
「フェミニストの『わたしたち』は、つねに幻の構築物でしかない。つまり、それなりの目的はもってはいるが、『わたしたち』という語の内的複雑さや決定不能性を否定し、『わたしたち』という語で一度に女を表象/代表しようとして、その支持基盤の一部を排除することによってのみ、それ自身を構築するような構築物でしかない。」

*50 ジェンダー・トラブル p58
「この意味で、ジェンダーは名詞ではないが、自由に浮遊する一組の属性というのでもない。なぜなら、ジェンダーの実体的効果は、ジェンダーの首尾一貫性を求める規制的な実践によってパフォーマティブに生み出され、強要されるものであるからだ。したがってこれまで受け継がれてきた実体の形而上学の言説の中では、ジェンダーは結局、パフォーマティブなものである。つまり、そういう風に語られたアイデンティティを構築していくものである。この意味で、ジェンダーはつねに「おこなうこと」であるが、しかしその行為は、行為のまえに存在すると考えられる主体によっておこなわれるものではない。」

*51 一般的に、オースティンの分類はパフォーマティブ(行為遂行)的発話とコンスタティブ(事実確認)的発話と表現されます。が「パフォーマティブ」や「コンスタティブ」と表現すると、よりわかりづらくなるかと思い、動画内では「行為遂行的」「事実確認的」という表現を採用しています。

*52 むしろ身体的な行為には言語を超える過剰性があり、
ジェンダー問題に対するアプローチとしてより効果的だとバトラーは考えました。

*53 レズビアンの中でも女性的な振る舞いをする人をFemme、さらにその中でも特別女性的な振る舞いをする人をLipstickと呼称します。

*54 ジェンダー・トラブル p46
「セックスとかジェンダーとかセクシュアリティといった安定化概念によって「アイデンティティ」が保証されるなら、「ひと」という概念が疑問に付されるのは、「首尾一貫しない」「非連続的な」ジェンダーの存在が出現するときである。なぜならそのような存在は、ひとのように見えはしても、ひとが定義されるときの文化的に理解可能なジェンダー規範には合致しないものであるからだ。」

*55 ジェンダー・トラブル p73
「本書は、男の覇権と異性愛権力を支えている自然化され物象化されたジェンダー概念を撹乱し置換する可能性をつうじて思考をすすめ、かなたにユートピア・ヴィジョンをえがく戦略によってではなく、アイデンティティの基盤的な幻想となることでジェンダーを現在の位置にとどめようとする社会構築されたカテゴリーを、まさに流動化させ、撹乱、混乱させ、増殖させることによって、ジェンダー・トラブルを起こしつづけていこうとするものである。」

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