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ペコちゃんキャンディの正しい食べ方


お菓子が閉まってある棚は高く、小学生の時分、手を伸ばしても届かなかった。キッチンに置かれたパイプ丸椅子を取り出してきては爪先立ちでふくらはぎをぷるぷると震わせながら、閉まってあるお菓子のパッケージたちを危うい目視とともに手触り感覚でひとつひとつ確かめていく。これは柿の種、これはミックスゼリー、これは砂糖が振ってあって甘ったるい喉が渇くやつ。どれもだいたいは親の好みだ。僕ら子どものための、というより親父の酒のつまみか、彼らが幼少期好きだったであろう昔ながらの定番お菓子。そもそも好きなものがそんなになかった。そんな中で、たまに見つけるとちょっとだけテンションが上がったのが、ペコちゃんキャンディだった。

ペコちゃんキャンディは常備しているわけでもない。普段のラインナップにも入ってこないし、スーパーの買い物について行ってはいの一番にねだるものでもない。無くてもいいけどあったらなんか嬉しい、そんな立ち位置のお菓子だった。オレンジ、ストロベリー、グレープ、メロン。幼い僕をワクワクさせるには十分なバリエーションだ。どの味にしよう。オレンジが好きだ。いざ、実食のとき。

スティックに包装されたギザギザのビニルを意気揚々とちぎるも、だいたいキャンディ部分に引っ付いてしまっててうまくいかない。食べ初めがまず、もどかしい。なんて馬鹿げた包装をしてるんだと毎度思いながら、やっとの思いで引きちぎるとスティックを指の腹でクルクルと回してみる。斜めに差し込んだ日の光にキャンディが反射し、宝石みたくキラキラ光る。子ども版、ワインのテイスティングだ。これだ、これなのだ。そして目を輝かせながら、はむっと口の中に放り込む。

いよいよペコちゃんキャンディを無邪気に舐めていく。いつしか神経は舌先に集中していく。キャンディ表面のザラつき、凹凸を確かめ、僅かに入った気泡と見られる膨らみを舌先でなぞり、前歯で確信犯が如くガリッと狙い砕くと気泡が開く。そのちょっぴり鋭利な断面を硝子の破片に触れるような心許なさとともにまた舌先で抉っていく。心地よくも棘を刺す感覚の後、微かに血の滲む味がする。これがペコちゃんキャンディだ。ここまで来ると最後まで舐めて終わる必要はない。ガリガリと無造作に噛み砕いていきながら、キャンディのスティック周辺部分だけを残す。奥歯に詰まった飴を舌先でなぞると、唾液と混じってほんのり甘い。次にスティック先端1〜2cm先あたりを噛み、そして潰していく。噛み潰され折れ曲がったスティック。舐めすぎると艶のあった若きスティックがしなびてくるのもまた良い。紙の味もしてくる。そして最後にスティック先端に少々詰まったキャンディを前歯でカリッと齧ってやる。うまい、うまかった。この一連の体験があってこそ、はじめてペコちゃんキャンディが病みつきになるのである。

書いてたらなんだか卑猥になってきた。これが正しい食べ方なのかは知らない(ので共感できる人がいたら連絡してほしい)。ただ嗜む余白がペコちゃんにはある。実際ペコちゃんはどうやって食べてるのだろう。普通に舐めて終わるはずがない。変態性が如実にあらわれる、それがペコちゃんキャンディってもんだ。最近のは緑茶ポリフェノールが入っていて歯にやさしいらしい。うるせえ。ああ、また食べたい。買いはしないんだろうけど、どっかでまた逢えたらね。ちなみに正式名称は「ポップキャンディ」らしい。

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