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「見出しの横並び」は誰かの指示か?

元「向こう側の人間」としてはまったく変に思わないことでも、一般読者からすれば不思議に思うことはたくさんあります。図らずも今回、そんなケースが登場しました。

今回の事件の報道に関し、この話題を提供したツイートがコレです。いろいろなリプがついております。

最初に正解を

最初に正解を申し上げます。大本営発表でも官邸の指示でも電通のお仕事でもありません。
こういう見出しにしかなりません。理由を以下に。

「何がどうした」系のニュースは内容が一緒

まず試しに、このリプを付けた人たちが見出しを付けるとして、これ以外の見出しが果たしてあるでしょうか。ほとんど似たり寄ったりになるのではと推察します(ただし、なぜ暗殺を使わないのかという指摘も一部にありますが、言葉の定義上の問題が含まれると思いますのでここでは触れません)。

今回のこのニュース。各紙1面のトップに据えられています。これは「本記」と言われ、ニュースの最も基本的な情報、かつ最も核心を書きます。つまり、誰が、いつ、どこで、なにを、どうしたというやつ。5W1Hですね。これに則り、一番言わないと、伝えないといけない部分を書きます。

ですから各紙の記事ともリード部分で書かれていることはどこも同じですね。つまり「安倍元首相が参院選の街頭演説中に銃で撃たれた。病院に搬送されたが死亡した。容疑者の男が現場で取り押さえられた」などですね。

見出しもこれらの要素を盛り込んで作ります。ただし、各紙横の並びと称された見出し、一番大きな「主見出し」はニュースの核心を一行で言い表します。

ここでの核心は?言うまでもありません。

安倍元首相(一般の人ではなく、元政治家で元首相。当然「誰か」という要素で名前が見出しに必要)
死亡(いうまでもなく必須)
撃たれた(病気ではなく、銃で撃たれたことにニュース性がある。撃たれたといえば一般的に銃が連想されるので銃は省く)

まず、これらが絶対必要な要素でしょう。応援演説中だったことや容疑者が確保されたことは、見出しの要素ではありますが、主見出しではありません。

文字数との戦い

各社、見出しを作る人(紙面の見出しを作り、レイアウトをする専門部署があります。整理部とか編集部とか呼び名はいろいろ)は、この要素を漏らさないことに加え、文字数と戦います。

見出しは何文字使ってもいいというわけではありません。本来は「読まなくても一目でわかる」のが理想ですが、そうもいきません。それでも大昔から伝わる原則論があり、大体8文字~10文字に収まるように作っているはずです。これより長いとすぐにわからない、逆に短いと必要な要素が落ちてわかりにくくなるためです。そのバランスを取っているということです。

必要な要素と文字数の両面から見出しを実際に作ってみるとどうなりますか。

安倍元首相が銃で撃たれて死亡した

これで16文字。長すぎます(見出しは天地と左右のスペースと文字数によって文字に扁平がかかります。長すぎると扁平がかかりすぎて、ものすごく読みにくいです)。

先ほど言ったように、銃の部分は削ってもいいでしょうから

安倍元首相が撃たれて死亡した

14文字。助詞の「て」、および最後の「した」を取っても意味は通ります。

安倍元首相が撃たれ死亡

11文字。もう一声。「が」を削除しても成立すると考えます(社によっては半角分のスペースを入れているところもありますね)。すると

安倍元首相 撃たれ死亡

10文字。これ以上の要素は削ることができません。

「が」や、撃たれ「て」を入れると、声に出したときリズムが悪くなります。いわゆる「見出しっぽさ」が失われるので、リズムも地味に大事な要素です。

必須要素と文字数を勘案すると、やはりみんな同じ見出しになります。

いわゆるニュースの第一報を伝える記事の場合、もっと大事なところ、核心を書いているわけですから、見出しが同じようなものになるのも当然なのです。逆に同じにならないとしたら、伝えるべき必要な要素が脱落している欠陥原稿となります。

他の面は同じ素材を扱っていても内容は異なります。ですから見出しも当然異なるわけです。

さまざまな憶測や邪推が飛び交うので、微力ながらただしてみました。
願わくば、普段からこれくらい新聞に興味関心をもっていただければ、(功罪含めて)ネットニュースだけではない視野が広がって結構なことだと思います。

そんなことより

一連の情報の流し方、テレビ、新聞問わず同じニュースが大量に流れ、批判を許さないような空気が作られていることのほうが、よほど問題と危惧しています。

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