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あじまんの季節

冬になると、市内のホームセンターの横に小さなおやきの店が立つ。
名は「あじまん」という。
調べてみたら、山形県に本社があるチェーン店で、
毎年、10月下旬から翌年4月あたりまで冬季限定で営業するらしい。

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岩手山に雪が3回降ったらとか、軒下に羽虫が群がっていたよとか
冬の到来を感じる瞬間はいろいろあるけれど、
私の冬は、ホームセンター横にちんまりとたつ空きプレハブに
あじまんの看板が掲げられ、それを照らす灯りが点くと、スタートする。
そしてワクワクしながら、今季最初のあじまんを頬張るのである。

昔から、生クリームよりも餡子をありがたがる性分だった。
だからといってわざわざ和菓子屋に並ぶような上級の舌ではなく
かいわいのスーパーやデパートで売っている団子やおはぎで十分満足した。

母が生きていた頃、病院の付き添いの帰りに必ず寄っていたのが
市中のデパートの地下売り場にあったおはぎのチェーン店。
北海道十勝産の小豆を使った、大ぶりで重量感あるおはぎが売りだった。
かぶり付くと、口まわりも指も餡子まみれになる。
舌にねっとりと絡みつく、濃厚で甘いかたまりは私も母も大好物で
仏壇にも供えるからねと口実をつけ、
私たちしか食べないのに四つ、五つと買い求めたものだ。
母の胃にガンが見つかり、病院へ通う体力も必要もなくなり、
いつしかそんな習慣もなくなった。
そのおはぎ屋も、売り場の移り変わりとともに姿を消した。

聞くところによると、今、おはぎがブームだという。
しかも栗やらカボチャやら青豆やブルーベリーなどなど
見たこともないようなカラフルな見た目に、
絞り袋でかたちを拵えていたりして、洋菓子のようなおはぎである。
きっと、食べるときは懐紙などにおしいただいて
クロモジの楊枝でおごそかに切り分けて口へ運ぶのだろう。
そういう、よそゆき感をまとったおはぎである。

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いいなあ、食べてみたいなあと思いながらも
私の御用達餡子は、やっぱり「あじまん」である。
店先で焼いているから、タイミングがあえば焼きたてに遭遇する。
たいていその場で食べるので「一個お願いします」と頼む。
すると薄い紙に包まれたきつね色が手渡される。
はむっ。皮はもっちりとビロオドのよう舌触りで、餡子の芯まで熱々だ。
口いっぱい広がる、きめ細かな甘さとふくよかな香りときたら。

あてが外れたり誤解されたり、面倒臭くなったり、日々いろいろ起きるが、
へこんだ気持ちを平らにし、いびつな心をほどく力が餡子にはある。
チョコよりも生クリームよりも、私は餡子に救われる。

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秋が過ぎ、今年もあじまんの季節がやって来ましたよ。

そうつぶやきながら、
私と同じ餡子好きだった母の仏前に、一個お供えをした。
殊勝な娘みたいでしょう。
でも、すぐ下げて食べちゃうんだけど。

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