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無邪気な教育 【いつからでも新しく|羽仁もと子のことば】
徹頭徹尾自己の知識と力をもって、わが子を立派なものにつくりあげようと企てるのは、失敗のもとだと思います。あの食物は不消化で、この食物はこういう場合に食べさせてはならないというように、注意に注意して育てた子供はむしろ虚弱で、大勢の中で手も届かず、目も届かずに育てられた子供がかえって健康なのは、その適例でございます。注意して悪いということはないわけですが、いわゆる注意家にかぎって、ややもすると一切万事人力によってわが子を育て得るように思っているのが悪いのです。
人間の力によって、思うがままに子を産むことが出来ないように、生まれたあとの子供も、やはり主として自然の法則によって、順序よき発達をしていくのです。両親はこの自然の法則が、適当に子供の上に行なわれていることを、妨げないだけの注意をすればよいのです。それ以上に思いわずらいをする養育法は、かえって子供を害するものであります。古人の言葉にも、わが子をよい人にしようと思うのは、すでにあやまりである。よくなると悪くなるとは天命である。無邪気に人事を尽して思いわずらわないのが最良の教育法だと言っています。
羽仁もと子著作集 第十巻『家庭教育篇(上)』育児のしおり 1908年より
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上巻は幼児教育について自身の経験から。下巻は自由学園の教育を通して生活即教育の理念を。
はに・もとこ(1873~1957)
青森県八戸市生まれ。日本で初の女性新聞記者となり、1903年、羽仁吉一と『婦人之友』を創刊。1930年に全国友の会を創立しました。このシリーズは、「私どもはいつからでも新しくなることが出来ます」と記した羽仁もと子のことばから掲載しています。
出典:『かぞくのじかん』(休刊中)2021 夏 Vol.56