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サードアイⅡ・グラウンディング ep.22「多様性」
それからすぐにガーデはつてをたどって、タケルの学校で出展用の絵を描いてもらう許可を取った。そして数日後、俺も付き添いで一緒にタケルの学校に出向いた。
先生から紹介を受けてクラスの教壇に立ったガーデは、いつにも増してオーラが輝くようで、思春期の多感な生徒たちは、この美しい青年を前にしてざわめいていた。中にはモデルだということを知っている子もいて、周りの席の子たちにひそひそと耳打ちしている。
ガーデはひとつ咳払いをしてから、いつもの明るい口調で話し始めた。
「えーと、ガーデです。今度、絵を何枚か個展に出す予定なんだけど、みんなにも一緒に作品を描いてもらえたらって閃いてね。なんでかっていうと、そこにいるタケルくんがね、この間、面白い絵を描いてくれたんだ」
皆が一斉にタケルの方を見る。タケルは気まずそうにして俯いた。
「そこでだ。タケルくんのクラスのみんなが一丸となって、おっきな絵を完成させるのって面白そうだなって。それをキミたちの作品として世間に発表したいと思ってね」
教室が大きくどよめいた。ガーデは軽やかな羊飼いの眼差しで生徒たちを眺めていたが、教壇を離れると、手をひらひらとさせながら散歩でもするかのように教室を歩き始めた。
「何だか懐かしいな、教室って。ボクは小学校の高学年から、学校にいけなくなってね。いわゆる、不登校ってやつ。ボクって、けっこう好奇心旺盛で、授業中、じっと座ってなんかいられなくってさ」
と、いたずらな表情で語り掛ける。生徒の押さえた笑いがくすくすと聞こえた。
「それに当時は、髪の色が透けてて変だとか、ガラス玉みたいな目で気味が悪いとか、散々な言われようだったんだよ。ほら、ボクって、こんなに可愛いじゃない?女子には結構モテてたから、男子たちがひがんじゃってさ」
あちこちで笑いがおきた。タケルを見ると、食い入るようにガーデを見ている。
「この目や髪の淡さも、体が思わず動いちゃうのも、れっきとしたボクの個性なんだけどさ。今思えば、それは彼らと異なる、なんだか気持ち悪いものだったんだろうね。だから疎外されちゃった」
教室が静まり返った。
「みんな、ボクのこと、どう見える?キミたちからしたら、もういいおじさんかもしれないけど、気味悪くはないんじゃないかな?でも、このクラスでは完全に異形だよね。けど、そういうのもひっくるめて、多様性の世界っていうんだよ、きっと。学生さん達は、ここで同じ制服着て、同じ時間に同じことやってるから、ちょっとした違いが目に付きやすいんだろうけど、実は、その違いが、個性っていうやつで、本来それは、大事にされていいはずのものなんだ」
ガーデは一呼吸おいてから全員に呼びかけた。
「だからさ、ね、みんなでそれぞれの個性を出しあって、思う存分にアートしようよ。整ってなくても構わない。上手いも下手もない。みんなで、わーって自由にやって、一枚の絵を完成させること。これがミッション。あとは好きなようにやってくれたらいい」
教壇に戻ってきたガーデは改めて全員を見まわした。そして、タケルを指さすと、
「今回はね、ボクが認めた画伯、タケルくんに、リーダー役をしてもらうつもり。今、ちょっと事情があって、彼はボクの家にいるんだ。だから連絡係も兼ねてね」
ガーデはタケルに手を振った。タケルも恥ずかそうに小さく返す。
「じゃあ、そういうことで、あとはみんなでよろしく」
と言うと、さっさと教室を出ていってしまった。俺も一礼して彼の後を追う。
ガーデは小躍りして滑るように廊下を進みながら、「ふふ、楽しみ」と手を口に当てて笑った。